はったり大会
冬風卓志はタクシーに乗り込んだ。
十二月の深夜の空気は凍りつくような寒さだった。
(タクシーに乗れて良かった)
そう思いながら運転手に行き先を告げる。
運転手は目のするどい中年の男で、ミラー越しからこちらを見る。
タクシーは深夜の街を走り出した。
「お客さん あなた作家でしょ」運転手は低い声で言った。
「そうですけど。何でわかったんですか?」
「お客さんの持っている封筒と作家が持つ独特なオーラでわかります」
「そうなんですか。作家の知り合いがいるんですか?」
「親父が売れない作家なんですわ」
「お客さん。一つゲームをしませんか?」運転手がにやりと笑った。
「ゲームですか?」卓志は不思議に思った。
「まだ着くまで一時間近くありますからね。はったり大会というゲームをご存じですか?」
「知りません」
「客さんは作家だから得意でしょう。自分の作った話を聞かせて怖がらせたほうが勝ちです」
「面白そうですね」卓志は子供の時から空想は得意だった。
タクシーは輝く街中を走っていく。
「じゃあお客さんからお願いします」
卓志は話し始めた。
僕は一年前にある雑貨屋さんに行ったんですよ田舎にある小さな店です。その店には客は全くいなく、老婆がカウンターにいるだけでした。めぼしいものが無いので帰ろうとしたら老婆が話しかけてきて掘り出し物の商品があるって言うんですよ。見せてくれって言ったら黒いブローチを差し出してきたんです。僕はそのデザインが気に入り、買うことにしたんです。値段もお手頃でしたしね。僕はそのブローチを早速つけて帰りました。
二、三日した後友人と飲みに行きましてね、そのブローチを胸につけて行ったんですよ。その友達は作家で小説のことなどを話していたんですけど、大分相手が酔ってきたみたいで急に僕の書いた小説を売ってくれって言ってきたんです。僕は小説家がそんなことはできないと断りました。しかし彼はしつこく言ってきて挙句の果てには過去の僕の悪行をみんなに言いふらすと言ってきたんです。僕はかっとなって全身が熱くなりました。そしてこんな男死んでしまえと思ってしまったんです。すると相手の男は苦しみだし、泡を吹いて倒れてしまったんです。病院に運ばれましたがそのあと死にました。
僕はある日気付きました。このブローチは人を殺す力があると。それからというもの人を殺し続けました。このブローチがあれば世界を支配することができる。
その気になれば運転手さん、あなたをここで殺すこともできるんですよ。
そう言うと卓志は笑った。
「もちろん嘘ですけどね」
「どうでしたか?」卓志は聞いた。
「さすが作家さんですね。下手なホラー小説よりも怖い」そう言いながらも顔は緩んでいた。この運転手はこういった手の話が好きなんだろう。
「次はあなたの番ですね」卓志は楽しくなってきた。
「わかりました」
運転手は語り始めた。
私はあなたを乗せる前、強盗をしてきました。
コンビニ強盗です。
私は普通のタクシー会社に勤める2児の父親です。しかし、裏の面があります。私は人が驚いた顔が大好きなのです。なので小さい時からよく悪戯をしてきました。最初は窓ガラスを割ったり女の子のスカートをまくりあげる程度の事でしたが、だんだん物足りなくなっていきました。こんなものじゃない、もっともっと悪いことがしたい。でも世間体があります。親がきびしかったので私はこっそりとやるようになりました。昼間はお利口に振る舞い、夜は悪行の限りを尽くすという生活を始めました。
それは今も続いています。
三十代後半になってから私は人が驚いた顔より、そのあとに見せる苦痛に歪んだ表情、泣き狂う表情の方が良いと感じ始めました。
そして私は二年前殺人を犯しました。浮気をしてつくった女をなぶり殺しにしました。
理由はその女が憎かったとか、かっとなったとかではなくこの女が泣き叫んだらどうなるのだろうという好奇心からでした。
その日から私は十二人の男女を殺しました。
そしてさっき私はコンビニに行き、銃を突出し、金を奪いました。何となく店員のカップルを殺しました。
後ろには金が積んであります。たいした額ではないですがね。
そこで私は今からビルに突っ込もうと思います。
全てが嫌になりました。
いっしょに死んでください。
「どうでしたか?」運転手は前を向いたまま聞いた。
「怖いですね」卓志ははっと我に返った。正直、話が終わったことに気づかなかった。あまりにも話が巧妙で実際に映画を見ているようだった。
いつの間にか外は大雨になっていて耳障りな音を奏でる。
「それは作り話なんですよね?」卓志は怖くなって聞いた。
だが、運転手は答えなかった。
耳を澄ますと雨音に混じってサイレンの音が聞こえる。
「なんかパトカーの音しません?」
「そうですね」
運転手はずっと前を見つめている。
まさか警察が追ってきているんじゃ。
卓志のその予想は的中した。後ろを見ると三台のパトカーがこのタクシーを追いかけ来ている。
「どうなってるんですか?」卓志はパニックを起こしそうになっていた。
「実はねあの話は殆ど本当なんですよ」運転手はにやりと笑った。
「違ってるのは私が本当はサラリーマンで、コンビニを襲った後このタクシーの持ち主を殺してこの車を奪ったってことですよ。そいつはトランクに積んであります」
卓志の額から汗が流れた。絶句していた。
自分は今まで、強盗が運転する車に乗っていたのか・・・。死体を乗せて。
「あんたも道連れだ」そう言うと運転手は横に流れる川に向かってタクシーを走らせた。
なぜかドアは開かなかった。
川で爆発が起きた。
ホラー短編書いてみました。これからこういった短編を書き続けてシリーズでまとめたいと思います。短編の腕を磨きたいと思います。
感想をお待ちしています。アドバイスください。