砂岩の嘲笑
川の向側に、砂岩で出来ている山が、連なっている。
冗談のようだが、中身が、砂なのだ。
草や木が、生えていて表面上は、わからないが、山の片面が、削られていて、砂の顔をさらしている。
川の土手を散歩してると、ゆるいカーブの場所で、足が止まる。
あのまま、景気が良かったら、砂岩の山は、見る影も無く、削られて、マンションでも、立っていただろう。
あそこには、1度行ったことがある。
日曜日の冒険だった。
川の向こうは、中々行けない。
クラスの仲間と、水筒と弁当だけで、出発した。
すこし、川上に、向かうと、川の勢いを殺す飛び石が、作られている。
コンクリートの真四角なそれは、間が均等に開いていて、去年だったら、飛べなかっただろう。
ポンポンと越えていき、意外と簡単に向う岸に、わたれた。
何をするでもなく、反対側から、川を眺めた。
この辺りで1番大きな川だ。
土手も高く、河原も広い。
大人が何人も集まって、ワイワイ騒いでいる。
反対側だから、なんだか良く見えない。
中洲が、幾つかあって、釣りをしてる人が見える。
ザリガニ釣りはするが、こんな大きな川では、しないから、興味はなくただの景色だった。
何も発見がなく、ただ反対側というだけで、期待はずれ感が、みんなの口を重くしていた。
飛び石が、ピークだと、あまりにあっけない。
だいたい冒険に、ならない。
誰かが、山に行こうぜ!と、言った。
運搬作業用道路が、簡易的な鎖の向こうに見える。
子供でもまたげる高さだ。
打開策としては上々だ。
皆で、ゾロゾロと、登る。
すぐに木に囲まれて、川からは、見えない。
楽に上がっていくと、思ったより広い場所にでた。
山肌が削られて、砂岩が丸出しで、非日常的な感じに興奮した。
木で周りから隠されていて、秘密基地っぽかった。
弁当を食べ、変に興奮して、あちこち見たり、砂山を掘ってみたりした。
砂岩を集めた砂山が、大小4つあり、追いかけっこをしながら、はしゃぎまくった。
1人が山肌を手で削った。
意外と削られる。
「弁当のふた、使おうぜ。」
手では、すぐ痛くなったし、これは、画期的なアイデアだった。
すぐ、穴が開く。
ちょっとした穴から、ドンドンデカくしていって、砂のかまくらだーと、騒いだ。
1人が、奥に奥に、掘り進んだ。
砂岩の山の穴は、俺らをすっぽり、隠すほどになっていた。
「出よう。」
怖くなった奴が、真っ先に出る。
後を追って、俺らも、ゾ〜っと、しながら、出た。
なんでもないし、何も起きない。
慌てた自分らが可笑しくて、笑う。
でも、もう穴に入る気は失せた。
弁当のふたをしまい、帰り仕度をした時だった。
穴が崩れた。
砂が、落ちてふさがった。
その後、一目散に降りて、家に帰った。
穴は、開けた前と同じになったのだ。
確かに掘り出した砂が、入り口のあった場所に、こんもりと盛り上がっている。
だが、山は、そのまま。
跡形もなく、元に戻っていた。
あのまま、埋まったら。
掘り進んでいたら。
中で遊んでいたら。
誰も口をきかなかった。
最近の集中豪雨やゲリラ的な雨の振り方は、この辺でも顕著だ。
何十年も変わらなかった、あの山が、崩れた。
豪雨は、川を濁らせ、土砂と木々を根こそぎ奪うと、怒涛をあげて流れていった。
あっけなかった。
あの日、待ち合わせの公園にいた1人遊びの少年がついて来たのだ。
学校も違う彼は、記憶の中で、ぼやけて揺れている。
それも、もう確かめられはしない。
大きな傷跡が出来た砂岩の山が、笑っているように見える。
誰も名前を知らず、あの中に埋もれた少年は、もういない。
密やかな笑い声が、聴こえた気がしたが、轟々と流れる川がそれも流して行ってしまっていた。
今は、ここまで。