突然の報せ
新連載です。よろしくお願いします(_ _)
突然の──。
「たっだいま〜! ウイッ──」
「お帰りって……麻奈美さんお酒臭い!」
と世津奈は自分の鼻を摘みながら、麻奈美の前に行く。
「仕方ないのよぉ、上司に飲まされちゃったんだからぁ、ヒック」
麻奈美の顔は、一目で酔っているとわかるぐらいに赤かった。
そしてスーツ姿のまま、玄関に座り込む。
「そんなになるまで飲むとか……ありえない──」
二人のやりとりが聞こえたのか、奥からおばさんというには若く、お姉さんというには歳のいった女性が出てくる。
「ちょっとなに? 麻奈美ちゃん酔ってるの?」
「尋子さん──そうなんですよ。上司に飲まされちゃったって」
「もう大人なんだから、ちょっとはしっかりしてよ。世津奈ちゃんに悪影響だわ──」
とため息を吐く。
そして吐いた分を吸ってから、テキパキと的確な指示をだし始める。
「世津奈ちゃん、コップに水容れてテーブルに置いておいてくれる? 私は麻奈美ちゃん運ぶから──」
そう言いながら、尋子はもう麻奈美の介抱に移っていた。
「ごめーん、尋子さぁーん。次からは気を付けましゅ!」
「はいはい。今度こんなになるまで飲んできたら、顔に水ぶちまけるからね? 覚えておいてよ」
「はいぃっ──」
そんなやりとりを見てから、世津奈はキッチンに向かった──
水を容れながら、世津奈は思う。
尋子さんだけは、敵に回さないようにしようと……。
「ほら、ちゃんと歩いて──」
「ふぁいー……」
少しすると、二人がリビングに入ってきた。
そして尋子はテーブルのイスに麻奈美を座らせ、自分の腰を軽く叩く。
「あたた……こう見えて歳いってるんだからね」
「何歳でしたっけえ? あ、ごじゅブフッ──」
麻奈美の言葉は、世津奈が容れたコップの水で遮られた。
なぜなら、尋子がおもむろに麻奈美の口に水を流し込んだからだ。
「レディーの歳を言うなんて、失礼な人ね、麻奈美ちゃん?」
「ずいまぜ……っ、ゴホッ、ゲホッ──」
「尋子さん! 麻奈美さん死んじゃいますよ!」
と世津奈は麻奈美の背中をさすりながら言う。
「大丈夫よ、二十代でまだ若いんだから」
「そういう問題じゃないですよ尋子さん!」
「まあまあ、落ち着いて世津奈ちゃん。これで麻奈美ちゃんの酔いが覚めたなら、丁度いいわ──」
と尋子は胸を張って言う。
「えー。我が家、もといこの私が大家の『心羽家』に、新しい人が入ることになりました──」
拍手〜と尋子は手を叩く。
そんな尋子を、世津奈と麻奈美がぽかんと見る。
「ちょっとちょっと、反応薄くない? もっと食いついてもいいんじゃないの?」
と尋子はつまんないなぁというように、麻奈美の前のイスに座る。
世津奈も麻奈美の隣のイスに座った。
それを確認して、尋子は口を開く。
「この前ね、パソコンで募集かけたのよ。一人だけ──そしたら、運良く一人が連絡くれてね」
「え? それって女? 男?」
すっかり酔いも覚め、もとに戻った麻奈美が訊く。
「よく聞いてくれました。世津奈ちゃんと同じよ」
「じゃあ、女子か」
「何言ってるの? 男子よ。世津奈ちゃんと同じ高校二年生」
「え?」
と世津奈が声をあげた。
「大丈夫よ。電話で聞いた声は落ち着いてたし、この前だって合ってきたし。ちょっと無愛想だったけど大丈夫そうだったわ──それに世津奈ちゃんや麻奈美ちゃんに何かあったら、私がすぐさま追い出すから。安心して」
と尋子が口に手を当てて笑う。
若干、黒いオーラが漂っているように見える……。
「じゃあ、部屋は空いてる所だよね。ってことは、世津奈の隣の部屋?」
「そう。二階の。一階は私と麻奈美ちゃんの部屋だから」
「……男子」
と世津奈は呟く。
落ち着いてたって言っても無愛想って……怖いじゃん……!
……………無理──
「世津奈ちゃん、そんな顔しないで。大丈夫」
そんなに嫌な顔をしていたのか、尋子は世津奈に言った。
「明日の放課後から来るから」
「……明日!?」
と世津奈は思わず目を見張った。
今日初めて知って、明日にはもう来ると言われたら、世津奈じゃなくても誰もが驚くだろう。
「そう。荷物も明日二人が学校、仕事行ってる間に来て、整頓しちゃうから。ゴタゴタしないから安心して」
「そういう問題ですか?!」
「そういう問題ね。あとは明日彼が来てからにしましょう」
と尋子は席を立って行こうとする。
すると今まで黙って聞いていた麻奈美が、疑問を口にした。
「それで、彼の名前は?」
「名前? あー……何だったかしら。えっと……ああ! 思い出した──朝人くんよ」
そう言って尋子は、ぽんっと手を叩いた。
そして世津奈は状況について行けず、やっぱりぽかんとした顔で尋子を見るのだった──
次回、朝人登場。
休日に投稿するつもりですが、不定期になるかもしれません。