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ブリス(2号)の日記いちにちめ

ブリス(2号)

職業:戦士(初級ゲーム)

流儀:チャウベリー式剣術

技量:一一

体力:二二

運勢:一〇

金貨:二〇枚

食料:二食分

装備:剣、背負い袋

祝福:正義と真実の女神の加護

「ううう、苦しいっ。せめて、せめてもう一口だけ…っ」

「超・女神崩しっ」

「もげーっ!?」

 頭に物凄い衝撃を受けて、あたしは目が覚めました。あれっ、こんな事が前にもあった気が…?

「起きなさいブリス。そして、いい加減懲りなさい」

「あれっ…女神、様?」

「そう、この世界の隠れアイドルにしてお茶の間の人気者、正義と真実の女神です」

 気が付くとあたしは、前哨部隊居留地の、自分の部屋のベッドに寝ていました。そして、怪しい女の人が部屋に不法侵入していました。

「今女神様って言いましたよねブリス!? 自己紹介もしましたし!」

「あたしは一体どうなっちゃったんですか? あの首狩り族は? そして何より、食べかけだったあたしのご飯は…?」

「今までの事は私が見せた夢。あり得る真実の一端です」

「そんな…! じゃあ、あのご飯も全部夢だったって言うんですかっ?」

「死んじゃったのが夢なのを喜びなさいなブリス。てゆっかいい加減その食い意地が失敗の原因だったと反省なさい」

「うう、言われてみればそうですね。あたし、我慢が足りませんでした…!」

「よろすい。素直な娘は好きですよブリス」

「ご飯…一日、一食で…我慢…します…っ」

「ガチ泣き!?」

 女神様になだすかされて、あたしは涙を拭って立ち上がりました。

「さあ、もう一度旅立つのですブリス。今度こそ道を違えぬ様に…」

「解りました女神様! でも、一つだけ教えて下さい…!」

「何ですかブリス」

「食べかけのあたしのご飯、あの後どうなったんですか?」

「食べかけのご飯は、女神スタッフが美味しく頂きました」

「うわーん!」


 居留地の皆さんに挨拶を済ませると、あたしはいよいよカントの門を潜って、“無秩序地帯”への旅に乗り出しました。軍曹さんは心配げでしたが、大丈夫。だって初めて行く気がしませんもん。

既視感カバブーか…」

「はい、ルビ違う」

 麗らかな陽気の中をてくてくと歩いて、やがてカントの集落に辿り着きました。

 村の中を歩いていくと、突然マッチョ系小型おじさんが飛び出してきました。

「次にお前は、『其処そこで止まれ! 見知らぬ者よ。カントに何の用だ?』と言うッ」

「其処で止まれ! 見知らぬ者よ。カントに…ハッ!?」

 ドドドドドドドド!

「はいはいブリス。J○J○立ちしてないで、何とか言っておあげなさい。固まっちゃってるではないですか」

 さて、この人に聞くべき事は決まってます。それはッ…!

「次に貴女あなたは、『お腹が減っているので、何か食べ物を分けて貰えませんかっ』と言うッ!」

「お腹が減っているので、何か…ハッ!?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 あたしと女神様は、互いにJ○J○立ちしたまま、睨み合いました。先に動いた方が負ける…ッ!

「あの…結局お前は、何しにカントに来たんだ?」

 置いてけぼりなおじさんが、呆れ顔であたしに言いました。

「勝負はお預けですね…!」

「いいでしょう、次は覚悟する事ですね、ブリス…!」

 あたしは女神様と熱い握手を交わすと、おじさんに向き直りました。

「えっと、あたしはどっちに行ったらいいでしょうかっ」

「ヘコーッ」

 おじさんは、最早伝統の域にあるコケ芸を存分に見せ付けてから言いました。

「どっちって…そもそも何処どこに行きたいんだお前」

「“城砦都市”の方…?」

「何で自信なさげなんだ。そんなんで、よく旅をしようなどと思ったな。かく言う儂もこの村を出た事はないのだが、この先で道は二本に分かれておる。教えてやらんでもないが、タダという訳にゃいかない。金貨二枚くれたら、儂の知っている事を教えてやろう」

「はい、じゃあお駄賃あげるから、お姉ちゃんに知ってる事教えてくださいね?」

 あたしはチビおじさんに金貨をあげました。


※金貨:二〇→一八枚


「てめ、チビ舐めンなアホの癖に!」

 おじさんは金貨を腰の財布にしまうと言いました。

「…まあいい。低い方の谷はエルヴィンの谷を抜けていく。エルヴィン共ときたら悪ふざけが好きな上魔法も使えるから、余程の覚悟がない限り、この道はした方がいい。高い方の道は鉱山を通って丘へ登っていく」

