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壱「黎明」 中

     5

 数日後、ナフはホンザイルの静止軌道上にある第五宇宙基地に呼び出された。

「ったく、誰だ?あんな理由で呼んだのは」

 と、シャトルから移乗して、まず一言。

 理由というのが「頑丈で度胸があるから」ということだった。 

「先生、本当にそんな理由でお呼びになったんですか?困っちゃうわねえ」

 出迎えたのは、基地の女性職員。

 大柄なナフに匹敵する体格の美女だった。

「さあ、こちらにどうぞ。先生がお待ちです。」

「あ、ああ。ところで、『先生』ってだれさ。」

 ナフはすこしオタオタしながら聞いた。

「ケッペサ先生ですよ。あれ、聞いてないんですか。」

 「なんだ・・」と一言呟いて、ナフは女性職員の後に続いた。

「そうそう、私はヌフラ。ケッペサ先生の助手をやってる。よろしくね。」

 職員は、歩きながら名乗った。

「おぅ、よろしく。おらぁ、ケッペサ先生の教え子だった、ナフだ。」

 窓の外では、三十五番目のモッペザイル探査船の準備が進められており、その向こうでは先日帰って来た三十一番目の探査船から荷下ろしが行われていた。その荷物の大半は、大都市の人々を数年に渡って養えるほどの、大量のモッペドンドである。

 降ろされたモッペドンドは、大半はそのままカプセルに詰め込まれて地上に投下される。途中で「いい具合」に蒸し焼きになるので、そのまま缶詰にして出荷される事になっていた。

