第１９話 やっちまったみたい。
朝、目覚めると、目の前にママの顔があり、シロとクロが私の上に乗ってい
る。後ろにはパパの寝顔があり、二人の腕が私達３人をひとかたまりにする様
に抱きかかえ、身動き出来ない状況であった。苦しい！！ 殺される！！
「ママ！、パパ起きろ！！ 私を殺す気ですか。」と大声を挙げ、じたばた
藻掻いていると、やっとママが目を覚まし、パパも起きたので、命の危機は
なんとか去った。只、あれほど暴れたのに、私の上にしがみついたクロとシ
ロはまだ夢の中である。姉として、これでは舐められると思い、二人のほっ
ぺをつねって起こした。ふたりとも涙目になって抗議するが、これはいじめ
ではなく、躾である。無視する。
朝食を全員で食べ、ニューセルムに帰る。救出隊の荷馬車に、兎人族のふた
りと奴隷商の妻を乗せ、私達は、私の転移魔法で、自宅の屋敷の居間に転移
する。何人一緒に転移できるのか解らなかったが、家族５人とポリーさんの
６人いっしょでも、問題なく転移できた。それから、救出隊の面々が到着す
る頃を見計らって、馬車でニューセルムのハンターギルドに全員赴いた。
ギルドマスターの部屋へ通された私達は、天使の刃のリーダーである母マリ
アが、オーク集落殲滅の経過報告をし、救出者の兎人族２名と、クロとシロの
救出時の状況説明及び、奴隷狩りにあってからの経過を説明した。それから、
一緒に救出した人族の女が、人間界のワグル帝国の奴隷商の妻であることも報
告した。奴隷商と６人の護衛は集落内で既に殺されていたのを、うち捨てられ
た頭蓋骨から確認したことも報告する。一応のママからの報告が終わって、ギ
ルドマスターが、クロとシロに父イルシャと母マリアの養女になるか確認する
と、二人は首を縦に何度も振って、私に抱きついてきた。それを見たギルドマ
スターも微笑んでその様子に肯いた。さあ、終わって報酬を頂くだけと思った
とき、私のセンサーに別邸への侵入者察知の反応がきた。ママにすぐに耳打ち
すると、「ママ疲れたからアリアナ一人で行って捕まえて来て。」の言葉に、
「じゃあ、ちょっと行ってくる。」と答え、その場から、転移して白亜の邸
宅の居間に出る。すぐにサーチすると、玄関の前に４人のボロボロになった
護衛たちが、助けを求め座り込んでいた。気配遮断と光学迷彩で姿を消し、
２階の窓から彼らの傍に飛んでいって、棍棒で頭を叩いて気絶させる。ロー
プで縛り上げ、２階の窓を閉めて戸締まり確認後、４人をつれてギルドマス
ターの部屋に転移する。目を見開いて驚いているギルドマスターに、
「こいつらが、奴隷商の護衛の生き残りです。」とつたえ、縛ったロープの
端を差し出す。頭にたんこぶを作り気絶している４人を見て、
「ああ、ご苦労さん。」と労う出来たギルドマスターである。
この４人を見て、飛んできて蹴りを入れるシロとクロは、見なかったことと
してスルーしてもらう。ギルドマスターの話では、この４人と奴隷商の妻に
ついては、すぐに大公都キートに送られ、厳しく処罰されるそうである。
元々、奴隷制度自体を禁止しているクミロワ大公国においては、奴隷商と奴
隷商の仲間と判断された者は、捕縛した場合すべて死刑と決まっており、今回
は、ワグル帝国への抗議の切り札として拘留する、全てを証言した妻以外はす
ぐに処刑されるだろうとのことである。天使の刃が今回受け取った報酬は、被
害者４名の救出に対し、１人あたり金貨１０枚で４０枚、奴隷商の仲間捕縛に
対し１人あたり金貨１０枚５人で５０枚、オーク集落殲滅に対し金貨４００枚
であり、合計４９０枚の収入となった。普通、このくらいのオーク集落の殲滅
には、大規模な討伐隊を組んであたるのが一般的であるが、限りなくＳランク
に近いＡランクハンターチーム【天使の刃】と、救出隊５名で対処できた御陰
で、半額以下の出費に抑えられたニューセルム施政議会も大満足だそうだ。
