訓練2 「始まりの間」
ロビーの西側、ゲートの反対方向。
その部屋は「始まりの間」。武器を作る部屋だ。
そこに2人はいた。
「ここが始まりの間よ!みんなここから始まっていくのよ!」
アリアが気迫ある声で言う。
「へぇー!凄いなぁー!!」
湖池が驚くのも無理なかった。
そこは、先程のロビーやゲートの所とは違い、
壁や床は木製ではなく、見たことのない青い石のようなものが使われて、所々、水色、緑色、紫色とその石が光っていて、まさに異世界に来たと思わされる。
それほどまでに幻想的な部屋であった。
「そしてこれが『始まりの泉』。武器を作るのに必要な物よ。」
そう部屋の真ん中にある、大きな泉を紹介する。
何やら水面上に只ならぬ空気を醸し出している。
「『始まりの泉』?この泉で武器を作るのか?」
湖池はその泉に近づき、水面に映る自分の顔を見て、
首をかしげる。
どう、泉と武器が関係あるのか。そう思ったからだ。
「まぁ、見てなさい。」
そう言うと、マリアは目を閉じてある言葉を唱えた。
《魔女よ。我ら悪魔にその力で、暗黒なる武器を捧げたまえ。》
すると、泉の水面上が突如、黄色に輝き出す。
何かが起きる。そう思わせた。その光は数秒すると消え、そこには10歳くらいの少女が目をつぶって泉の上に浮いていた。
「これが魔女さん。私たちの願いを叶えてくれる偉い人よ。まぁ、願いって言っても武器に限るけど……。」
「ま、魔女!?こんな小学生みたいな子が!?」
「ん?なんですか?賢吾さんまさか……………幼女好き………?」
「なわけねーよ。勝手な妄想するな!ようやくメラがいなくなったのにまたこれかよ!」
ロビーでメラと別れたが、何やらまだ仕事が残っているらしい。
「お姉ちゃんは関係無いでしょ?そんなに話をそらそうとするってことはやっぱり……そうか………」
そう落ち込むマリアはしゃがんで床に
幼女と何回も書く。
「おい…おい…?マリアさん?違うって言ってるでしょ?
そう言うと、マリアは何やらひらめく。すると、
マリアは脳内で想像し、服装を変え、白いTシャツに赤いスカート。黄色い帽子をかぶり、
何やら赤いものを背負う。
「お、お前………。」
そう、マリアは小学生の格好をしたのだ。
「け………賢吾お兄たん………。」
可愛く声を変えて幼女っぽく湖池を呼ぶマリア。
恥ずかしく話しかける素振りが実に愛らしかった。
「はいっ!おしまい!服装戻せー。」
顔の一つも赤くしない湖池は、
さっさとそのお芝居を終わらせた。
「もぉっ!素直に可愛いって言えばいいのにー!」
「バーカ。可愛くないわけないだろ。」
その一言だけでマリアは嬉しかった。
「も、もう!賢吾さんったら、今頃そんなこと言っても遅いんだからねっ!」
わざとらしくツンデレキャラを演出する。
「本当、お前何キャラなの………。」
そんな感じでワイワイと会話していたのであったが、
肝心な事を2人は忘れていた。
「そういえば、魔女さんは?」
そう湖池が言うと、2人は一緒に泉の方を見る。
そこにはまだ、目を瞑った魔女がいた。
それによーく、耳を澄ませば、いびきをかいているのが分かった。
「あの野郎。寝てやがるっ!」
マリアのその言葉に湖池は
(さっき自分で偉い人とか言ってたくせに、野郎って……。)
マリアは魔女の耳のそばまで顔を近づけ、
「起きろーーーーーー!!!!」
そう叫んだ。
跳ね上がる様に起き、半分寝ぼけた状態で慌てて喋る。
「ひゃひゃっ!こ、ここは……どこだ……月?月なのか?」
「月なわけあるか!武器を作りたいのよ!」
そう言うマリアの顔を見て、ようやく正気に戻る。
「あ…あぁ!マリアか!武器だな。すまんすまん………って!お前はもうもってるじゃないか?」
とてもハスキーな声が本当に幼女という事を感じさせなかった。
そう言いかけたが、側の湖池を見て気づく。
「私じゃないの!この人。新人でまだ武器を作ってないのよ。」
「ほほう…そうか…おい!そこの坊や?」
自分が呼ばれ、目が会う。
その魔女の目は特殊の目であった。
左目は青いのだが、右目は黄色い。
そんな不思議な魔女に呼ばれたのだが、
「坊や」という言葉が気に食わなかった。
「はい。」
「やぁ。僕は魔女のファーモ。君は?」
「俺は湖池 賢吾。失礼ですが、歳はいくつなんですか?」
自分より小さい人に敬語を使ったのは初めて。
だが、ファーモの口調がやけに大人っぽく、気になったのだ。
「アハハハハッ!」
そう笑うなり、ファーモはこう言った。
「知り合った女性にいきなり歳を聞くとは、面白い奴だな。だが、僕くらいにしとけよ?怒られるぞ。まぁ、そう思っても無理は無いか。9歳だよ。」
「きゅ、9歳!?じゃ、じゃあなんでそんなに喋り方が大人っぽいんですか?」
「趣味だよ。色々と勉強してな。もちろん素は子供っぽいよ。」
「しゅ、趣味。すごいな。」
少し驚いたが、そろそろ本題に移ろうとマリアを見たが、何か、怒っている様にこちらを睨む。
「うっ……どうした。………マリア?」
「賢吾さんってば、私には歳を聞いたことも無いのに、私より後に知り合った、あんな幼女には聞くんですね………。」
「ま、まて!あのキャラの濃さは気になるもんだろ?」
「では、私はキャラが薄いと……。へぇーー。しかも趣味まで聞いて。」
「ま、まて、落ち着こう!な!」
「ただで済むと思ってるんですか?」
握り拳を作り、迫り来るマリア。
「わ、分かった!じゃあ……。」
そう言うと、一旦間をつくり、
見違えるほど格好つけてセリフを言う。
「おい。マリア、君は歳はいくつなんだ?」
ケラケラと爆笑するファーモは無視し、
このくだりを続けた。
「まぁ。賢吾さんたら。失礼しちゃうわ。」
(乗ってきたー!ってか早く言えよ。焦らすなよ。)
と心の中でつぶやく湖池。
「頼む。教えてくれ!」
「ウフフフフ。どうしようかしら〜。」
(まだ焦らすのかよ。早く終わらせて次に行きたんだけど。)
「お願いだ!頼むよ!」
「え〜。でも恥ずかしいしぃー。」
「頼む!何でもするから!」
「何でもって……そんな悪いわよ……。」
「うぉぉぉいぃぃぃぃ!!!!!!!!」
ついに爆発した。
かっこよかった彼が瞬く間に消え去った。
「何回言わせんだよ!こんな事やってたらもう永遠に終わらねぇよ!ってか何だよ、お前はギャルかよ!でも〜とか、恥ずかしいしぃー。とか!言ってるお前がはずかしいわ!だいたいそんな奴嫌われて友達できねぇよ!俺がこんなにしつこく聞いてんのによぉ?でも!でも!でも!何がしたいんだよ!俺だってなぁ…………………」
その愚痴は1時間くらい続いたそうだ。