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壱「黎明」 後

     8

 ナフたちがエアロックの前までもどると、スーツを着て外に出たケッペサが、生命維持ユニットの「換え」を持って待っていた。それも、二つ。

「あい、すまん。降りなくていいから、ちょっと動かんでくれ。」

 ケッペサは、ひょいと人力宇宙船に飛び乗ると、スーツの背中にある生命維持ユニットを二人分、手際良く付け替えた。

「宇宙食と水の入ったパッケージだ。ちゃんとした食い物でなくてわるのぉ」

「どうしたんですか、先生?」

「どうしたもこうしたも……今日はノノルア教授が『例の件』を公式発表するはずだったのだが、何者かに彼のいる区画を隔離されてしまって、会場に行けなくなってしもうたのだ。」

「キノコの件ですか?」

「そうじゃ。やはり、発表されると困る連中がおるってことじゃ。」

「で、ノノルア教授を迎えに行けと?」

「すまんが、他に手立てはない。第三十七区画で待っているはずだから、たのむ。」

「三十七、っていうと、ここから八ブロックですね。ステーションを五分の一ほど回った所か。たいしたことない、行きますよ」

「それは、たすかる!それで、わしの所まで戻ってくれれば、会場まで直通になっておる。時間はそれほどないので、がんばってくれ!」

「あ、ああ。でも、帰ったら、何か美味い物を喰わせて下さいね」

「しかたないのぉ、用意しておくわ」

 ケッペさは、こんな時になにをいう、という顔をしてみせた。

「さ、いきましょ」

「いきましょって、おい……」

 ヌフラはそう言うと、またナフより先に人力宇宙船に乗ってしまった。

「今、これを動かせるのは、貴方と私しかいないの。疲れたでしょうから、行きは私が操縦するわ。」

「なに、ヌフラも動かせるのか?」 

「ええ。貴方ほど長時間は無理ですけど」

「なんだ、俺が一番じゃねーのかよ」

 ナフがちょっといじけた。

「お前らもめてないで、早くノノルアの所にいってくれ」

「おっと、先生ごめんよ。それじゃ行ってくるわ。」



      9

「はて、困った。ケッペサ教授と連絡はとれたが……」

 ノノルアは自分の研究室で困り果てていた。

 モッペドンドの栽培法の研究が一段落し、いざ発表と言う時になって、きゅうに自分のいるブロックから出られなくなって入るのに気がついた。

 いろいろ調べてみたが、どうやら配線とソフトウエアに細工がしてある。

 機械については全くの素人であるノノルアには、自力で治せる見込みはない。

 修理を呼んではおいたが、こちらに来るのを待ってたら、発表会が終わってしまう。

 そこに、先ほど連絡を取ったケッペサから電話が入った。

『ノノルア教授、わしの教え子達をそっちに向かわせたから、宇宙服に着替えて、外で待っててはくれないか?』

「宇宙船でも寄越す気ですか」

『ま、そんなとこだ。とにかく外でまっててください』

 ノノルアは、いまいち腑に落ちないが、ケッペサの言うことを信じて宇宙服にきがえはじめた。


      10

 巨大なドーナツ状のステーションの内側に沿って、二人を乗せた船はゆっくり移動していった。

 右手には惑星ホンザイルが青と白のマーブル模様を見せつけて浮かんでいる。

 目を凝らすと、小さな影が張り付いているのが見えた。

「あれ、ノノルア先生か?」

「うーん、ちょっと分からないわ」

「どれどれ、電波届くかな。」

 ナフは中距離通信機のスイッチを入れた。

「ノノルア先生ですか~?」

『そうです。こちらからよく見えてますよ』 

 ノノルアはそう言うと手を振ってみせた。

「いまいくわー」

 ヌフラもスイッチを入れて言った。

 そして、今までより勢い良く漕ぎはじめた。

「ヌフラ、そんなに飛ばしたら、止まれなくなっちまうぞ」

「大丈夫、このくらいなら」

 みるみるノノルアの姿が近付いてくる。

「お、おい、行き過ぎちまうよ!」

