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かれん。カレン

―400年後―  クレセント城塞 中央堡塁



 私は駆ける。

 城壁を飛び越え、制止しようとする兵の銃弾を弾き、私は駆ける。

 帝国、教国、連盟の最高権力者が集い、講和条文にサインを書き入れる。まさに今、五年に渡る大戦に終止符が打たれようとしていた。

「リエル!」

 銃声が響く。

 私が群衆を抜けたとき既に、エルフ連盟盟主、リエル・セア・アンヘルは拳銃の引き金を引き終わったところだった。銃口から、硝煙が上がり。返り血が、半身を紅に染めていた。

「貴様っ」

 青い軍服の兵士たちが小銃を向ける。倒れた教国大司卿の隣で、メーディウムによく似た皇帝が拳銃を抜いた。

 私は飛び込む。四方から銃弾が飛び込む中、私はリエルを抱き締め、床に押し倒した。ナノマシンが空中にピンポイントの装甲を作り、銃弾を弾く。

「かれん……?」

「リエル。帰りましょう」

 私は手のひらを向け、周囲を囲む兵士の一角を城壁ごと音波衝撃で宙に吹き飛ばすと、リエルをいわばお姫さまだっこのように抱えて、崩れた城壁を抜けた。背後から数十名の兵士が小銃を雨あられと撃ち鳴らした。

「かれん」

「カレンです」

 そういうと、リエルは口元を緩める。

「かれん。カレン」

 リエルは懐かしそうに、発音を練習した。

「カレン。私は、間違っていたのかしら。メーディウムに託した世界は、こうも憎悪と暴力に満ち、穢れきってしまった」

 リエルが抱えられた私の腕の中で小さくなる。

「リエル。ヒトには欲があります。自身の欲を叶えるためなら、他者を害することも厭いません。でも欲があるからこそ、ヒトには個性があり、生きる喜びがあり、他者を大切にする気持ちが生まれるのです。いつか分かります。昨日の友と、今日も共にいられる毎日が、どれほど代えがたいか」

 そういうと、リエルは微笑んだ。

「大丈夫。歩ける」

 気が付けば荒野。辺りに人の気配はなかった。

 リエルは立ち上がると、大きく背伸びをする。

「さて、どこに帰ればいいのかしら」

 私は口元を綻ばせた。

 


 白い雪が降りゆく中。私は友と肩を並べ、歩みを進める。

 新雪の積もった平原に、二人の足跡だけが続いてる。

 大地は冷たく、空は赤くとも、いつかは春が巡ってくる。

 私は胸の鼓動を確かめるように、紅いペンダントをそっと、握った。

 クレセント城塞での出来事は「亡国の姫君」で描写できなかった事件となります。メーディウムとメーディウムを造りだしたリエルの創世の物語はここで一度の終焉を迎え、二人は新たな道を進むことになる、一つの大きな区切りとなっております。

 なぜリエルが大司卿を殺すことになるのかは本節では明らかにできませんでしたが、将来、リエルの苦闘を描く物語を書いてみたいと考えております。

 ご拝読、ありがとうございました。

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