 が、ナフにとってそんな事はどうでも良く、頭は仕事と疑問で一杯だった。


「こんちわー、先生。いったい何のようですかい。」

 ナフが案内された部屋に入ると、ケッペサが何やら妙なブツをいじくっていた。

 真ん中に縦長の椅子がついた、直径が三ひろほどのザル。そして、その左右にはアームが生えており、その先にでかいドンブリのような物がついている。

「な、なんですか、コレハ?」 

「ほぇほぇ、何じゃと思う?」

「知るか」

「想像力がないのぉ。人力宇宙船じゃよ。」

「はぁ~?どうやって進むのさ。」

 空気がないのでプロペラは意味がない。

 人力発電で重力制御装置を動かすのでは、いくらナフでもパワー不足。短時間動かすだけでも、巨大なバッテリーが空になるほどなのだ。

「実はな、おまえさんが落下傘で降りられなくなったのが、きっかけなのだ。」

 と、ケッペサがナフに近寄った。

「まぁ、茶でも飲め。でなぁ、揺すっても引っ張っても、昇っていっちまうと言うておったろ、たしか?」

「おう、たしかに。じたばたすればするほど、降りられなくなった。」

「つまりだ、モッペドンドの革は、どっち向きに力をかけても、ぜーんぶ『毛』の反対のほうに力の向きを変えてしまうんじゃよ」

 ケッペサはさらっと言ってのけたが、ナフは「腑に落ちぬ」とその場で腕を組んだ。

「ん~?話を噛み砕きすぎて、なんだか分からん。」 

「そうじゃな……引っ張ったときの『加速度』も、惑星が引っ張る重力『加速度』も、例のキノコにとっては同じ物でな」

「そら、キノコじゃなくても等価だが」

「まてまて。それで、その『加速度』をモッペドンドの毛皮に加えると、『毛』のある方と反対側に『加速度』の向きが変わってしまうってことじゃ。」

 ケッペサは手で何かを引っ張る動作をした。

「わかったような、わからねえような。まぁ、いいや。要は俺に操縦しろっていうんだろ。理屈はいいから、まず使い方ですわ。」

「それじゃ、まぁ、ブツもここにあることだし、座ってみてくれ」



       6

 基本動作を室内で練習した後、スーツに着替えたナフは、エアロックから分解した「人力宇宙船」を引きずり出していた。

「なにも、出すのまで人力にしなくたって……」

 出て来たところは、ドーナツ型ステーションの内側。

 ステーションの他の出入り口も、ほとんどが内側だ。

 回転して具時重力を作っているので、外側に出口を作ると飛ばされてしまう。

 ナフは、パーツをエアロックの周りにとりあえず並べ、組み立てる。

 少々手こずり、巨大なステーションが半周ほど回った所で、人力宇宙船はようやく再度組み上がった。

「先生ー、組み上がりましたー。テスト飛行しますかねー」

 さすがナフ。この程度の仕事では、まだ疲れを見せない。

『ちょっと待ってろー。今忘れ物を届けさせるから』

 ややノイズまじりながら、通信機の向こうからケッペサの声がした。

「リョウカーイ」

 そう言ってナフは通信機のスイッチを切った。

 そこへ、ヌフラが何やら大きな袋を抱えてエアロックから出て来た。

 ナフが「はて、なにか忘れてたかな。」と思ってヌフラを見ていると、そのまま出来たばかりの宇宙船に乗ってしまった。

 縦に長い座席の後ろの方に跨がって、袋から取り出したのは船外用のビデオカメラ。

「さ、いきましょ」

「『さ』じゃねー!帰れなくなっても知らんぞ。」

「帰れるように、ホラ、二人分の携帯ブースターも持って来たわ。あとフックも」

 ヌフラはそう言って袋から壷状のものとワイヤー付きのフックを取り出した。

 リング状のステーションの軸周辺にはネットが張ってあり、迷子になりかけた時は、とりあえずそちらに飛んでくれば救出される(可能性がある)ようになっていた。むろん、速度が出過ぎていたら、引っかかった瞬間にバラバラだが。

「しょうがねえな……」

 あまりつべこべ言っても空気の無駄なので、ナフはさっさとブースターとフックをスーツに固定し、自分も座席に跨がった。

「さー、ハッシーン!」

 後ろのヌフラが楽しそうに言った。

 あえてそれを無視するようにナフはなにやらブツブツいいながらも、体を固定して足下のペダルを漕ぎだした。

 船体両端につけられた、プロペラの入ったドンブリ状の物がゆっくり回りだし、同時にゆっくりと前進し始めた。

「……けっこう、オモテーな。ギア比変えねぇと、これじゃキツい。」

 そう言いながらもナフは漕ぎ続け、勢いがついたところで右手のハンドルを掴んでぐるぐると回転させた。すると、船首が上に向くように船がゆっくりと回転した。

 ナフの回したハンドルはジャイロとチェーンでつながっており、回すと回転するジャイロの反動で舵取りが出来る仕組みになっている。ハンドルは全部で三つあり、それを回す事で縦横に舵取りができた。

 理屈はともかく、実際それで舵取りをするとなるとなかなか巧くいかず、はじめはよたよたとエアロックの近くを周回するのがやっとだった。

「舵くらい、機械式にしてくれっての」


       7

 やっとそれなりに宇宙を動き回れるようになった頃、ナフはスーツの中で汗だくになっていた。

「あっちぃ~。先生、こりゃ調整すれば実用化できそうだ。もっと操作を軽く!」

 ナフは研究室のケッペサに通信を入れた。

 しかし、返事が返ってこない。

「おーい、先生!」

『ちょっとまってろ……』

 なにか、慌ててマイクに取り付いて返事をしたようだった。

「ナフさん、どうしました?」

「わからん。なにか慌てていたようだが。」

 ナフは、何か有ったのかと思い、もう一度研究室につないでみた。

「お~い、先生!どうかしましたか!?」

『すまん、ナフ、まだ体力は残ってるか?』

「は、はぁ?」

『緊急事態だ。ちょっと働いてほしい』

「かまいませんが、腹が減りました。あと、水を飲みたいですね」

『よ~しわかった。今、持って出るから、外で待っていていてくれ』

「外でって、先生! ああ、切れちまった」

「どうかしたのかしら?」

「わからねえ。とりあえず、エアロックの所までもどるか。」

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