勇気を出した結果
不定期ですみません
よろしくお願いします。
こう言う時に限って、セミが鳴き止みあたりは夜になったかのように静まり返る。太陽は相変わらずさんさんと窓から顔を覗かせているというのに。
俺の部屋には、俺と俺の好きな人の写真を持った、その本人と二人きり。
今さっき、俺の今まで隠してきた思いがばれてしまったところだ。
――どうしよう。
俺だけではなく、相手もそう考えていたのだと思う。
何せ、友達だと思っていた人に間接的に告白されたようなものなのだから。
桃子は写真と俺の顔を見比べて確認している。その写真に写っているのは桃子その本人だというのに。
信じられない、そんな顔をして再度写真を確認してはこっちを見る。まさにどうしていいか分からないといった感じだ。
俺としては、このままずっと隠しておいて、片思いのまま、友達をして楽しく遊びたいと思っていた。
しかし、ばれてしまった。こういう場合、どうするべきかなんて、答えは分かっている。
ごまかすか、告白するか、だ。
ここは、告白するしかない。
ここを逃したら、もう言い出せなくなってしまいそうだから。
俺は伏せていた顔をあげ、勇気を振り絞り口を開く。
「桃子、俺は…」
「なんで私の写真持ってるのよ~、これって、去年の文化祭のやつでしょ?もう、なんか恥ずかしいじゃん」
桃子は大きな声で、大げさに、内股になって照れるふりなんかをしながら、俺の声にかぶせてくる。
俺はその声を打ち消すようにさらに大声をかぶせる。
「桃子が好きなんだ!」
人生で初めての告白だった。
桃子はうつむき、口をつむいでしまった。
一瞬の間が空く。
俺は桃子の返答を待った。
桃子は固く閉じていた口を開く。
「そんなこと言われたって困るから」
桃子はカバンを持ち部屋から出ようと、俺の横を巣道理するところを、俺は桃子のカバンを掴む。
顔だけ振り返った桃子の目は涙でいっぱいになっていた。
「ごめん」
桃子はカバンを手放し、階段を駆け下りていく。ガラガラと玄関の戸が開く音がする。
セミは相変わらず泣き止んだままで、静まり返った部屋の中で俺は一人突っ立っていた。
とりあえずあぐらをかいて座り直し、ごちゃごちゃになっている頭の中を整理することにした。
俺は告白をした。あいまいな表現ではなく、はっきりと好きだといった。それを聞いた桃子の反応は、目に涙をいっぱいにした「ごめん」
の一言。それはつまり、
ふられたということだ。
そう確認した途端、目から頬を伝って涙が落ちていくのが分かった。涙はそのまま顎からあぐらをかいた足へと落ちていく。
「俺、ふられたんだ」
つぶやき、言葉にした瞬間、涙があふれ出してくる。急に悲しさがこみ上げてきた。目からボロボロと落ちる涙をぬぐう力も出てこなかった。
静かに、声を出さずに泣いた。こんなに悲しいと感じたことは今までなかったと思う。失恋がこんなに堪えるものだとは思っていなかった。
しばらくして泣き止み、横にころんと倒れ、体を縮めて丸くなる。そのころにはもう窓からうっすらと夕陽が差し込んで、セミもまた鳴き始めていた。
こうなるとわかっていたから、片思いのままでいいと思っていたのに、流れに任せて、かっこつけようとするから、だから嫌だったのに…カバン、そうしようかな。
たんたんたん
誰かが階段を上ってくる音がする。この時間に家族は誰も帰ってこないはずだ。一体誰だ?
立ち上がって涙まみれの顔を腕でぬぐい、俺の部屋に向かってくる足音と待つ。
「ごめん、勝手に上がっちゃった」
桃花だった。桃花は、制服姿のままだが、手ぶらのところを見ると、一度家に帰ってからここに来たらしかった。
「桃子は?遊んでたんじゃなかったの?ていうかもしかして泣いてたの?目、赤いよ?」
俺はとっさに目をこする。こすったからと言って、目がもとどうりになるわけでは無いけれど。
「宗治はどうしたんだよ?一緒だったんじゃないのかよ」
話をそらす。
「生徒会で遅くなりそうだったから、先に帰ってもらったの。それより、泣いてたんでしょ?なんで泣いてたの?」
「桃花には関係ない」
「じゃあ、いいや。桃子は?買い物付き合ってもらおうと思ってきたんだけど」
「桃子はさっき帰った」
桃花は桃子が置き去りにしたカバンに目をやる。
「うそ、だってこれ桃子のカバンでしょ?」
「忘れってたんだよ。ちょうどよかった、持ってってよこのカバン」
違う、置き去りにされてしまったのだ。このまま持って帰ってくれると、桃子と顔を合わせずに済みそうだ。
俺はカバンを持ち、桃花に差し出すと、桃花はカバンを受け取る。
「わかった。それじゃあ、その代わりに、買い物付き合ってもらうから」
「なんでそうなるんだよ」
いつもなら、即okだが、今はそんな気分ではない。
「良いでしょ?どうせ暇なんでしょ?」
それはそうだけど、今はそんな気分ではない。
「やだ」
かたくなに断る
「じゃあいいよ、カバンは家まで届けてね。それじゃあ」
桃花はカバンを床に置いてあっさりと帰ろうとする。それをされると困るのは俺だ。仕方ない。
「分かったよ、買い物付き合うから」
すると桃花は振り返りニコッと笑う。
「やった」
買い物をするため、ホームセンターに向かった。
ホームセンターまでは家からさほど遠くないところにある。
桃花の家までもそう遠くない、家より少し遠いくらいだ。
田んぼの横を桃花は自転車を押して歩いている。俺は徒歩だ。
「そういえば、何か買うんだ?わざわざ家まで来て、そんなに大荷物なのか?」
いくら宗治の予定が合わなかったと言え、家まで来ることは無いし、何か大荷物なんだろうか?
「肥料よ20キロの奴。学校で使うんだけど、買い忘れてて」
「ちょっと待てよ、学校のなの?ってことは、学校まで持っていくってことか?」
「そう、だから男手が欲しかったのよ、よろしくね」
「20キロの肥料かついで学校はきついって!」
学校まではそう近くない。いや、結構遠い。
「大丈夫だって、男の子でしょ?」
桃花は淳平には簡単でしょ?と言わんばかりな口調で偽りない目でにこっと笑う。
「生徒会にだって、男子何人もいるだろ?」
「みんな忙しいのよ、夏休みだから。それに比べて、淳平はヒマでしょ?」
「うっ、」
それを言われると弱い。
少なからず、今日はヒマなのだ。
「ほら、早く行くよ?いくら夏だからって、日が暮れちゃう」
辺りは赤い夕陽に照らされて、橙色に染まっていた。
俺は、ホームセンターで買った肥料を担ぎ、文句を言いながらも結局学校まで運ぶ羽目になってしまった。