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桃尻JKと密室の死闘

掲載日:2016/01/09

「んだ、テメ、コルァ!」

「やんのか、コルァ!」

「上等だ、コルァ!」

「ケツ出せコルァ!」

「テメから出せ、コルァ!」

「既に出してるわ、コルァ!」

「フライングだぞ、コルァ!」

「うるせぇ! ケツでもくらえコルァ!」

 

 不意に、市バスの中で小競り合いを始めたマッチョガイ8名。

 なんと、彼らは車内で『おしくらまんじゅう』を始めるという暴挙に出た。

 

 バチーン、バチーン!


 引き締まった大臀筋同士が衝突し、不穏な音が車内にこだまする。

 その激しさに恐れをなしたのか、他の乗客たちはじっと俯いたまま、目を合わせようともしない。

 運転手ですら、何の注意も行わなかった。

 結果、車内はおしくらまんじゅう地獄と化した。


 そんな中、一人の少女が座席から腰を浮かせた。

 

 彼女は高校生である。

 成績も悪くなく、素行も比較的良好だ。

 しかし、彼女には致命的な欠点があった。

 

 出席日数が、足りていないのである。

 

 一日・二日の補修で帳消しにできるレベルではない。

 ヘタすりゃ留年と言う事態にまで、彼女は落ちぶれてしまっていた。

 本日、寝坊により午前の授業を欠席した彼女に猶予はなかった。

 午後の授業に遅刻したら、丸一日欠席という扱いになってしまう。

 

 だから、どうしても次のバス停で降りる必要があった。

 

 バチーン! バチーン! バチーン!

 バチーン! バチーン! バチーン!

 バチーン! バチーン! バチーン!

 「すみません! 降ろしてください!」

 バチーン! バチーン! バチーン!

 バチーン! バチーン! バチーン!

 バチーン! バチーン! バチーン!


 空しくも、その声はケツとケツの衝突音に掻き消された……。

 

 こうなると、彼女に選択権は無い。

 その怒涛の戦火の中に身を投じることを余儀なくされた。


「南無三!」


 彼女はカラのカバンを防空頭巾のように頭から被ると、男たちの戦場へと突進していった。

 

 果敢にもケツとケツの間に、その身をねじ込む。

 脳裏にはBoaの『VARENTI』が流れ始める。

 

 これは彼女のカラオケにおける十八番おはこであった。


『ターイトなー♪』

 バチーン!

『ジーンズにー♪』

 バチーン!

『ねーじーこーむー♪』

 バチーン!

『わたーしと、いーう、♪』

 バチーン!

『た・た・かう!♪』

 バチーン!

『バーディー!♪』

 バチーン!

 バチーン!

 バチーン!

 バチーン!


 しかし、悲しいかな……、

 ……その身をねじ込むのは『タイトなジーンズ』ではない。

 

 益荒男マスラオどもの、屈強な『尻の隙間』である。


 そのことは、無論、彼女自身にも分かっていた。

 

どぐう(土偶)ぅッ!」


 と叫びつつ、彼女は弾き飛ばされた。

 凄まじいケツの圧力、すなわちケツ圧により、無残にも後部座席に叩きつけられた。


ゴボォ(牛蒡)……(エア吐血)」


 もはや、立ち上がる力は残っていなかった。


 身体的な力だけでない。

 精神的な力まで、彼女は失ってしまっていた。


 心が、折れてしまったのである。


 ――父さん、

 ――母さん、

 ――ごめんなさい……

 ――私は、悪い子です……

 ――男たちの尻に屈し、

 ――留年する不幸をお許しください……


 諦観の涙が、彼女の両頬を濡らした。


 そんな彼女の耳に、微かに届く声があった。

 

 ケツがバチる(・・・・・・)騒音の中で、ただ一つ拾えた声があったのだ。


 バチーン! バチーン! バチーン!

 バチーン! バチーン! バチーン!

 バチーン! バチーン! バチーン!

 『おしくらまんじゅう、押されて泣くな』

 バチーン! バチーン! バチーン!

 バチーン! バチーン! バチーン!

 バチーン! バチーン! バチーン!


 

 声の主はよわい90に達しようかと言う老人であった。


 彼は優先座席から立ち上がると、

 徐にベルトを外し、

 ズボンを脱ぎ、

 

 アテント(・・・・)をパージした。


 アテントの下には、燃えるように赤いフンドシが締められていた。


 ――まさか、

 ――このおじいさん、

 ――そんなTIGHT(帯人)BODY(ボディー)で戦うというの?


(無謀である!)


 誰もがそう思った。


 しかし、奇跡はすでに起こっていた。


『おしくらまんじゅう、押されて泣くな』

『おしくらまんじゅう、押されて泣くな』

『おしくらまんじゅう、押されて泣くな』

『おしくらまんじゅう、押されて泣くな』

『おしくらまんじゅう、押されて泣くな』

『おしくらまんじゅう、押されて泣くな』

『おしくらまんじゅう、押されて泣くな』


 ……聞こえてきたのは大合唱。


 それまで黙りこくっていた他の乗客たちが、一斉に不条理に立ち向かい始めたのである。

 

 一人の尻では敵わなくとも、みんなの尻が合わされば、益荒男マスラオのケツも凌駕し得る。


 じつに、デモクラシー的な発想である。


 一人の少女が巻き起こした奇跡と言えよう。


 大きいお尻、

 小さいお尻、

 柔いお尻、

 堅いお尻、

 みんな違って、

 イイ尻だった。


 少女は個性豊かな尻の波に押し出された。

 そして再度、荒ぶる益荒男のケツにその身を捻じ込んで行ったのである。


 苔生こけむした岩の様に頑強な生尻が、容赦なく彼女を研磨した。

 しかし、彼女は泣かなかった。

 

「おしくらまんじゅうは、泣いたら負けなのよ!」


 彼女は不屈の精神でケツの荒波を掻い潜り、ついに降車口まで達することが出来た。


 完璧な勝利であった。


 乗客たちは一斉に拍手をした。


 益荒男たちも、照れくさそうに手を叩いている。


「おめでとう」パチパチ「おめでとう」パチパチ

「おめでとう」パチパチ「おめでとう」パチパチ

「おめでとう」パチパチ「おめでとう」パチパチ

「おめでとう」パチパチ「おめでとう」パチパチ

「おめでとう」パチパチ「おめでとう」パチパチ

「おめでとう」パチパチ「おめでとう」パチパチ……


「みんな……ありがとう……此処、降りたかった停留所じゃないケド……」


 彼女は涙を流していた。

 それは諦観の涙ではなかった。


 勝利の涙であり――、

 ――留年の涙でもあった。

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