気まずい存在
笑っているが目の奥が笑っていない。
楽しく会話しているようで、中身のない会話。とぎれた間。
三波にとって敦司はそういう“気まずい”存在だ。もし、隣に住んでいなければ赤の他人、もしくは上辺の付き合い という関係でしかなかったことだろう。
「敦司君、コンビニ行くならアイス買ってきてくれない?」
肩先までのゆるくあたったパーマに大きな瞳。妹の十波は可愛い。三波は8畳の真ん中にあるガラステーブルを前に正座し、そこに映る自分を見た。染色していない腰までのストレート。三波と十波はあまり似ていない姉妹だった。十波は愛嬌の良さが可愛いと言わせる雰囲気を作り出しているのだと三波は常々思っている。甘ったれだが、そこが可愛いと思うのはシスコンなのだろうか。
「十波、お前コンビニくらい自分でいけよ。」
「いいじゃない、 どうせ敦司君いくんだもん。ついでじゃん。ご褒美だよ、ご褒美。
数学87点だよ?私にしたら上出来だと思うんだけど。」
通知表を見せつけるように目の前に掲げて十波は誇らしげに笑った。
「それは俺の教え方がよかったからです。」
「いいじゃないーー、あっちゃんのケチ!」
「おまえ、ここまで面倒みてやってる俺になんて口のきき方を・・・」
軽口を叩いていたって敦司が十波を悪く思っていないのなんて丸わかりだ。敦司は口では色々言いながらも十波に甘い。居心地の悪い空気を感じて三波は口を開いた。
「敦司君、コンビニいくんなら私いってこようか。ノート切らしちゃってて買いに行きたいんだよね。」
嘘は言っていない。明日からの物理のノートがないのは本当のことだ。決してここから逃げようなどという思惑があるわけではない。
「や、それはさすがに悪いから俺が行くよ。十波!お前、その代り俺が帰ってくるまでに答案もってこい。間違ったとこ、やりなおしするからな。」
「え。えぇぇ!やだよ、せっかくテスト終わったのに・・・。」
「バカ。復習するかしないかで身に着くものが違うんだよ。」
「ちぇ。」
「じゃ行ってくるからな。三波は?欲しいアイスあるか?」
「あ、ええと。うーん、なんだろ、敦司君に任せるよ。嫌いなの特にないから。」
「了解。」
ひらひらと手を振りながら部屋を出ていく敦司を見送ると、黒のパイプベッドに座りこむ。口からため息が出るのをなんとかごまかす。敦司は十波の家庭教師を去年の秋からしている。来年には大学受験だというのに一向に勉強にやる気を見せない十波に母が業を煮やして敦司に話を持ちかけたのだ。気が向いたときでいいから気にかけてやってくれという話だったが、敦司は定期的に十波を実家に招いて教えるようになった。元来、敦司は真面目なのだ。気付けば受験が終わるまでの家庭教師、という名目でバイト代をもらうまでになっていた。
姉の私は現在大学3年だ。敦司は2年だが、三波から見ても優秀さは伝わってくる。成績うんぬんもあるが、気持ちを盛りたてることがうまく飽き性の十波の面倒をよく見てくれていた。
「お姉ちゃん?」
敦司がいなくなったため、もはや勉強をする気のない十波がベッドに座る三波の顔を覗き込んできた。
「なに?」
微笑んで見せると十波は心配げに
「お姉ちゃん、敦司君そんな苦手?なんか顔が疲れきってるよ。」
「うそ。」
「ほんと。」
思わず力が抜ける。十波はなんだかんだと姉をよく見ているのだ。笑いがこぼれる。
これでも顔に出さないように気をつけたつもりだったのだけれど、何年かぶりの敦司の部屋は三波に思った以上に緊張を強いていたようだ。
「わかりやすかったかなぁ」
「そりゃあ、目は口ほどに物をいうっていうじゃん。バレバレだよ。」
「あはは。そりゃそっか。いいよね、十波は普段から敦司君に関わってるんだからさ。
私、普段関わらないんだもん。回覧板、おじさんに渡したらすぐ帰るつもりだったのにあがってけって言われてびっくりしたよ。」
敦司とはこんな関係だが、おじさんとは仲がいい。敦司の家は父子家庭だ。子どもどおしが年も近かったこともあり、昔からうちの母は気にかけ何かの時には差し入れをしたり自宅へ二人を招いたりしていた。50を超えてもスマートで、気さくで優しい笑顔をするおじさんなのだ。
「うーごめんなさい。私も呼ぶつもりなかったんだけど、これからお姉ちゃんと出かけるっておじさんに話してあったから気を利かせてくれちゃったみたいで。敦司君も緊張してたねー。」
「だね。やだなー、帰りたい。帰ってもいい?」
「ダメ!!お姉ちゃん、何しに来たかわかってる!?今日はお母さんの誕生日プレゼント一緒に買いに行く約束じゃん!」
「じゃ、早く終ってよー。成績報告だけだからすぐ終るっていうから上がってきたのにさ。話しこんじゃって。しかもこれからまた復習するとか言ってるじゃん。本当にするなら私帰るからね。」
「えぇ、お姉ちゃーん」
「ダメ、甘えた声だしたってお姉ちゃんは帰るから。敦司君苦手なんだよ、気まずすぎる。」
「敦司君、いい人だよ?真面目だからちょっと怖く見えるかもだけど。」
「知ってるよ、いい人だってことはさ。だけど、なんか気まずいんだもん。」
そうなのだ。“気まずい”、この一言に尽きる。
敦司君が隣に引っ越してきた12年前からそれは何も変わっていない。
はじめまして。読んでいただきありがとうございます。
初小説で、ふと思いつきで見切り発車してしまいましたw
書いたことが一度もないので・・・とはいいわけですが、拙い文章ながらゆっくり更新していきたいと思います。
ちなみに私もその都度思いつきで話を進めているので、登場人物がどう動くのかどういう結末になるのかさっぱりわかっておりませんw
ハッピーエンドになるようにはしたいとは思っております♪