第27話 初めての馬車の旅②
初めての馬車の旅は、本当にいろいろ有り過ぎ。
旅が進まない。私が悪いのか。
ニューセルムを出発して、4日経過した。行程も半分を過ぎており忍者3姉
妹の3人も馬車に慣れ、苦い酔い止めポーションのお世話にならなくてもよく
なっていた。このあたりから、魔族の集落もちらほら見えてきたので、大公都
キートに近づいて来た実感がしてきた。する事も無いので、窓から外を眺めて
いると、急にシロが窓から身を乗り出した。
「危ないじゃないの、シロ、どうしたの?」
「向こうで、何かが燃えているの。」と、右手の北西方向を指さす。
「ママ、盗賊かな、集落が襲われているのかな?」と聞くと
「アリアナ、あなたフライで確認できる距離まで近づいて、様子を見てきて。」
「解った。」 すぐに扉を開け、フライで飛び出す。街道から3キロほど行
ったところに、柵で囲われた小さな集落があったが、燃えているのはその中の
一番大きな家であった。しかし、人の姿が見当たらない。水魔法で火を消し、
すぐに引き返す。
「ママ、小さな集落があった。その中の一番大きな家が燃えてた。でも、人
の姿が何処にも見えないの。」馬車の窓際に戻り、まず見てきたことを言う。
「イルシャ!馬車を止めて、このままには出来ないわね。クロとシロも一緒
に来て」飛び出そうとするママに、
「ちょっと待て、俺たちはどうするんだ。」と父が聞けば、
「ポリーと貴方はここで待機、馬車を守っていて。」
後も見ないで飛んで行くので、慌てて、忍者3姉妹が続く。すぐに、現場に
辿り着いたので、他の家を調べる。ひとっこ一人居ない。いえの中は荒らされ
引っかき回された状況だ。40軒ほどある民家は全て同様な状況だ。先程、燃
えていた家に全員で向かう。近づくと死臭がしてきた。先程 偵察に来たとき
遠距離からの水魔法による消火をしていたので、火災自体は鎮火しているが、
まだ白い煙が漂っており、中に入れる状況では無かった。ママがブリザードを
かけ、煙を吹き飛ばし、燃えのっこている建屋自体を氷結させた。扉を蹴破り
中に侵入する。思わず口を押さえる。中にはこの集落の住人であったであろう
人々の死体が山積されていた。全員、長角族の魔族である。女、子供、老人の
区別なく皆殺しにされた様である。村長らしき男性の死体は、憎しみの限りに
切りさいなまれ、壁に串刺しにされている。この魔族の集落に対する激しい恨
みの感情が見受けられた。手掛かりがないかと、ママが中を探し回っているが、
襲撃者に繋がるものは、何も見つけられなかった。只、殺害されて2時間ぐら
いなので、ここから遠離る一団がいないか20キロ周辺をサーチしてみるが、
それらしき一団は見あたらない。殺して火を着けて逃げたとしても1時間半前
と思われるので倍の40キロ周辺に拡大してみる。35キロ北東の山岳地帯に
入ったところに、50人くらいの集団が見つかったので、ママに言う。
「アリアナ、すぐにフライで追いかけて捕まえるわよ。この家の中は氷結さ
せて保存して置くわ。」
「解った、クロ、シロ、北東に35キロぐらいのところよ。山岳地帯に入り
込んでるよ。行こう。」
「ラジャー」二人の返事とともに、4人はフライを使用して全速力で山岳地
帯を、目指す。先頭をママが飛び少し後ろの左右をシロとクロ、殿は私の形体
で10分ちょっと飛ぶと、50人の騎馬集団が見つかった。どう見ても盗賊に
は見えない。整然とした隊列で山道を疾走する姿は完全な軍隊である。こちら
に気付いたようで、先頭の指揮官が手を挙げ隊列を止めた。その10m先に私
達が着地する。一歩ママが彼らに近づき、
「Sランクハンター【白銀のブリザード】が訪ねる。お前達が、35キロ後
方の集落を、壊滅させたのか?」
その言葉にざわめきたつ騎士達を手を横に広げて押さえ、先程隊列を止めた
指揮官が、馬を一歩前に出す。
「そうだと言ったら、我々を殺すのか?Sランクハンターの貴方なら、我々
を殲滅するのに、さして時間がかかるとは、思えん。それに貴方の後ろに居
