思わぬ敵
授業後、湖池は担任の西片とともに職員室にいた。
もちろん、昨日逃げた罰としてだ。
時刻は4時を回ろうとしていた。
部活や会議、出張などがあり、今いる先生は西片も含め、2人か3人位だ。
ここへ来て、まだ何も話さない西片に、湖池は恐る恐る口を開いた。
「………で、今日は何すればいいのですか?」
「………もう、しているじゃないか。」
意味のわからない答えに湖池は首を傾げる。
「へ?」
「罰だよ。罰。……私の仕事が終わるまでそこに立っとけ。」
「え、えぇーーー。」
力の抜けた返事。
「なんだよ……恨むなら昨日さぼった自分を恨めよー。」
「………クッッ。」
何も言い返せない湖池。
しかし、後、1時間くらいで魔界へ自動転送されてしまう。
(まずい……。)
そう思った彼は急に何かを思い出したように言った。
「っあ!そ、そういえば、今日も用事が……。」
すると、西片は呆れた顔で言い返す。
「ん?用事?どんな?」
「ど、どんなって……。そ、そりゃー……。」
またしても目をそらしてしまう。
上手くごまかせる言葉が出てこない。
「ないんだろ?嘘ついても無駄だよ。」
そう言われてしまうと崩れるように肩を落とす。
そう話していると他の先生が「お疲れ様!」と挨拶をし、退出してしまった。
(あぁ、俺も帰りたい……。)
そう思っていたが、
西片は誰もいなくなると口調を変え出した。
「やっと2人になれた。」
「……………え?」
「湖池。今から一つ質問をする。」
「な………なんですか?急に……………。」
急すぎる西片の言葉に緊張してしまう湖池。
「お前。悪魔だろ?」
ニヤリと微笑む彼女の表情が自信に満ち溢れている。
「……え?な、なんですか急に。先生も冗談とか言うんですね。」
ケラケラと笑いながら答える。
すると、西片は顔を湖池に近づけもう一度確認する。
「悪魔なんだろ?」
「……………だ、だから。違うって言ってるじゃないですか。」
西片が真剣に見つめるのでつい、目をそらしてしまう。
「あ、やっぱり悪魔なのかー。」
「な、なんでそうなるんですか!」
「だって湖池、嘘つくといつも目をそらすじゃん。」
自分の癖を突かれたと焦る湖池であったが、
よくよく考えればそんな事より気になったことがあった。
「なんで、悪魔って…………。ま……まさか……。」
「そう、その通り、私、【天使】なの。」
刹那、そう告げた彼女の背中から何やら飛び出た。
それはー翼ーであった。
それだけではない。頭の上に白い輪が浮いているのだ。
それはまさに【天使】のようで、湖池は数秒彼女に見とれてしまった。
「ウフフフフッ。湖池君。驚いた?」
「う…嘘だろ…。」
「アハハハハッ。大丈夫。そう易々と殺したりはしないわ。湖池君、可愛いから。うーん……そうねぇ……私の召使いにさせてあげる。」
そう言われているが、
湖池はなんとか逃げることだけを考えていた。
(や……やばい!…こ……こいつが……メラが言っていた幹部クラスの奴なのか……違うにしろ今の状態は危ない。とりあえずここを出て………)
そう考えると。
全速力でこの部屋を出る。
が、それはできなかった。扉になぜか鍵がかかってる。
「そんなに慌てなくても扉の鍵くらいかけておいたわよ。」
嘲笑う彼女はハナから2人きりになった時に何かで鍵をかけたらしい。
それはともかく、絶対絶命だ。
「さあ、まず取り調べといきましょうか。」
そう言うなり湖池に近づいていく。
湖池は逃げようとするが体が思うように動かない。
それは彼女のせいだった。
「ウフフフフッ。もう無理よ。なんて言ったって私の能力。『念力』であなたはもう、私の思うままに動く。」
さっき鍵をかけたのもこのせいだ。
「ク…クソッ!」
「今から私が質問をするから、答えなさい。まずは、
この学校の中に知り合いで悪魔はいるのか。」
と言われメラの事を思い浮かべる。
しかし、そんなことは嫌でも言いたくない。
「し……知らない。」
今度はちゃんと癖を治した。
「ふーん。じゃあ。今魔界ではどんな事を企んでいるの?」
「そ、そんな事、知らない。」
そう言うと何かを確信した顔をする。
「ってことは君、まだ新入りってことね。となると、補助がいるはず。さっきの言葉は嘘のようねぇ?」
墓穴を掘ってしまった湖池。
とても焦ってしまう。
「誰?嘘をついてもダメよ。」
「言うかよ。んな事で言ったら相当のアホだよ。」
