夢を見ていたかった
雪の積もった畦道を歩きながら、私は背後を振り返る。あるのは黒煙を上げるひしゃげた鉄骨だけだ。
私は壊れた右足を引きづる。私の後に溝ができ、降り積もった黒い雪の下の白い雪が、街から一本の直線となって、すっと伸びている。
私は行く手を阻む巨岩に拳を振り下ろした。けれど、壊れるのは手ではなく、岩の方だった。
私は疲れて仰向けに倒れる。雪が体重で沈み、人の形にくぼみができる。
戦争は終結した。一面黒く煤けた雪原。ひしゃげた鉄骨。
私たちは勝った。なのに、こんなに悲しいのはなぜだろう。
私はポケットから携帯を取り出す。電波は圏外。メール画面には01の羅列。
私は生きたかった。生きるために壊した。
私は生きている。私は生きて終戦を迎えた。
なのに私の体は、今にも雪原の黒い雪に覆われようとしている。
なぜ生きたいのだ。なぜ生きるのだ。
雪の下には沢山の戦友が眠っている。彼らも戦いたくて戦ったのではない。ただ生きたかった。私も生きたかった。生きるためなら友の命も盾にする。そうしなければ生きられなかった。
携帯のホームボタンを押す。現れる壁紙にはあの人の姿。
正体を知りながらも、あの人は私をヒトとして扱ってくれた。
でも私は、あの人を。
携帯のバッテリー残量が限界に達し、画面が暗転する。
私はなぜ生きたいのだ。なぜ生きるのだ。
揺れる空の像を見つめ、私は雲に手を伸ばした。
いつかあの雲が千切れ、青い空が地を照らす。
戦争も終わって、機械と人とが対等に手を取り合って、私はあの人の隣に。
私は胸のペンダントを抱きしめる。
最初から叶わぬ夢だった。
それでも、私は夢を見ていたかったのだ。