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参「巡航」 後

      3

 「ふゎ~」といいながら、ライルヒは起き上がって周りを見回した。

 狭くて地味なベッド、一応外が見える、足下に開いた小さな窓。そして同室の仲間達。

「ああ、ケッペサ号の中だったっけ。どれだけ寝たのかしら」

 ライルヒはベッドから降り、部屋の端末で時間を調べた。

「随分寝たのね。しかし、よく効く薬ねぇ」

 彼女を含め、船の運用と航海に直接関係のない者は、「冬眠薬」の投与によって、普段の何倍もの長い時間を眠り、しばらく動き回った後にまた薬を飲んでまた寝る、という生活を繰り返していた。

 「冬眠薬」は、かつて彼等の先祖達が冬になると冬眠していたころの遺伝子を活性化させ、新陳代謝を最低限に押さえて眠る薬。それでいて健康に何の影響も及ぼさない優れものだった。

 もちろん、食事も少なくて済み、老化も少し遅らせられる。また、起きている時間が短くて済むため、長い旅でも「早くついた」気分になれる。

 ライルヒはちょうど薬が切れた、ということだった。

 そして、起きて二呼吸ほどしたところ、ものすごく空腹であるのに気がつき、まっさきに食堂に向かった。

「あら、鈍感君」

「ドンカンいうなっ! ナグワって名前がある」

「知ってるわよ、鈍感君。あなたも、食事のようね」

「ああ。君は?」

「名前をきいてるの? あたしはライルヒ。ノノルア先生の所にいたわ」

 それを聞いて、ナグワは一瞬立ち止まった。

「そりゃ、すごい」

「そうかなあ。ほら、そこを降りたら食堂よ」


 二人は展望室もかねた食堂に入ると、一番窓に近い席に座った。

 窓の外の景色は、彼等の頭の方を中心にゆっくり回っている。

 いや、回っているのは船の方。遠心力で疑似重力を作っている。

 横の「窓」から外を見られるのは、船の外郭の、そのまた外側にはり出して作られた食堂だけ。

 周りをみると、結構乗員が集まっていた。起きてる者は、ここに来ている場合が多い。

 とはいえ、一度冬眠薬を使うと普段の十倍は眠ったまま。起きている者が少ないから、その影もまばらだった。

「さて、何を食べようかしら」

 二人が五種類ほどのメニューから好みの食事を選び、テーブルの隅に有るスイッチを押すと、給仕機が小さなモーター音を立てながら近付いて来た。

 給仕機は、ちょうどテーブルと同じ高さの、両手で抱えられるほどの円筒形をした胴体をしていて、そのてっぺんに半球型の「ふた」がついている。胴体は黄色で、ふたは赤い。その赤いふたの上には、銀色の取っ手がついていた。

 そして、それは二人の席の横で停止すると、自動音声で『ドーゾ』と言った。

「だれよ~、これ書いたの」

 円筒形のふたの部分に、誰かが「顔」を書き加えていた。

 そして、中の食べ物を取り出すためにふたを外すと、なんか口を「あへ~っ」と開いたみたいに見えた。

「うはは、かわいい」

「いいな、このマヌケ面! うまいなあ、あははは」

 二人を料理を取るのも忘れて、二を開けたり閉めたりしながら、思わずそれを見ていた。

『リョウリ、サメル。ハヨ、クエ』

「うわ、自動音声におこられちゃったわ」

「やられた~。この顔で言われると、笑っちゃうじゃねーか」

 そう言いながらも二人は中の食事を取り出し、窓の外を見ながら食べはじめた。

「食べ終わったら、運動もしなくちゃね。体が弱っちゃうわ」

「まったくだ。じっとしてる時間、長いからなぁ」



「交代ですよ。タルルカ機関長」

 ブリッジの戸が開き、交代要因が入って来た。

「ン、ああ。もうそんな時間か」

 タルルカはそう言って席を代わった。

「ここにいると、時間の感覚が狂うよな」

「まったくです。機関長は、何をして時間を過ごしてますか」

「そうだな、何もしてない。ぼーっとしてる」

「それが一番ですかね」

「どうだろう。好きなことしてればいいんじゃないか。一応、ゲームとかも有るし」

「とっくに飽きましたよ」

「あはは、お前もか。じゃ、ぼーっとしてろ」

「了解。お疲れ様でした、機関長」

 タルルカはそれに「おぅ」とだけ返事をしてその場を離れ、自室に向かった。


 彼等のように直接船を動かす者達は「冬眠薬」もつかえず、通常どおりの時間で寝起きをし、一般の乗員の何倍もの「暇な時間」を送っていた。

 彼等が暇と言うことは、即ちトラブルがないということ。

 とても良いことだ。

 ただ、やることがないとうだけ。

 なくたって、目的地は近付いている。


星の海から age1-第参話 了

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