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「身体中が痛い……」
ストレッチをするようになってから目に見えて怪我が減ってきたけど筋肉痛は無くならない。
ベッドにうつ伏せになって呻いているリアンになにもしてあげられないのが歯がゆい今日この頃。
人間だった時には何をしてた?
湿布とかマッサージとか指圧に鍼?
そういえば湿布ってあるのかな?見たことないけど……
マッサージもしてるの見たことないような……
時々、腕とか首を回しているのは見たことあるけど揉んでいるのは見たことないな。
むむ。悩んだ時は要確認!
〔リアン。ツボって知ってる?〕
「えっ?ツボってあれの事だろう」
そういってリアンが指差したのは窓際に置かれた花瓶。
惜しい!いやいやその壺じゃないから惜しくないわ(笑)
〔人体のツボって聞いた事ある?〕
「へっ?人体って……僕の体に壺?!」
うむ。何となくだが言葉のニュアンスが違うのは分かる。
体に壺が生えてたら怖いわ(笑)
〔そうじゃなくて!う~ん何て言えば分かって貰えるのかな?〕
「ホノカ?」
説明は難しい。
人間ならツボってここだよとか言って揉んであげられるのに!ああ歯がゆい!!
って鳥だから歯はないけどさ(笑)
誰かピッ○エレキ○ン開発してお灸でも可(笑)
お灸?…………いけんじゃねえ?
〔リアン服脱いで!上だけでいいから服脱いで!早く早く〕
「えっ?えっ?」
戸惑いつつも素直に脱ぎ始めるリアン。
こういう時に日頃の躾がものを言う(笑)
「脱いだけど?」
〔ベッドにうつ伏せで寝て〕
「こう?」
〔しばらく動かないでね〕
「うん」
雛目線では分かりにくいので少し羽ばたいて宙に浮く。
飛ぶとまだ回転しちゃうけど浮くぐらいなら魔力で無理矢理、制御出来るから大丈夫!
目星を付けて雛鳥キックで印をつける。
「あつっ!」
〔少しだけ我慢我慢〕
「何してるのホノカ?」
〔実験?〕
「ひど!」
〔まぁまぁ悪いようにはしないから♪〕
「……はぁ……後でちゃんと理由を教えて」
〔OK!〕
印を付けた場所に降りたって座る。
上手くいくかな?
私は体の熱を火傷しない程度にあげてみる。
〔熱くない?〕
「うん。熱いっていうより……気持ちいいかな?」
一ヶ所にだいたい3分ぐらい座って背中のツボを渡り歩く。
気がつくとリアンはすっかり寝入っていた。
温めた石でツボを刺激して凝りを解すっていうのが知識の中にあったから試してみたんだけどどうやら無事に成功したみたい。
モグサがあればお灸試してみても面白いかもしれないけど、あいにく知識の中にはモグサがなんで出来ているかは無かった。
モグサって言うぐらいだから何かの草だとは思うんだけど………
ググれないから分からない。
まぁなにもしないよりはマシでしょ。
起きてからが本番かな?
気持ち良さそうに寝ているリアンの背中をちょこまか移動していたらさすがに疲れた。
体が最低でも2つ欲しい。
そうすればもっと効率よく出来るのに!
う~ん今後の課題かな。
数時間後に起き出したリアンに体の調子を聞いてみたら寝る前より体が軽いって言われた。
はじめての時って劇的に効果感じたりするんだよね。
慢性化すると効いてるの?ってなるんだけどさ。
それからは凄く疲れてぐったりした日の夜だけお灸擬きをやっていたら翌朝、パワーアップして復活する様になったので理論は間違ってないと実証されました♪
だからジュール先生にご報告&ご相談。
「オキュウに人体のツボですか?聞いた事ないですね」
〔湿布とマッサージは?〕
「う~ん……あるような無いような……」
打ち身も魔法で治療しちゃうから医療が思った以上に発展してないのかな?
でも魔法使いじたい少ないって前に聞いたし、特に治癒に特化した人は教会で抱え込むから一般人には縁がないとも言ってたような……
一般人ってか平民には生きにくい世の中みたい。
民間療法とか無いの?
下手に聞くとやぶ蛇になりそうだから後でリアンに聞こう。
リアンなら何にも不思議に思わないで教えてくれるから楽です(笑)
って言うか私の知識は神鳥の不死鳥だから持っているのであって不思議な事は何もないって思ってるみたい。
飼い主の認識が果てしなく明後日の方向に向かっているのが頼もしいやら不安やら(笑)
「それで、そのシップとかは何に使うどういう物なんですか?」
あう!
自分が普通に認識してる物を何の知識もない人に伝えるのって難しい。
昔、テレビを知らない人にテレビがどういう物か実物無しで教えるのは難しいって聞いた事あったけど今、正に実感中。
う~ん何て言えば分かって貰えるのかな?
「人体のツボってもしかしてホノカが付けた足跡の事?」
あっ!その手があった。
リアンのナイスなアシストに心の中でグッと親指を立てる。
「足跡ですか?」
「背中にね付けられてるんです。お風呂で見た友達がお前の召喚獣は何様だって(笑)」
ホノカ様である!
グッと胸を反らすけど雛の胸では迫力もへったくれもない。
「見せて貰えますか?」
「いいですよ」
いそいそと脱ぎ出すリアン。
彼には脱ぎ癖でもあるんではないかと疑る今日この頃。
お外でズボンに手をかけた事は黒歴史になってないらしい。
まだまだ躾が足りないか?
「………ホノカ……その蔑むような視線は止めて。泣きたくなるから……」
えーい男の子でしょ!簡単に泣くなんて言うんじゃありません!!
まったくヘタレなんだから。
将来が心配だわ。って私はリアンの親か!