「あわてないの!それっ」

 ヌフラはレバーの一つを掴むと、ガンと引っ張った。

 すると、回転していた推進部が回れ右して前方を向いた。同時に、ジャイロハンドルを回して、反動で進路がずれようとする所にカウンターをあてる。

 その間も、漕ぎっぱなしだ。

 さらに、別のレバーを引くと、制動用の圧縮空気が前向きに噴射された。

 船がつんのめるように減速する。

「さ、ついたわ」

 ヌフラがそう言うと、船はちょうどノノルアの隣で停止した。

 ノノルアからみると、急に迫って来ていきなり止まったことになったので、驚いてその場に尻餅をついている。

「さ、ノノルア先生、乗って下さい。ナフさん、運転交代!」

 ヌフラは操縦席から軽く飛び下りた。

「なんだ、俺より操縦巧いじゃねえか」

「でも、はあはあ、もう限界だわ」

 肩で息するヌフラ。さすがに、体力ではかなわない。

「さ、帰るか。二人とも、乗って」

 ナフはさっと操縦席に乗り換えると、二人を手招きした。

 ヌフラは「二人乗りなんで、失礼します」と言うと、小柄なノノルアを軽々と背負い、後ろの席に飛び乗った。

 ナフがちょっとだけ手慣れた手つきで船の向きをゆっくりと変え、もと来た方に移動しはじめた。

「だれも、こんな手で脱出したとは思わないでしょうなあ。ところでノノルア先生、なんでこんなことになっちまったんですか」

 ナフは船を動かしながら訊いた。

「いろいろありますが、利権ですよ、り・け・ん。モッペドンドの巧い栽培方法が広まると、宇宙産業の天下り役人たちが困るんです」

「やはり。わざわざモッペザイルに行く目的は、大半がこのキノコですからね。しかしまあ、人力宇宙船とは、驚きですね。どうやって動いてるのやら。」

「後で説明するわ。今は、操縦に集中させてあげて」


      11

 帰りは、多少よたよたしながらも、行きよりもだいぶ早くついた。

 さすがに、体力ではナフの方が数段上である。

「おーい、ケッペサ先生!つきましたよ。開けて下さい」

『おー、待っとれ』

 ほどなく、ケッペサはワイヤーと磁気フックを持って出て来た。  

「ヌフラ、ちょっと船を固定してくれ。わしらは、ノノルア博士と会場に向かう。」

「了解。ここは任せて。」

 ヌフラをのぞく三人は、急いでエアロックをくぐった。

 ケッペサの研究室に戻ると、全員急いでスーツを脱いだ。

「ぶはあ、汗だくだよ。シャツくらい取りかえさせてくれ」

「わかった。はやくしとくれ」

 ナフがシャツを取り替える間、ノノルアが取り急ぎ資料を整理する。

「さあ、資料はそろいました。いきましょう!」

 ノノルアはごそっと資料を抱えて言った。

「その、資料の山は俺が持つから、ケッペサ先生は先に歩いて下さい」

 発表会の会場はこの研究室と隣接したブロックに有るが、いかんせん大きな基地であるため、移動には時間を要する。

 三人は研究室を出ると、ノノルアを先頭に足早に歩いた。

 歩いていくと、途中にいた人々が道を開けてくれているようにも見えた。

 いや、もしかすると、立ちふさがろうとしてた者もいるかもしれない。だが、のしのしと歩くナフをみて、あきらめたのかもしれない。

 会場に着くと、係の者が「おまちしてました」と、ノノルアを案内した。

 ケッペサは「それじゃたのむ」と傍聴席の方に向かい、ナフは助手の振りをして、事実上のガードマンとしてノノルアに続いた。

 ノノルアが壇上にあがると、傍聴席から拍手と若干のどよめきがおこった。

 ナフは資料をノノルアに返すと、そのばに姿勢正しく立った。

 会場がしんと静まり返る スクリーンに映し出される『モッペドントの養殖』というタイトル。

「さて……本日は、宇宙に行かなくとも食糧事情を解決する方法を発表します。」

 

 ここに、ホンザイルの新しい時代が始まった。

星の海から age1-第一話「黎明」 了

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