 そこまで言うと、おじさんは声を上げて笑いました。

「だがな、この道を行くなら方角に気を付けるのじゃ! 真っ直ぐにクリスタ村を目指すが良かろう。一日か二日で着く筈じゃ。シャムの丘には余所者よそものを歓迎する村はほとんど無いが、クリスタならば少なくとも食べ物と眠る所には困らんじゃろう。それから旅の途中、黒いロータスの花には気を付けるがいい。甘い薫りは命取りじゃ」

「うおお…。三文字にまとめられませんかね?」

「魔法使いか! 知るかっ、勝手にせい!」

「うう~、アホで御免なさいー」

「ぐぬぬ…負けませんよ、ブリス。この世界で一番面白くて可愛いのは、この私なのですから…!」

 女神様が隅の方でハンカチを噛んでますが、意味解んないので放っといて、おじさんに御礼を言い先へ進みます。

 村の中央通りを歩いていると、見覚えのある宿屋が見えました。ごくり。

「め、女神様、この先のご飯を買い込んどくのは、別にいいですよね…?」

「ブリスよ、基本的に私は貴女の決断に口を差し挟みません。貴女の意志で、運命を切り拓いていくのです。その結果、どんな面白い死を迎えたとしても、それは自己責任というものです」

おごそかにしどい事言われた!」

 やぅし、見よ、ブリスの精神力っ。

「だったら、覗いてみましょう。大丈夫。必要以上、買わない。おけ」

「片言が不安ですブリス」

 宿屋に入ると、脳髄を麻痺させる様な極上の香りが、あたしの脳髄を麻痺させます。

「かぶってますよブリス」

「いらっしゃいお嬢ちゃん。飯なら暖かいのが金貨一枚、旅用に欲しいならパンと山羊の乳のチーズが金貨二枚…って凄い涎だな!」

「大丈夫、今あたしお腹と背中がくっつく程満腹なので、パンとチーズだけ下さい」

「あ、ああ…」


※金貨:一八→一六枚

※食料:二→四食分


 宿を出て村を離れ、あたしはようやく人心地着きました。

「女神様、あたし、やりました…! ご飯我慢しましたっ。人間やればできるんですねっ…! 人間讃歌は『腹ペコ我慢』の讃歌ッ!! 人間の素晴らしさは我慢の素晴らしさ!!」

