再び現世へ
4月7日ー朝ー
元気良い小鳥がチュンチュンと鳴き、
部屋の外から何やら楽しそうな声が聞こえてくる。
「ん…………。あ、朝か…………。」
湖池はあくびをしながら、起き上がる。
すると、何か違和感を感じる。
「あ、あれ?」
それは部屋の中の物であった。
高級感溢れるベッドは普通のベッドになっており、他の机や椅子、シャンデリアさえも普通の物に変わっていた。そう、現実世界の自分の部屋のように。
「う、嘘だろ?俺死んだんじゃ……。ゆ…夢か!何だよそれならそうと早く言ってくれよ……。」
そう一人で呟いていると、一階の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あらー。そうなのー…………。いいわよ確か空き部屋が賢吾の部屋の隣にあったから。」
母の声だ。楽しそうな母の声を聞いてより確信できた。
「ありがとうございます。その代わりと言っては何ですが、家事は得意なので手伝いますね。」
この声も聞いたことがある。
(確か魔界の世界に行った時に聞いた………。)
「え!?」
そう言うと慌てて部屋をでて、階段を素早く降りる。
台所への扉を開け、咄嗟に聞く。
「メラ?メラなのか?」
母の声がする方へ見ると、そこにはやはり母とメラがいた。
「あ、起きましたか。賢吾さん。」
「何でお前がここに……。って事はさっきのは夢ではないのか!?」
「何言ってるんですか。当たり前でしょう?」
そう二人が話していると母が涙ぐんで会話に入ってた。
「賢吾、全てメラさんに聞いたわよ。あなたって子はいつの間にか立派になって………。でも私は反対しないからね。ゆっくりしていってねメラちゃん。」
「………。は?………何の話?」
「あーら、この子ったらとぼけちゃって。両親を亡くして一人ぼっちのメラちゃんに俺の家に住めばいいって助けたらしいじゃない。ママ感激よ……。」
「は?俺、そんな事言ってな…………。」
そう言いかけたがだいたい想像できた。
「メラ……。お前……何、母さんに吹き込んだ……?」
すっとメラを睨め付ける。
「本当の事じゃないですかー………。それにあんな事まで………。」
と言うが表情何一つ変えずに自分で自分を抱きしめる仕草をする。
「は、な、何デタラメな事言ってやがる!」
「え、えー!?嘘、もうそこまで進んじゃってるの?だ、大丈夫よ。メラちゃんいい子だし、家事も得意って今言ってたから。私的にはOKよ!」
「あー!!面倒くさい人に聞かれてしまった……。あのね母さん。俺とメラはそう言う関係じゃなくてだな………。」
「あ、あれ?もしかして私、邪魔でした?それなら失礼しまーーす!」
母は人の話など聞かずに台所を出て行ってしまった。
「おい!メラ、これは一体、どーゆー事だ。」
「えー。全く経験のない賢吾さんにはきつすぎましたか?」
「そーゆーことじゃなくて、何で俺がここにいる。死んだんじゃないのか?」
そう聞くとさっきまでノリノリだったメラの声がいつもの冷たい声に戻る。
「私達、悪魔は朝から夕方までは現実世界で活動となり、夕方から夜までは自動的に魔界、あの世へと転送されます。まだ慣れないあなたみたいな研修生には補助としてこの世とあの世、それぞれつけられます。」
「この世ではメラ、お前が俺の補助って訳か。じゃあ、あの世では?」
「それは後々紹介します。それよりあなたにこの世で注意しておく事が三つあります。」
メラはいつも以上に熱心に話し出した。
「まず、一つ。私とあなた以外の人に、私達が悪魔である事は秘密にしておく事。」
「そ、そうか。母さんにもか?」
「もちろんです。もし、あなたが誰かに伝えたらその瞬間、私があなたを殺します。」
「もう、一度殺されてんだけど…………。」
トホホと溜息をつく湖池。
「次に二つ目。この、現実世界に【天使】も来ている事。
もし、私達が悪魔だと知ったら、向こうは絶対に殺しに来るわ。だからこそ、一つ目の事も守ってください。」
「そうなのか……。なら念には念を入れなきゃな……。」
ゴクリッと唾を飲み込む。
「最後に三つ目。敵が誰であろうと敵だって事は分かって下さい。そうでないと確実にあなたは死にます。」
