伍「ボセイ」後
4
再び第四惑星に着いたケッペサ号は、ここに新しいコロニーを作るための準備に入った。
ケッペサ号は、可能な限り現地に滞在する任務があるのだ。
ラッツァクたちの調査で、水の氷と固まった硫黄分が沢山あり、微生物も含めて生命体の存在しないのが確認されていた。また、大気はえらく冷たく少々薄い以外はホンザイルと似たようなものなのが分かっていた。
要は、暖房設備の整った、丈夫な建物があればどうにか過ごせるということだ。
そして、芋でも育てながらモッペドンドを増やして行けば、食い物にも困らずにどうにかやって行けそうな感じだった。
地上にはケッペサ号のソーラシステムからエネルギーをビーム転送し、必要な電力をまかなえばいい。モノを地上に運ぶには、ミニ重力子エンジンで飛ぶシャトルを持って来てある。
「船長、二番船『ケッペサ弐号』で持って来てもらう物のリストアップがおわりましたよ……あれ、どうかされましたか?」
タルルカがブリッジに上がってくると、そこではカンザル船長が呆然とたたずんでいた。
「よぉ、タルルカ。この惑星の名前、俺が決めていいかな」
「はぁ」
「惑星『ナフマンザ』できまりだ。他にあり得ねえ」
「親父の名前を? もしや」
「ああ、そのとおりだ。お前の親父さんにして俺の相棒、宇宙一タフなナフが死んだ、という電波が届いた」
二人は重い空気に押しつぶされるようにへたり込んだ。
端から見たら、大柄なはずの二人が嫌に小さく見えたかもしれない。
「残念だなぁ。ほんとうに、悔しいな……。ああ、悔しい」
タルルカは天井を見上げて嘆いた。
「つーわけでよ、親父さんには本当にお星さんになってもらおうとな。いい考えだろ」
カンザルは必死で笑みを浮かべてみせた。
「そうですね。はぁ」
「そしたらだ、船の連中に意見を求めてみてくれや。いくら俺が船長でも、星の名前は勝手にゃ決められんからな」
「了解、船長。きっとみんな賛成してくれますよ。おっと、リストは見ておいて下さいね」
そう言ってリストを渡すと、タルルカは足早にブリッジを後にした。
5
その頃、医務室の隔離された一角では、ものすごい大声が響き渡っていた。
「ぬぉりゃーーーー!」
声の主は、ライルヒ。
「ぬぉあああぁぁぁ」
しばらくの後、ライルヒの声がやむと同時に、こんどは凄まじく甲高い大音響が響き渡りはじめた。
「ンぎゃあああ~~~~~、ンゃあ~~~~」
その瞬間、医務室の外ではお祭り騒ぎが始まった。
沢山の乗員たちが詰めかけており、みんなで手を叩いている。
「うまれた!うまれたゾ!ケッペザイルで最初の子供だ!」
騒ぎの中心では、父親のナグワが大騒ぎしていた。
そこに、例の知らせを持ってタルルカが現れた。
「なんだ、この騒ぎは?」
「あ、タルルカ航海長!産まれたんですよ、僕の子が!」
満面の笑みを浮かべて、言った。
「そ、そうか、無事産まれたのか。よかったね」
「あれ、どうしました、浮かない顔をして?」
「イヤ、その――あの星のを『ナフマンザ』にしようかと思って」
そこまで聞いて、皆一瞬静まり返った。
「それは・・御愁傷様で。みんな『ナフマンザ』にするのには、異論はないよな!?」
ナグワは周りを見回しながら言った。
その場にいた面々からは「異論ナシ!」の声が次々とあがる。
「島と星の名前は、見つけた奴が決めるんだ!」
「ホンザイルの連中には口を挟ませねえぞ!」
という声まで上がって来た。
「あはは、ここにいるみんなは、異論ないみたいですね。まぁ、他にも意見を聞いてから、ちゃんと決めるよ」
そう言いながら背伸びして見渡してみると、どうやら他に聞きに行くこともなさそうだった。
乗員の大半ががここにいる。
「なんだ、みんな入るじゃないか。これじゃ、決を採るまでもないな」
タルルカは肩をすくめて言った。皆が、わはは、と笑う。
そこに、台車に乗せられ医者のザグモに押された状態で、赤ん坊を抱いたライルヒが現れた。ちょっと疲れた様子だが、幸せそうな表情だった。
「産まれたわ。ほら、かわいい女の子よ。さて、名前は何にしようかしら?」
ライルヒは近付いて来たナグワを見上げて言った。その手の赤ん坊は静かに息をしている。
「そうだな。航海長、名前もらっていいかな?」
ナグワはがばっとタルルカの方を掴んで聞いた」
「え、俺の?」
「いやいや、『世界一タフな男』にあやかって、命名『ナフラナ』!」
そう叫んだ所で、赤ん坊が「ンぎゃ~」と大声を上げはじめた。
「パパぁ~大きな声ださないの! ナフラナがびっくりしたじゃない」
「パパ……ああパパ。俺はパパだパパ。おっとごめんよ。今日は医務室で、二人ともゆっくりしておくれ」
「それじゃ、お披露目終了。命名終了。とりあえず、おやすみなさい」
ライルヒがそう言って合図すると、ザグモが台車をくるりと回して医務室に戻って行った。
「ところで、皆さん」
タルルカが唐突に皆に聞こえるように言った。
「一か所に集まり過ぎです!重量バランスが悪くなってるので、早く解散してください!」
6
タルルカはその足でブリッジに戻ると、カンザルに『意見を聞いた』結果と、新しいこの名前について報告した。
「『ナフラナ』ねぇ」
カンザルは、聞くなり目を丸くして言った。
「どうしました?不満でもおありで」
タルルカは意外な反応に少々と惑った。
「不満はねえよ。ただ……」
「ただ?」
「女の子なのに、豪傑になっちまうんじゃねえかなって思ったのよ」
そう言ってカンザルはニヤリとした。
「女傑といったら、おふくろみたいだ。悪かないですよ」
「あはは、違ぇねえ。次の世代を担うには、もってこいじゃねえか!」
そして、二人はブリッジの窓から星空を眺めた、
その星空の彼方、ちょっとだけ大きく輝く星のすぐ傍にナフは眠っている。
「これで、親父の魂だけでも、来てもらえることでしょう」
「おぅ。これで、おれたちが消えた後も、その名は残せるってもんよ」
「大変な名誉ですね」
「まったくだ。でもなぁ、名誉なんかよりも、やっぱり自分の目ン玉で見せてやりたかったんだがなぁ」
「なんか、そんなわけないのに、星が瞬いて見えますね」
「ああ、俺もだ」
ここは、ケッペザイル星系、その第三惑星『ナフマンザ』上空。
だが、宝石のようにちりばめられた光は、遥か故郷と同じく降り注いでくる。
無限に広がる星の海から。
age1 完
第一部 完