「え、ええブリス。やったね。凄いね」

 感涙しつつ、二股の道まで辿り着きました。

 分かれ道には大きな木があり、其処そこには一人のお爺さんが…

「おぅい…誰か」

「そりゃたりゃっ」

「ちょっとブリス…。まだ『助けて』とも言ってないのに」

「あたし達アナ国人は、『助けよう』と思った時には、もう助けているんですッ。『助けた』なら使ってもいいッ」

「また斬新なアナ国人観を。シムニードは何て言うでしょうね」

「えぇ~っと、とりあえず、ありがとよ…? 御陰で助かったぜ」

「次に貴男あなたは…ッ、…ッ、…ッ、詩を言うッ」

「えっ? ああ、そうだ。よく判ったな? これくらいしか礼になるものが無くてよ」

「予知夢は、知ったかぶりして楽しむものではありませんよ、ブリス? あと、うろ覚え超・格好悪い」

「覚えてましたよ! ちょい出てこなかっただけですよ!」

「何を喚いているのか知らんが、とりあえず聞いとけ」


 そいつは其処に見えてるが、彼にはお前が見えはせぬ

 黒い目をした生き物が、そっと忍んで寄ってくる

 守護者だったは昔の事で、今や哀れなこの運命

 自由への鍵は彼の手に


「そうそう、そんな感じでした! 覚えてました。あいかわらず、いとおかしいうたですねー」

「結局意味は解らないんですねブリス」

「何だ、知ってたのか。じゃあ他には…そうだ、こいつをやろう」

 そう言うと、お爺さんは懐から羊皮紙を一枚取り出しました。

「むむ…! あれは魔法の呪文の書の一部…!」

「知っているのですかブリス!?」

「うむ…! かつて虫除けの為に伝えられたというひでんのしょ…! まさかこの目で見られようとは…!」


装備追加:魔法の呪文の書一頁


「な、何で知っているんだ…? 薄気味悪いな…」

 お爺さんは、気持ち悪そうにあたしから離れていきました。

「次は蜂蜜採りですねっ。これにはコツがあるんですよ」

「はいはい」

 やはり木の上には、蜂の巣がブンブンいっています。

「蜂はですね、自分達の敵に敏感なんですよ。だからね、こうやって、あたしは敵じゃないよーって示してやれば、ほーら、全然平気なんですねー」

「前回と言ってる事一緒ですよブリス」

「よーしゃよしゃよしゃよしゃ」

 あたしは全身から敵じゃないよオーラを発散しつつ、木に登っていきます。


※体力:二二→一九


 ぶすぶすぶす

「ねっ? 簡単だったでしょう?」

「貴女は本当に期待を裏切らない娘ですねブリス」

 こまけぇこたぁいいんです。蜂蜜さえ手に入るなら、このくらいCHA‐LA HEAD‐CHA‐LAです。

「頭空っぽの方が夢詰め込めますものねブリス」


食料追加:蜂蜜(一食分に相当)

装備追加:蜜蝋


 前はえるびんに酷い目に遭わされましたからね。今度は丘を越え行ってみましょう。

「口笛吹きつつですねブリス」

「ひゅー、すー」

「吹けねえのかよ」

 曲がりくねった道は、やがて森の中へ入っていきます。木漏れ日きらきら、綺麗です。ご飯を食べるのに、ちょうど良さそうな所までやって来ました。

「…女神様、今朝のは一食に数えるんでしょうか?」

「あれどうなんでしょうね? プロローグの食事って、ゲーム的には一食なのかしら?」

「ゲームって何ですか?」

「何でもなくてよ、可愛いブリス」

「えへへ、可愛いですかあたし。やっほう」

「チョロい」

「ん! でも我慢しますっ。お婆ちゃんが言ってました…約束を破る子はご飯抜きだ、と…!」

「それじゃどっちにしろ食べられない気がしますけど、いい子ですよブリス」

「高速のヴィジョン見逃すな、ついてこれるなら!」

 誘惑を断ち切り、あたしは駆け足でその場を立ち去りました。

 道をくねくね二,三時間も登っていると、空気がひんやりしてきて、辺りが暗くなってきました。でも、だんだんと満月が昇ってきて、辺りを照らしてくれます。

 ちょっと寝ときましょう。腹ペコな上に徹夜なんかしたら…

「貴女くらいタフだと、どうという事はないでしょう? ブリス」

「やな気分です」

「ゆとりか」

 あたしは野宿に決めて、荷物を下ろしました。

「おっ、ここで先程の答えが出ましたよブリス。“アナ国を出てから初めての食事であれば”という事なので、今朝の分は一食に含みません」

「何の事を言ってるのか解りませんけど、とにかく今ご飯にしてもいいって事ですね? やったねブリちゃん、ご飯が喰えるよ!」

「おい馬鹿やめろ」


※食糧:四→三食分

※体力:一九→二一


 毛布を背負い袋から引っ張り出し、木の下でくるまって横になります。

「お休みなさい女神様。寝る前のご飯最高ですむにゃむにゃ」

「太りますよブリス。お休みなさい…」

 ………

 人が寝ようとしているのに、女神様がハッハハッハグルグルうるさいです。全く、キャンプくらいではしゃいじゃって、困った女神様ですね。

ひとを林間学校でハイになったクラスメイトみたいに言ってはいけませんよブリス。てゆっか、そのままだと喰われますよ?」

「うわんちっと!?」

 何とっ。煩かったのは女神様ではなく、狼犬でした。意外な展開ですね。

「私がハッハハッハグルグル言ってるのは意外でないと?」

 食べるのならともかく、食べられるのは御免です。あたしは剣を抜き放ちました。

「戦士の癖に、何げに初戦闘ですねブリス」

 こう見えても、アナ国の剣術学校で、腹ペコに耐えながら頑張って剣術を習ったんです。わんちゃんなんかに負けません。

 剣を軽く振りかぶると、狼犬は唸り声をあげて跳び掛かってきました。

「わんちゃん死すべしっ」

 地面にしゃがみ込む様に、剣を振り下ろします。地面ごと叩き斬る心構えで。頭を割られた狼犬が、あたしを飛び越えて地面に落ちました。

 狼犬にトドメを刺すと、あたしはもう一度毛布に潜り込みました。

「強いのはちゃんと強いんですよねぇ、この娘…」

「もう騒いじゃ駄目ですよ、女神様」

「私が騒いだ事にされてる!?」

 翌朝、多少寝不足を感じつつ、出発の準備をします。


※体力:二一→二二


ブリス(2号)

職業:戦士(初級ゲーム)

流儀:チャウベリー式剣術

技量:一一

体力:二二

運勢:一〇

金貨:一六枚

食料:三食分、蜂蜜(一食分に相当)

装備:剣、背負い袋、魔法の呪文の書一頁、蜜蝋

祝福:正義と真実の女神の加護

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