一人ボケ突っ込みをしているうちに上半身裸になったリアンの背中をジュール先生が熱心に見ては何やらメモを取っている。
何してるのかな?ってジュール先生の肩に止まってメモを覗きこんだらツボの位置を書き写していた。
むっ!?
今までは気がつかなかったけどジュール先生、肩が凝ってますね。
キラン!実験台2号み~つけた♪
先生に内緒で肩の凝りを解すように体の熱を上げていくと……
「うっ!」
熱くないよね?リアンで散々試したから体温調節はバッチリです♪
「先生?」
呻いたきり椅子に深く腰掛けて放心する先生に驚きつつも、直ぐに私の存在に気づいたリアンが苦笑いする。
「どうですか?」
「これがオキュウ?」
〔ツボを温めてるだけ。お灸はモグサって言う草をツボの上で燃やして温めるからちょっと違う〕
「体に直接、燃えた草を置くのか!?」
〔違う違う。モグサはごうごう燃えないから〕
「しかし!」
〔モグサの事は忘れて。私も上手く説明できないから〕
「う~ん……気になるが実物を見ない事には論議のしようもないか……」
〔そう言う事〕
まだ納得しづらいって顔しつつもジュール先生は諦めてくれた。
というよりはツボの温めに心奪われたみたい(笑)
リアンよりずっと肩凝りは酷くて辛かっただろうからね。
「……ホノカ……長い」
何に嫉妬してるのリアン!
待ちきれないとばかりにリアンは私をジュール先生の肩から自分の肩に移動させた。
あらあら。リアンも肩、凝り凝りだね。仕方ないな。
「リアン……ぜひ、今一度ホノカを貸してください!反対側の肩が痛くて!!」
効果は絶大(笑)
「ツボを温めるだけなら火の魔石とか使ってみたらどうですか?」
うむ。リアンは私を貸し出す気はないようだ。
「ツボが分かるのはホノカだけです」
先生も負けじと反論する。
次元低いな~(笑)
〔ツボは左右対称だから反対側の肩の同じ所を温めれば大丈夫!〕
「そう……ですか……」
ごめんね先生。リアンの方が優先なの。飼い主だからね(笑)
渋々といった感じで火の魔石を肩に乗せる先生が可愛いです。
「…………効かない………」
多分、温度が低いんでしょう。
「リアン……」
半目で睨まれてさすがにヘタレのリアンは負けた(笑)
「少しだけですよ」
私の意思確認は無いんかい!
まぁ元凶は私ですから仕方ない。
ジュール先生にもツボの効果を知って貰った数日後。
学園長から呼び出し受けたからってリアンと学園長室に行ったら肩凝り治してくれって真剣に御願いされた。
リアンは楽しそうに笑って「少しだけですよ師匠」って……
えーえ!師匠って師匠?
うむ。自分で何言ってるか分からん。
プチパニしてる間に学園長の肩に乗せられたら、むむ!凝り凝り!
もはや習い性となっているのか凝りを感知すると発熱する癖が!嫌な癖だ(笑)
「う~む。これはいい」
「ホノカが言うには身体中にツボがあって症状にあわせて温める場所が変わるそうです」
「男女で違いは?」
〔ありません。ただ私が知っているのは人間のツボなので人間以外には効くかどうか〕
まだ私は会ったことないけどこの世界には人間以外の種族もいるから警告しとかないとね。
君子危うきに近寄らずだよね。
使い方間違ってる?
「成る程。してホノカだったかな?全身のツボは知っているのかな?」
〔知りません。専門家じゃないですから〕
「う~む。では君の知っているツボと効能を教えて貰う事は可能かね?」
〔教えるのは構いませんけど、乱用すると危険です。ツボって人体に悪影響及ぼすことも有りますから〕
「ふむ。では研究機関を設けてそこで勉強した者だけに特別な許可証を与えると言うのでは?」
〔えーっと……〕
ストレッチに続いてツボの波及ですか?
まぁ魔法に頼れない地域とか魔法使いになれない人でも利用出来るようになれば職種が一つ増える訳だから良いのかな?
とりあえずは学園の先生方を実験台(笑)にして叩き台を作る事になった。
学園長はリアンのマジ師匠で名前はライルレイン。
なんとジュール先生もお弟子さんでリアンにとっては兄弟子になるんだって!
道理で異様に親しいと思った。
学園長は世界一の魔導師とかで新しい魔法もバンバン開発してしまう先駆者って二つ名持ち。
中二病な二つ名じゃなくてよかったと内心で安堵したのは内緒。
そんな学園長の協力を得てツボを温める魔法陣と専用の魔石が開発され、学園の卒業生の中から特に地方で生活してる人に声をかけて興味をもった人の所に研究員が派遣されて知識を伝授って方針ですすめていたら、あれよあれよというまに世界中で注目される事に。
再び王宮で表彰されました。
ついでに副産物というか温める魔法陣を料理に使えるんじゃねぇ?って発想から電子レンジ擬きを作りました。
題して“チンする魔法陣”
うん。ペットは飼い主に似るって言うから(笑)
これはまだ試作段階だったんだけど、学園長がまた呼び出されたら面倒だろうからって王宮の魔法研究室に報告あげたもんだからテンヤワンヤの大騒ぎ。
利便性が実証されて先行して表彰された。
う~ん。
まぁ良いかお金はあって困るもんじゃないって言うしね。
勲章は貰っても使い道なくて困るけど(笑)
そして今だに金の桶を諦めきれない飼い主が!!
顔中に雛鳥キックお見舞いしてやるって言ったら渋々、諦めたけどね(笑)
困ったもんだ。
楽しく書けました♪
後悔はしてません(笑)