お遊びだから
10年後
「カレン。カレン! いる?」
小屋の苔むした木の門をリエルが開く。背後に馬が見える。
「カレン。 少し付き合って」
私は本を閉じ、ハンモックから降りた。
「如何サレタノですか?」
「見てほしいの」
「私ニ見セタイモノ?」
「いいから」
リエルが私の手を取り、私を小屋の庭から、リエルの馬の背へと誘う。
馬に揺られ、リエルの背に抱き着いてしばらくして、リエルは森の中に馬を止めた。
「着イタノですか?」
不意にリエルが私の背後から私の視界を遮るように、私の目を手で覆った。
目が見えなくても周りの情報を感じ取れる私だけれど、あえて他のセンサーや演算プログラムのスイッチを切った。
「カレン。そのまま真っ直ぐ歩いて」
私はゆっくりと歩いた。足元が固いのを感じた。懐かしいメロディーの鐘の音が聞こえる。
リエルが目隠しを解いた。
目の前に広がっていたのは白い大理石でできた平屋建ての建物だった。大きな入口。時計塔に、広い庭。
「中に入って」
リエルに手を引かれ、私は中へ入った。
「先生」
「先生!」
中で机に向かっていた子供らが立ち上がる。
「リエル。学校、ですか?」
「そうよ」
リエルは手で子供らに座るように指示すると、教室を出た。
「よく本の中に出てきた〝学校〟を作ってみたの。生徒も10人しかいないけど、先生が居ないのだから、仕方ない。カレン!」
リエルは急に声を張った。
「何デショウ?」
「〝先生〟をやってみない?」
リエルは私の両肩を叩いて言った。
「先生ヲ? 私ガですか?」
「私は校長先生になりたいの。そしたら生徒の担任の先生が必要でしょう。だからカレンは先生。生徒は私が造った優秀な生徒たち。〝学校〟で物語の素晴らしさを生徒たちに教えてほしいの。……大丈夫。お遊びだから、自由にしてくれていいの」
「遊ビ、ですか……」
ごっこ遊び。規模は大きいけれど、私が造られた頃の幼児の遊び、ママゴトと同じ気分なのだろう。……だろう?
「ワカリマシタ。先生役。務メサセテイタダキマス」
「本当!? ありがとう。カレン」
リエルは私を抱きしめた。
校庭の桜が舞う、四月の出来事だった。