守護を、あの子に
「今日ハ歴史ト一緒ニ勉強シます。執筆当時ノ時代背景ヲ知ラズシテ、筆者ノ想イヲ読み解クコトハデキマセン」
私は歴史を、私の造られた時代では小学生並みの内容で、教室の生徒たちに教える。
途中、私は電脳内のアーカイブを検索し、手のひらに意識を集中する。
私の体を覆う細胞状機甲が手のひらに集い、固定化され、空中にディスプレイが生まれる。
「彼ハ、ユーラシア西部ニアッタ広大ナ国ノ軍人デ、戦記ノ中デハ指揮官トシテ辺境民族ノ征服ガ描カレテイマス」
生徒に当時の様子を写した資料映像を見せる。
「辺境トハ北部ノ荒野ノコトデ……」
授業中、メーディウムが立ち上がった。
「何デショウ。メーディウム」
メーディウムは立ち上がると、金色の瞳で私を見つめる。
「本書を読み気になったことですが、どうして軍人は民衆に称えられるのですか?人間が人間を殺すことが罪ならば、なぜ戦争で人間を殺してもいいのですか?」
感情で言えば、戦争に否定的な意見を述べることはできる。しかし、今望まれているのは論理的な答え。
「人々の活力ハ欲です。欲ニ際限ハアリマセン。自身の欲望ヲ叶エルタメナラ、他人ヲ殺メル事モアリます。シカシ、誰モガ自身の死ヲ嫌イます。ダカラ、戦争ヲ嫌ウ。戦争ガ起キレバ、自身の命ヲ落トス可能性ガ高マル。ヨッテ、戦争ハ極力回避シ、人殺シガ罪ナのです。答エニナッテイマスカ?」
「はい。ありがとうございました」
メーディウムの着席を確認し、私は授業を再開した。
「メーディウムがそんなことを?」
「ハイ。彼女ハ確カ」
「ええ。メーディウムのベースは、遺跡から見つかったミイラ。でも」
リエルは顎に手を当て、暫しうつむいた。
リエルは実験を繰り返していた。人間をベースに幾種もの遺伝子組み換えを行い、この焼けただれ、凍てつき、汚染された地上を蘇させるのに相応しい種族を生み出そうとしていた。
今のところ、最優秀なのはエルフだ。高い知能を持ち、半永久的な寿命を持ち、耳が尖った、本人は口にしないけど、おそらくはリエル自身をベースにしたデチューンクローン。でもエルフは個性が薄く、繁殖力を持たず、生産には人工培養漕が必須だった。リエルは、培養漕なく繁殖し、個性溢れ、頑丈な体を持つヒトを望んでいた。
「結局、一番バランスが取れているのは、神代の人間かもしれないわね」
リエルはため息を吐いた。
「まあ、メーディウムも単なるミイラのクローンでなくて、薄暗い地上でも生活できるように、目の感光能力を向上させたし、体の寒冷耐性も上げた。私の苦労も水の泡ではないわ」
そう言ってまた、ため息を吐いた。
「カレン。決めたわ」
「何ヲ、ですカ?」
リエルは寂しそうに、そっと。
「夕月の森の守護を、あの子に」