最後の言葉には何とも言えなかったが、自分はできるだけの事はすると心にそっと決めた湖池であった。
「そろそろ行かないと遅刻しますよ。」
そうメラから言われると
湖池は考えるのをやめ、家を出た。
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学校に着くなり湖池は大きなあくびをする。
今朝のやり取りに疲れているようだ。
眠たそうに黒板を見つめていると、そこに担任の西片が来た。
「おはようございます!」
西片が入ってきたなり、教室の男子は次々と彼女に挨拶をする。
「おう!おはよう!」
そう返されるなり、ニヤニヤする男子達。
立花もその一人……いや、その中の中心的人物であった。
立花と、その他の男子は西片を囲む。
「先生!今日も元気ですか?俺、めっちゃ元気ですよ!」
「俺なんか、今日早起きしましたよ!」
「いやー!今日も朝からいい気分だなぁー!」
湖池以外の男子全員が彼女を囲んでいた。
すると、今度は女子達が湖池を囲む。
「ねぇねぇ。どーゆーことよ!男子全員西片の虜になってるじゃない。」
「どーゆー事かはっきりと説明してよ!」
「このままじゃ、全部あの女に持ってかれちゃうじゃない!」
西片の方は楽園だが、こっちは拷問状態だ。
湖池は面倒くさそうにはなす。
「どーゆー訳か知らないけど。西片先生結婚してるから、どうせそのうちあいつら諦めるでしょ。」
「どうして結婚してるってわかんのよ!」
「だって人差し指に指輪はめてるじゃん。」
そう言うと女子達はハイエナがエサを見つめるように西片の指をじっと見つめた。
すると、何やら光る物がある。
それはもちろん指輪であった。
「本当だ!じゃあやっぱり!」
「湖池君やるねぇ!」
「あースッキリした!」
急に湖池の扱いが掌を返すように変わる。
女子達はそう言うなり向こうへ歩いて行った。
すると今度は担任の西片がこちらへ近づいてきた。
「ねぇ?湖池君〜?昨日何で資料半分残して帰っちゃったのかな〜?」
少し西片が怖い。
痛いところを突かれた。
魔界行ってきました!なんて言っても通じないし、
万が一、悪魔って事がばれたら元もこうもないので
「ちょっと急用ができましてですね………。」
とごまかした。
「ふーん。なら今日も残っていってくれるわね?」
「え………えっとー…………。」
瞬きをしながらチラチラと横をみる。
「くれるわよね?」
二回言う西片がとてつもなく怖かっので、つい……。
「は………はい。」
そう答えるとニコッと笑って教卓へと戻る。
「は〜〜い!みんな席についてー!」
今日もついてないと思う湖池であったが、
それをも覆す事件がおきた。
「えー、突然ですがもう、転校生がきました!」
そう爆弾発言をする先生に生徒達は質問する。
「えー!?」
「な、何で入学式の次の日に転校生………?」
「どうしてですかー?」
と、教室が騒がしくなる。
「はぁーい!静かにー!」
そう西片が仕切ると静かになった。
もちろん、その頃、湖池は寝ていた。
「私も詳しくは知らないけど、急に昨日決まったらしいよ!」
そう答えるが、生徒達は納得していない様子。
「まーそんなところで、おい!入ってきていいぞ!」
そう扉の方になげかけると、
その扉が開き、見たことのある人物が入室してくる。
西片はその人物の名前を黒板に書いていく。
と、同時に教室の中が爆発するようにうるさくなる。
それに起こされる湖池。
「……ったく、うるせぇな。このクラスは……………バカしかいないのか。」
そう呟く。すると後ろの席の立花が湖池の肩を叩き、こういう。
「おい、賢吾!あれみろよ!美少女ってのはまさしくあの子の事を言うだよ!」
そう言う彼が指差す方へと視線を向けると
湖池の目が限界までに開く。
「初めまして、『デビッド・フロア・メラ』です。今日からこのクラスの1人になります。外国から来たので、日本は初めてです。よろしくお願いします。」
湖池は思わず指を転校生に向け叫ぶ。
「えぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
その転校生とはメラであった。