第30話 ハイエルフからの手紙
ママが、セリーヌ大公妃にヤグル族の件を話した翌日、朝早くから、キート
の我が家に、5台の立派な馬車が乗り付けられた。近衛兵の姿もいる。貴族の
邸宅街でもないのに、ご近所にとっては大変迷惑だろうと思うが、この5人に
そんなデリカシーはない。ママとポリーさんに私たち3人が、出迎える。
「マリアさん、こちらに移ってこられたなら、すぐに連絡してくれれば、今
までのように年一回のアリアナの誕生日に会いにいくだけだったのが、いつ
でも3人の子供たちに会えるんですから、なんでも協力できたのに、他人行
儀すぎますぞ。」と大公がいえば、
「そうです。我らも軍を引き連れてお迎えできましたのに。」とタキア第一
公子がつづき、「そうですよ。」とトール第二公子、モリス第三公子、ギア
ナ第四公子が頷く。ポリーさんとママの頬が引きつっている。
「ところで、おとうさま、それを仰るために朝早くから、5人揃っておいで
になったのですか?」すごいママの皮肉がかえるが、
「そんな訳がなかろう、もちろんアリアナやクロシアとシロエに会いに来た
に決まっておろうが。しばらく見ないうちに、大きくなったのう。さあ、お
じいちゃんの傍にきて、もっと良くみせておくれ。」ママの顔色を覗うと、
じっとしてなさいと言うように睨まれた。
「おとうさま、冗談はさておき、大公国国軍のトップ5が、顔をそろえて、
押しかけてこられた訳をお聞かせ下さい。」
「さすが白銀のブリザードじゃ、誤魔化しは利かんか。いや、昨日セリーヌ
からヤグル族の暗躍について聞かされて初めて合点がいったんじゃが、その
話を聞く2日前にエデン王国から飛竜便で文書が届いたんじゃ。その中に、
クミロワ大公国が寛大な対応をしてくれた礼と、今後友好な国交をお願いし
たいというエデン国女王ミューシャ様の親書と、長老評議会筆頭長老ロカ氏
の、そなたたち【天使の刃】3人と、娘3人の世界樹祭への招待状が入って
おったのじゃ。エデン王国に友好国と認められれば魔族界では初めての国に
なるし、人間界のカムール王国と国交を結べるかもしれん。いままで、エデ
ン王国が友好国と認めたのは、人間界のカムール王国の一国のみじゃったか
らのう。カムール王国は人間界で唯一奴隷制度を犯罪行為と見なし、ワグル
帝国と真っ向から対立しておる国じゃ。獣人族も魔人族もエルフも全て平等
であり、ほとんどすべての種族が共存する国じゃと聞いておる。我がクミロ
ワ大公国と同じ理念を持つカムール王国とは是非とも親交を持ちたいと常々
考えておったのじゃ。で、儂はこの招待を受けても良いとかんがえたのじゃ
が、閣僚どもの猛反対にあっての、そこで彼奴らが提案してきたのが、イル
シャの勘当を解いて、第5公子としてエデン王国女王への使者にすることと、
ポリー・セルイースト伯爵にクロシアとシロエを引率してもらい、世界樹祭
に出席してもらおう『ダメ!クロシアとシロエはアリアナと一緒じゃなきゃ
ダメ』・・おお、そうじゃのう。おじいちゃんが悪かった。儂もそんなこと
をする気はないからの。アリアナ許してくれ。」大公の話に思わず割り込ん
でしまったが、孫には超甘いおじいちゃんのお蔭でほっとする。
「クミロワ大公国のSランクハンターを2名も他国に出すのは、わたくしも
賛成いたしかねます。この際、主人とこの子達3人【忍者3姉妹】だけの指
名依頼として、エデン王国への使節役にあててはいかがですか?」と、ママ
が思い切ったことを言う。横のポリーさんも、大公他、4人の公子さえ口を
開け、驚いている。私はこいつ絶対何か企んでると確信する。
「いやいや、マリアさん、その案なら閣僚共も了承するじゃろうが、イルシ
ャひとりならどうでもよいが、この子達3人に何かあったらと、儂は勿論、
こやつ等も心配で気が気でないのじゃ。出来るなら儂が一軍を率いて護衛し
ていっても良いのじゃが、」「父上にそのような真似はさせられません。私
タキアがその任を」「いえ、私トールが」「モリスが」「いえ、ギアナが」
「ええい、うるさいわい。いやすまんマリアさん、アリアナのことになると
こやつ等も自制が利かなくなって困ったもんじゃ。」あんたが一番自制でき
てないと私は思う。
「いいえ、アリアナはそれだけ皆様に愛されているということです。ありが
たいことですが、この子達は3人いれば、クミロワ全軍に匹敵する力は既に
備わっています。魔樹海のSランクモンスター達がスタンピードを起こしで
もしないかぎり、キズひとつ負うことはないと思いますので、先ほどの案で
決定いただきたく考えます。」私は心の中で、ママ、あんた何企んでんのと
叫んだ。