でも、私だけは知っている。ママが報酬をつり上げなかったのは、オークキ
ングの小屋にあった奴隷商から奪った金貨５００枚入りの５個の革袋の存在が
大きいことを。知らないことにしておくのが、娘のデリカシーだと思い私は何
も言わない。それからママ達は獲物の引き取り交渉に、ギルドの解体倉庫に向
かった。することがない私達３人は、先にハンター登録することにした。クロ
とシロも私より一ヶ月遅く生まれたとのことで、同じ５才なら一緒に登録する
ことにした。受付のお姉さんが３人の名前を書いてくれて、申請書類を作成し、
Ｇランクギルドカード３枚を持って来た。それに３人の血を一滴垂らして完成
である。ランク一つ上までの依頼しか受けられない等の説明を聞き、３人浮か
れてママ達の居るギルドの解体倉庫に向かう。
扉を開け３人で中に入ると、今まさに、ママとギルドマスターの戦いが勃発
する寸前であった。二人の前には３ｍ近いオークキングの身体が横たわってい
た。
「言っても、Ｂランクモンスターよ、少しばかりキズが多くてもその値段は
ないんじゃない。骨やキバは無キズなんだし。」
「待って下さい、オークキングで一番重宝されるのが、皮なんですよ。その
皮が、こんなに穴だらけじゃ使い物になりません。金貨１５枚が良いところ
です。」
「金貨１５枚って、ジェネラルの半値以下じゃない。いえ、オークソルジャ
ーより安いなんてたたき過ぎだわ。」
「いえ、これだけ穴だらけでは、肉のほうもズタズタになってますから、こ
れ以上出せません。なんなら、お持ち帰り下さい。」
これは、ギルドマスターが正しい。父もポリーさんもふたりから離れて他人
のふりをしている。ようやく、ママが諦め、引き取り額が決定したようであ
る。
ギルドマスターが私達の方に戻ってきたので、
「ハンター登録しちゃいました。」と、今貰ったＧランクギルドカードを３
人が見せる。それを見たギルドマスターが、
「シロちゃんとクロちゃんはＧランクでいいけど、アリアナちゃんはＧラン
クじゃダメだよ。転移魔法が使え、オークから逃げるのに疲れていたといえ
奴隷商の護衛４人を一瞬で捕縛するんだから、Ｃランク以上から始めてもら
います。」といって、私のギルドカードを取りあげた。それからママの方を
振り返り、「マリアさんも早くＡランクカードを返却して下さい。とっくに
Ｓランク承認されているんですから、それからイルシャとポリーもＳランク
申請は受理されましたので、１ヶ月後には承認されると思いますよ。今思い
ついたんですが、マリアさんが、Ｓランクカードに更新していたら、今回の
天使の刃への依頼もＳランクパーティーへの依頼となって、討伐報酬も倍額
になってたんですね。こちらはありがたかったんですが。」とママに告げる。
ママの目を見張って口を大きく開け驚く顔を見て、このギルドマスター根性
有るじゃん。と思ったが、このままにしておいたら、この辺が氷漬けになり
そうなので、「ギルドマスター、あたしの獲物も引き取ってもらえるの？」
と、話を逸らす。「勿論、今ここへ出してくれたら査定するよ。」といって
もらえたので、獲物袋から地竜をだした。全員固まってしまった。こちらを
見ないように姿をかくしたポリーさん以外は。
「信じられない、キズ一つ無い、毒を使用した形跡も無ければ、心臓を貫い
た大剣や槍のあともない。すばらしい、完璧な地竜の姿そのままなんて、ア
リアナさん、どうやって仕留めたんですか？」と大慌てで聞いてくる。
「アリアナ、凄いわ、氷漬けにして殺しても、皮が変質したり痛んだりする
から、私でもこんな完璧な姿のまま仕留めるのは無理よ。どうやったの教え
て」と、ママまで聞いてくる。これは、やっちゃったのかなと思ったが、も
う遅いので「うんとねえ、気配遮断をかけて光学迷彩で姿を消してフライで
地竜の首の後ろに飛んで行って、延髄を一突きしたの。簡単だよ。」
「出来るか！！」ママも含む全員の叫びがあった。
