感じる違和感
染色していない黒く短い髪。平均を超えるであろうすらりとした身長。
甘いマスクとまでいかないが、漂う落ち着いた雰囲気や口調。そういったものが敦司を良くみせているのだと三波は思っている。
以前、遊びに来た友達と玄関先で話しこんでしまったことがあった。その時、たまたまお隣から出てきた敦司を見たその子が「おとなりさん、ちょっとかっこいいね。」とほほを染めたことがある。
仲が特別いいわけではなくても、敦司は「お隣さん」だ。不思議とクラスの男の子とはまた少し違う、特別な感覚がある。
その敦司が褒められて密かに自慢に思ったものだ。
本当は出来ることなら仲良くしたいのだが、それももう今さらだ。敦司が隣へひっこしてきた小4の夏から関係は何も変わっていない。小4から大学3年までの12年で向けられてこなかった笑顔が今さら向けられるはずなどあるわけがない。十波に向けるような笑顔を見せてほしいと密かに願った子供時代の自分はもうなりを潜めている。
きっと私達は最初でつまずいてしまったのだ。
「なんでそんな離れてんの?」
気づけば数歩先から敦司がこちらを憮然と振り返っていた。
「あ、ご・ごめん。」
慌てて走り寄ると、敦司はそのまま また歩き出した。
それにしても、どういう風の吹き回しだろう。今まで十波のいないときに二人で話したことなど数えられるほどしかない。
「・・・何、買うんだ?」
「えっと、デザートをね。十波に・・・。」
「デザート?」
「ほら、十波今回勉強頑張ったみたいだったからさ。ご褒美に買ってあげようかと思って。あ、敦司君も買ってあげようか。ありがとうね、十波のがここまでちゃんとやるのは敦司君のおかげだと思うんだ。」
「・・・いや、いいよ。バイト代もちゃんともらってるし。」
「・・・そう。」
出来る限り愛想よくしたところで、返ってくるのはコレだ。
ため息でそう・・・。
「え、と。十波はまだ敦司君のところで勉強してるの?」
「・・・。・・・あぁ。」
一瞬の敦司の表情の変化。敦司が言い淀んだ。
「え?」
「あぁ、いや。勉強は終わって、十波は俺の部屋で待ってるよ。」
一瞬、生まれた表情がすぐに隠されたのを三波は見逃さなかった。
違和感を覚えた。なぜ十波は敦司の部屋にいるのだろう。終わったのなら帰ってくればいい。十波は末っ子で甘ったれと自他ともに認めるような子だ。勉強も終わったというのに、一人で誰もいない家にいるだろうか。
そもそもなんでコンビニについてきたの?相手が十波ならまだしも、普段から気まずい私だっていうのに。
二人になったことなんて今まで数えられるくらいしかない。しかも言いだしっぺは敦司だ。
「・・・敦司君?」
「着いたぞ。デザート買うんだろ?」
敦司は三波に目を向けず、コンビニへはいって行った。