おはよう
友達登場。
「おはよう──」
尋子がテーブルに朝食を並べながら、麻奈美に言う。
リビングに入ってきた麻奈美は、欠伸を手で隠しながら、おはよ。と席に着く。スーツも既に身につけて、鞄はテーブルの脚に立てかける。
「さて、ビリはどっちかしらね」
「どうだろ──」
そして入って来たのは、制服を着てリュックを持った朝人だった。
「おはようございます……」
少し声が眠そうだ。
「おはよ、アサ」
「どう? よく眠れた?」
「はい、寝られました──」
と席にリュックを掛けて、座る。
「ビリは世津奈ね」
麻奈美が言った後、階段をリズムよく降りてくる音がして、世津奈が現れた。
「おはよう──」
「おはよ。ビリだよ」
「え? あ、そっか……」
と朝人を見て呟く。
朝人は欠伸をしていたが、世津奈に見られていたことに気づき、挨拶をする。
「……おはよう」
「おはよう──」
「じゃ、皆揃ったことだし、食べましょう──」
席に着いて、手を合わせる。
「はい、いただきます」
『いただきます──』
*
朝食を済ませて、三人は玄関に向かった。
「気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
「行ってきます」
「行ってきます」
そして尋子は三人を見送る。
麻奈美は出たら左。世津奈と朝人は右に歩いていく。
歩きながら、世津奈が訊く。
「あれ、朝人くんは、学校って?」
「男子校」
「へえ。部活とかはやってるの?」
「茶道部に所属してる。週三回、お茶立てたりしてる。文化祭とかではちゃんと着物着たりして」
「そうなんだ──」
と世津奈は着物姿の朝人を想像する。
凛とした朝人がお茶を立てて、差し出す──
「きっと似合うだろうね」
「そうかな……//」
「うん──」
と世津奈は笑う。
「世津奈さんは、部活とか?」
「ううん、入ってない。放課後教室で友達と話したり、あとはバイト」
「そっか──」
「世津奈ー! おはよー」
と一人の女子生徒が走ってくる。
「おはよう、名奈」
「何? その人が新しく来たっていう人?」
「そう──」
名奈は、唯一世津奈がシェアハウスをしていることを話している親友だ。
「どうも、広岡朝人です」
「へえ、広岡くんかぁ。私は白沼名奈。よろしくね」
「はい」
すると、今度は朝人と同じ制服を着た男子が走ってくる。
「朝人じゃん! 何々? 何で女気ゼロのお前が女子といんの?」
「うるさい。甲斐──」
と朝人が制する。
「新しく引っ越した先で一緒に住んでる、新原世津奈さん」
「どうも……」
と世津奈は頭を下げる。
「へえ。俺は、濱崎甲斐。よろしく──」
すると、名奈は世津奈に。甲斐は朝人に耳打ちする。
「ヤバい、隣の子誰? タイプなんだけど」
「は?」
「何かビビビッて胸にきたんだけど! 一目惚れなんだけど!」
「ちょっ……」
「世津奈、濱崎くんタイプなんだけど//ドキドキするっ」
「え?」
「ビビビッてきちゃった//運命かも──」
世津奈と朝人は顔を見合わせて、戸惑った顔になる。
「あ、あのっ!」
そして声を発したのは、甲斐だった。
「わ、私ですか//?」
「はいっ! あの、お名前は?」
「白沼名奈、です//」
「白沼さん……わかりました! ラインとかやってたら、教えてもらえますか?」
「あ、はい。こちらこそ////」
とんとん拍子に話が進み、世津奈と朝人はぼんやりと見ていた。が、朝人が思い出したように口を開いた。
「そういえば、尋子さんの連絡先とか知らないや……」
「あ、そっか。メールアドレス送ろうか」
「うん。お願いします」
「あと麻奈美さんのも送るね。私はラインでいい?」
「あ、うん。ごめんね」
「いやいや、謝ることないよ──はい。完了」
「ありがとう」
朝人は昨日よりもはっきりと笑って言った。
ぁ……笑った//と、少しだけ世津奈はドキッとした気がした──
「よっしゃ! 行くぞ朝人! 遅刻しちゃうぜ!」
「あ、うん。じゃあ、また──」
「またね、白沼さん! あと新原さん」
「うん、また」
「うん//またね、濱崎くん!」
今日会ったばっかりの二人は、すっかり惹かれ合っていた。
遠ざかっていく朝人と甲斐を、世津奈は笑ったよね。と思いながら見つめていた。
「はあ〜////濱崎くんカッコいい〜////!」
隣から浮かれた声が聞こえてきて、世津奈はハッとした。
「名奈、浮かれてる場合じゃない! 私たちも急がないと!」
「え?」
「え? じゃないよ! 遅刻!」
世津奈は名奈の手をとって、走り出すのだった──
色々、回りだします。