る3人の子供にも、ひとりで我々を殲滅するだけの力が有るようだな。」
指揮官のその言葉に後ろの騎士達が騒つく。しかしそれを無視してママが、
「何故にハイエルフの騎士団が、我がクミロワ大公国に侵入し、魔族の一集
落を女子供を問わず壊滅させたのか?その返答次第では、侵略とみなして殲
滅もやむなしと考えるが、いかに。」その言葉に大きく口を開け、首を振り
ながら、指揮官は下馬する。そして部下達にも下馬するように命令してから、
徐に兜を外した。数歩前に進んで、右膝を突き臣下の礼をとる。騎士達も驚い
たようだが、彼にならう。
「Sランクハンター【白銀のブリザード】殿は、クミロワ大公国の守り女神
と、常々大公自らが公言されておられる方。そのような方に言い逃れ等する
気はもうとうございません。我々がかの魔族集落を壊滅した経過について、
包み隠さず報告致します。かの一族は、呪術に秀でたヤグル族という一族で
す。話は15年前に遡ります。当時ヤグル族の若者達は、呪術者が魔族界に
おいて、蔑ろにされていると考え、呪術を持って一国を滅亡させることが出
来れば、もっと一族の地位向上になると考え、若い族長ムンメグとともにク
ミロワ大公国の辺境に移り住んだのです。それが、かの集落です。そして彼
等は、呪術の最高の生け贄として、ハイエルフの子供に目を付けたのです。
そして彼等は、この山岳地帯を北東に数ヶ月かけて抜けた所にある我が国エ
デンに進入し、幼子10人を浚ってきたのです。寿命の長いハイエルフにと
って幼子10人はエデン国にとっては国の宝です。誘拐現場に呪術のにおい
を嗅ぎ取った長老の命で、大勢のハイエルフが国を出て、呪術の痕跡を捜索
しました。しかし、クミロワ大公国には呪樹海が近くにあり、かすかな呪術
の痕跡など、覆い隠してしまっていました。そして、13年前、世界樹が幼
子10人が生け贄として殺されたことを我らの巫女に告げたのです。彼等が
執り行った呪術は、魔族界の他の5カ国の王族に呪いをかけて、このクミロ
ワ大公国に攻め入らせ、この国を滅ぼそうと画策したのです。彼等にとって
クミロワ大公家のような短角族の魔族は、自分達長角族の劣等種族だとの奢
りから、この国を標的にしたと思われます。幸い、クミロワ大公国の軍勢は
遙かに強かったため、彼等の計画は挫折しました。そして彼等は今度はクミ
ロワ大公家自体に呪いをかけ、この国を自分達の傀儡とする計画をたて、ま
たエデンに誘拐団を侵入させて来ました。それが、10年前です。今回は我
々も十分な警戒体制にあった御陰で、未然に、誘拐団を捕縛することが出来
ました。しかし、捕まった彼等は自らに呪術をかけ、呪いの眠りに入ってし
まい、情報の漏れることを遅らせたのです。未だに彼等はエデンの牢獄で呪
いの眠りの中にいます。しかし、神は我々を見捨てなかった。10年前突然、
女神アリアの聖光が、クミロワ大公国を覆った御陰で、呪樹海の強大な呪い
が、完全に浄化され、我らの探索隊が、クミロワ大公国全土を隈無く調査で
きるようになりました。そして調査10年目で、やっと半年前、幼子10人
を浚った男の呪術痕跡を見つけることが出来ました。それが、あの集落の族
長ムンメグでした。この話の内容は、ムンメグを捕らえ、拷問で聞き出した
内容でもあります。ヤグル族は一人も生き残らすなとの命であり、貴国の了
解も得ず、進入し集落一つを壊滅させた理由です。我らは、一切抵抗するつ
もりは有りません。【白銀のブリザード】殿の捕縛を謹んで受け大公国の法
に則った処罰を受けたく思います。その前に、わたくしの名前は」「いい、
聞かないから。」とママが名乗るのを止める。
「長々引き留めちゃってごめんね。長旅になるから気をつけて帰るのよ。あ!
それから、壊滅された集落なんて無かったから、心配せずゆっくり帰りな。
後は私達がただの森にもどしておくわ。じゃあ」と手を挙げ飛び立った。
忍者3姉妹も慌ててその後を追い飛び立った。




