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四「着床」前

 宇宙船ケッペサ号は故郷の惑星ホンザイルを遥か離れ、通信波は、送るも届くも定期的に発している無事を知らせるものだけとなった。

 そんな状態が長い間続いていた。

 それは、本当に永遠に続いてしまうのではないかと言う錯覚に陥りそうだった。

 が、ここへ来て変化が現れた。

 一様に船を取り囲んでいた星たちの中に、一際大きく黄色い星が目立って来ている。

 それは、もちろん船の正面。

 とうとう目の前来たのだ。

 恒星「ケッペザイル」に。


      1 

「コラ、どうしてくれる」

……どがっ

 食堂で飯を食っていたナグワの背中に、ライルヒの蹴りが入った。

「ンだこのや……やぁライルヒ。六回ぶり」

 『六回』とは冬眠薬が切れて起きた回数のこと。しばらく起きていて、また薬を飲んで長期間眠ってしまう。体質により眠っている時間が異なるため、起きるタイミングが合わない時はとことんまで合わない。

「えー、タイミングが合いませんでしたねー!」

「どうしたのさ、ライルヒ。目くじら立てちゃってさ」

「これを見てよ、ホラ」

 ライルヒが指差した彼女の腹がぽっこりと出っ張っている。

「太ったね」

「エアロックから放り出されたい?」

「で、誰の子だい?」

「ねぇ、あんた、粉にしてモッペドンドに振りかけられたいの?」

「ひょえ~~~!」

 ナグワは食器を放り出しそうな勢いでのけぞった。

 そこに、ひょろっと背の高い男が現れた。

「なんだ、ナグワも起きてたのか。のけぞってたら飯が冷めるぞ」

 そう言って男は注文ボタンを押した。

「や、やぁザグモ、二回ぶり」

「俺は三回ぶり。ところで、なんか有ったのか、お前ら」

 両者に面識が有るザグモと呼ばれた男は、二人の顔を交互に見た。

「プロポーズしていたのよ」

「違う、僕に責任を取るよう詰め寄って来たのだ」 

 両耳で同時にそれを聞いたザグモは「は~」と力なくため息をついて、二人の背中をとんとんとたたいた。

「同じこと、同じこと。公式にも事実上も、まぁ、とにかくおめでとう」

 そう言われて、ライルヒはちょっと下を向いて赤くなりながら「ありがとう」と、ゆっくり席に着いた。

「今日は、どれにしようかな」

 ライルヒは、わざとらしく声に出しながら注文ボタンを押した。

 あまり言葉を交わすことなく姑く末と、丸いふた付きの黄色い給仕機がザグモの料理を持って来た。やや遅れて、ライルヒの分も来た。

「あら、どっちにも顔が描いてある。いったい、誰が描いたのかしら」

 見ると、動き回っている給仕機の全てに顔が。

 ザグモがにやりと笑って「俺」と言った。

「正確には俺『も』だ。いろんな奴が描いてる」

 そういえば、一台一台タッチが違う。

 そんなことを思いながら二人が蓋をとって中身を出した所で、先に食べ終わったナグワが口を開いた。

「ところで、冬眠薬が支給されてないようなんだが、やはり、まもなくなのか?」

 残る二人が、口をもごもごさせながらウンウンうなずいた。

 そして、先に口の中が空になったザグモが答えた。

「もう近いので、通常サイクルで寝起きするように掲示板に貼り出されてたぞ」

「そうか、見てくる」

 ナグワはそう言うと、食堂の隅にある掲示板に向かった。

『ケッペザイル近し。全員、通常サイクルにて待機せよ。なお、体に異常等がある者は、すみやかにクルーに申し出るように』

 たしかに、このようなことが貼り出されていた。

「異常、ねぇ」

 そうつぶやきながら、ナグワはライルヒの方を振り返った。

「やっぱり、報告しなきゃなぁ」


      2

「と、いうわけで、できました」

 ナグワとライルヒはブリッジの詰め所に出頭し、窓口の係員に申し出た。

「そうですか。おめでとうございます。ちょっと、上に報告してきますんで」

 ちょっとくたびれた様子の係員は、そう言って下がった。

 そしてまもなく、奥の方から「こちらにどうぞ」という声がかかった。

 二人が照れくさそうにしながら奥の部屋に入ると、老人が一人、座って待っていた。

 どこかで見たことのある顔だが、なにかおかしい。

「船長さん、ですか?」

 ライルヒがおそるおそる訊いた。

「そうだ。驚いてるのか、まあ仕方ない。ずっと通常サイクルのまま寝起きしてるから、君たちよりずっと早く歳をとってるもんでな」

 ナグワはどう反応していいか分からず「はぁ」とだけ答えた。

「なんだ、ぽかんとしちゃってよぉ。それより、おめでとう。このまま行けば、ケッペザイル最初の赤ん坊だ!がははは、大丈夫、ちゃんとそのための装備もつんであるさ」

 カンザル船長は姿こそ老けたものの、相変わらずの豪快な笑い声を響き渡らせた。

「だが、もうじき減速に入る。また強烈なのに耐えなきゃならないから、ライルヒ専用のシートを用意することになる」

「なにか、特別なことをして下さるのですか?」

「心配かね、ライルヒ。大丈夫、補助緩和装置を追加したシートに座ってもらうだけさ。ま、そこから動かないでもらう分、ちょっとしんどいかもしれんがな。なぁに、母子ともちゃんと守るから、心配するなって!」

