衝撃告白
「ありがとうございましたー。」
明るい店内から外へ歩き出すと、その落差からか余計に暗く感じる。
いつだって自分といるときは無言が多い敦司だが、どうも様子がおかしい。こちらを振り返ることなく歩いてくのはいつのものことだが、いつもそれとなくこちらを気にしているのはうすうす感じていた。今日は心ここにあらずといった感じだ。
「ねぇ。」
電信柱の角を曲がる。私達のうちはこの角を曲がればあとは一直線だ。電柱の明りで照らされた住宅街をひたすら歩く。
「ちょっと・・・。」
自然と声が大きくなる。
「ねぇってば!」
「あ?あぁ、なに?」
「なにじゃないよ、なんか変だよ。敦司君。」
敦司がムッと顔を曇らせる。
「変ってお前、失礼じゃね?」
「あ。ご・ごめん・・・。つい。」
気まずい沈黙のあと、おもむろに敦司はため息をついた。手のひらを顔に当てているが、隙間から見える顔に反省の色がありありと浮かんでいた。
「いや、おれが悪かったよ。普段たいしてしゃべらないクセにいきなり付いてきといて、これじゃ不審に思うよな。ごめん。」
思わず、目を見開く。知り合い歴こそ長くなってきたが、敦司に謝られたのなんて初めてだ。
“普段たいしてしゃべらない”
密かに三波の胸がツキリと傷んだ。お互い気まずいことはわかりきっていても改めて「不仲」を本人に口にされると悲しいものがある。
「あのさ、三波。時間あるならちょっと上坂の神社よってかね?話があるんだ。」
思いきった風に敦司が口を開いてそう言った。
上坂神社は自宅を過ぎて少しのところにある。我が家を中心にちょうどコンビニとは正反対のところにある。人通りが全くないわけではないが、薄暗いこの時間に人がいるとも思えない。公園も近所にないこの地域では子供の遊び場所であり、集合場所といえば上坂神社といったおなじみの場所だ。
三波は神社の石畳に腰をかけ、敦司は横で座らずにもたれかかっている。
角地の神社だからすぐ横に道路はある。そこにある外灯が唯一の明りだ。もっとも今夜は月が明るく相手の表情を見える程度の明るさはあるのだが。
敦司を見るといつになく神妙な顔をしている。ここにきて敦司はことさら口が重く、いっこうに話を切り出さない。よほど言いづらいことなのだろうか。先ほどの会話を思い出す。
“え、と。十波はまだ敦司君のところで勉強してるの?”
“・・・。・・・あぁ。”
きっと十波が関係あるんだ。でもどうして?こんなにも言いづらそうにすることがわからない。
「あの、さ。もしもなんだけど。」
ようやく敦司が前の鳥居を見つめたまま、重々しく衝撃的なセリフを口をした。
「もし十波が妊娠したかもっていったらどうする?」
絶句、とはこのことだ。衝撃すぎて言葉にならない。
敦司が振り返って再度聞いた。
「十波、妊娠したらお前どう思う?」
「・・・っ。」
言葉に詰まる。今聞いた単語を耳が拒否して口を開くのに時間がかかった。
「・・・ちょっと待ってよ。え??どう思うって。どう思うって何?どういうこと??」
声が上ずる。どういうことだ。知らず大きな声になってしまった。
「だから。十波に子供が出来たらどうするっていってんだよ。」
イラっとした様子でこちらを振り返える。三波は石畳に座っているが、敦司には身長があるため、目線は同じだ。
「妊娠って。え、意味わかんない。十波が?だってあの子まだ高校生なんだよ!?どういう・・・ことよ。ちゃんと説明してよ!てか相手は?!敦司くんなの!?殺されたいの、敦司君!!」
最後は絶叫に近かった。敦司に動揺の色が見えた。
「ちょ・三波。落ち着けって。違うよ、ごめん。説明するから。」
お・落ち着けるか!!!!
もしも家庭教師という名を使って敦司が十波に何かしたというのならひっぱたくどころではすまない。簀巻きにして海に沈めてやる。十波は大事な妹なのだ、到底許せる話ではない。自分でも顔が真っ赤になっていくのがわかる。
「違うって何よ、早く説明しなさいよ!」
いきり立つ三波を見たことなど、過去一度もないであろう敦司がはっきりとうろたえた。
「や、だからさ。まだわからないよ、したかもしれないってだけなんだ。」
パシン!!!!!
神社に乾いた音が響き渡った。
さー・・・・どうしたものか。見切り発車すぎて自分でも展開が読めませんw