「そうねぇ。じゃあ。殺そうとしてもかしら?」
そう言うと。どこからともなく、とても長い槍見たいな物を取り出す天使。
湖池の首筋に矛先を当てる。
しかし、湖池は珍しく顔色を変えない。
「いいぜ?友を売るより死んだほうがマシだよ。もうあんな後悔したくないしね。」
そう言われるなり天使は腹を立てた。
「そーゆーカッコつけたのが1番イラつくのよ。あーあ。もう飽きちゃったなー。じゃーね!」
そうお気楽に言うと槍を引く。
「もっと遊びたかったな〜。」
刹那、刃先は湖池めがけて突き刺さる。
……はずであったが、気がつくと彼の眼の前に一人の女性が立っていた。その女性は黒い剣を構え、天使の槍を受け切っていた。
「お疲れ様です。」
それはメラであった。
何が起きたのか全く分からなかったが、自分は助かったという事だけはわかった。
「デビッドさん。やはりあなたでしたか。」
天使はそう言うと一旦槍を引く。
しかし、メラは天使の言葉は無視し、湖池との会話を楽しむ。
「いやー。賢吾さん。やっぱりあなたはドMでしたかー。」
「え、は?お前よくこの状況でそんなこといえるな。」
「こんな年上の人に痛めつけられて、心の中では喜んでいたのでしょう?」
勝手な妄想を湖池に確認するメラ。
「んなわけあるか!」
そう楽しく会話していると天使が槍を突きながら
襲いかかってきた。
「無視するなぁぁ!」
素早く対応するメラ。
剣と槍がぶつかり合う。
キーンッと金属音を鳴らし、再び攻撃し合う2人。
互角……いや、メラの方がやや優勢だ。
それを察した天使が再びニヤリと笑人差し指をクイっと引く。
「う、うわーー!」
その声は湖池であった。
天使の能力。『念力』で引き寄せられ、
たちまち、人質となってしまった。
「さぁ、これで余裕の君も終わりだ。おとなしく私の言う事を聞け……」
その時であった。
先ほどまでの動きとは思えない素早さで動くメラ、
2人が気づいた時にはもうメラの剣は天使の真横にあった。
まさに疾風。
そう思わされた。
「何が終わりですって?さぁ、能力を解いて。」
そう脅すと、仕方なく能力を解く天使。
メラと湖池は安心する。
が、天使の能力は再発動した。
「ウッッ!」
今度はメラに念力をかけた。
「フハハハハッ!馬鹿ね!」
(もうだめだ)
そう諦めかける。
「フフフフッ。これで縛ったつもりですか?幽霊のほうがもっとマシな念力をかけますよ?」
とあざ笑うメラ。
次の瞬間、動けないはずのメラが天使の体を切る。
「………!?」
血がポタポタと体から垂れ落ちる。
「な、なぜ!?」
訳の分からない現象に驚く2人。
「なぜでしょうね?悩みながら死んでください。」
厳しいメラの一言で天使は力尽きた。
すると、何やら機械を取り出しその天使に取り付け、ボタンを押す。
すると、その機械を中心に半径2メートルの円が膨らむ。数秒経つとその天使と血とともに消えてしまった。
「これは、転送機。倒した天使は魔界へ送り込む。そう言われているので。」
「そ、そうか。……じゃなくて、お前どこから来たんだよ!」
「あ!言い忘れてましたね。今朝の時、万が一の時のために、あなたに発信機をつけておきました。その発信機は、位置だけではないく、その現場の音も聞き取れる上に、そこまで私を転送までしてくれる超便利アイテムです。」
「ヘェ〜!凄いな〜………じゃなくてだな!それならなんで西片先生が天使だって分かった時点で来てくれなかったんだよ!」
「それはもちろん、賢吾さんの怖がる声を聞きたくて。」
「ドSか!もちろんじゃないわ!ったくもぉ。」
恒例のようなやり取りをやり終わると
いつも通りメラが真剣になる。
「今の天使は情報の幹部クラスのではないです。明らかに弱い。今の見たいなのが1番あなたみたいな弱い者を狙います。なので早く強くなってください。」
「わ……分かった。」
「と、話してるところでもうそろそろ時間ですね。
そういえば、今日から特訓が始まりますよ。頑張ってくださいね。」
そうメラから応援を貰うと少し赤くなる湖池。
「いつかメラを倒せるくらい強くなれるように頑張るよ!」
「そうですか。その意気です。」
ニコッと笑う彼女に見とれる。
「となると。1億年?いや、1兆年かかりますねー!」
「そんな俺期待されてないの……………。」
こうして時間となり、魔界へ転送される2人。
いよいよ、特訓の開始だ!