 カンザルはそう言って胸をはった。その口元がすこしニヤニヤしている。

 言われたライルヒも、同伴のナグワも照れ笑い。

「あ~、ところで」

 ナグワがちょっと真顔になって訊いた。

「船長は、平気なんですか。随分と、アレですが」

「わははは、バカもん。若い頃の鍛え方が違う。今のお前らより、よほど頑丈だわ!」

 カンザルはナグワの心配を笑って一蹴した。



     3

 乗員たちは、それから五回、通常サイクルで寝起きした。

 その間に、全員が通常サイクルに戻り、いつでも減速に入れる状態になっていた。

 船はいつの間にか回れ右をし、恒星ケッペザイルに背を向けている。

 そのというべきか、ついにいつぞやに使ったキャビンへの集合がかけられた。

 今度は後ろを向いて加速、すなわち減速だ。

「とうとう、ね」

 ライルヒは先に呼ばれ、別室にあるちょっと大きなカプセルに押し込められていた。

 付き添いをしているナグワが「が、がんばれよー」とそわそわしながら答えた。

「さ、付き添いはそろそろ一般のキャビンに移動だ」

 何故か来ていたザグモがナグワをつついた。

「なんで、お前に言われないといかんのだ」

「悪いが、俺は医者だ。『特別席』の設置が終わるまで、作業があるんだよ」

「ちぇっ。分かったよ。じゃ、ライルヒ、俺は行くよ!」

 ナグワはそう言って手を振った。

「こっちは、心配無用よ。それじゃ」

 ライルヒがそれに答えて手を振り、そしてまもなくカプセルの蓋が閉められた。

 それを確認したナグワは、通用口を通ってキャビンに入った。

 すでに人でごった返しており、船の回転による疑似重力が切られるのを首を長くして待っていた。

「間もなく、無重量状態になります。皆さん、席に着く用意をして下さい」

 暫くして、タルルカの声で放送が入り、ぐぐっという横揺れの後、皆の体から体重が消えた。

 フワフワと泳ぐようにして、皆思い思いに自分のシートに向かう。

「えっこら、よっこいさ」

 ナグワも、自分のシートに向かい、今度は巧くおさまることに成功した。

「よーナグワ。『特別席』の設置はうまくいったぞ。安心しろぉ~」

 三つ下の席から、ザグモが叫んだ。

「おお、ご苦労さん!じゃ、後は止まるのを待つだけだ~」

 ザグモに声を返し、今のうちとばかりに思いきりノビをするナグワ。とっくに腹をくくっている。

『まもなく、減速を開始します。シートベルトを確認して下さい』

 

「シートベルトを確認して下さい」

 航海長のタルルカは放送を入れると、自分のベルトも確認した。

 星空の中で一番眩しいはずのケッペザイルは、真後ろにあり今は見えない。

 そのケッペザイル星系の様子は、いままでたっぷり時間をかけて観測してあり、侵入コースも精密に設定してある。

 彼等の趣味ではないが、全て機械任せでいく予定だ。

 最終的に、外惑星系の一つ「ケッペマンザ」に着くことになっている。

「減速、開始」

「減速、開始!」

 船長のカンザルが命じ、タルルカが復唱、機械の操作を行った。

……ウィーーーン

 今まで眠っていたモーターが目を覚まし、巨大なケッペサ号を猛然と逆向きに加速させはじめた。

「やれやれ。またしばらくしんどい思いをするな」

 タルルカはシートに押し付けられながらつぶやいた。


 メンザイルを離れたときとは逆に、後ろから火の玉が迫り、あっという間に離れて行った。

「メンザイルより、ちょっと赤いですかね?」

 タルルカが言った。

「ええ、ちょっと温度が低いものですから。今まで高速で接近してたので、気になりませんでしたが」

 観測班のナクケが答えた。

「寒いかな」

「あはは。やっぱり、熱いですよ」

 そう言っている間にも恒星ケッペザイルはすっ飛んで行き、船の正面方向でどんどん小さくなって行った。 

「さて、来るときの反対で、ここからが長いんだよな~……あれ? 船長、見て下さい」

「どうした、タルルカ」

「白いのが三つ。右の方に」

「ああ、なんか動いてるな。彗星か何かだろう」

「珍しいですね。三つ並んだ彗星なんて」

「他所の星系だからな、何があっても驚くめぇよ」

 タルルカには、その白い物体がなにかダンスをしてるように見えた。

 自分達が動いてるから、何かの錯覚だろう。

 そんなことを思っているうちに、白い物体は視界から消えてしまった。

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