表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

背中あわせにさようなら。

作者: 彩月一

 今日わたしは、大学受験に失敗した。

もともと望みは無かったが、落ちてみるとそれなりにショックで。

母の落胆した表情を見て、いかに自分がダメだかを実感する。


「来年は、がんばる。」


その瞬間だけの後悔。

自分で自分が嫌になる。


「・・・どりょくすれば、か・・・。

わたしに来年なんて、あるのかな・・・。」


部屋に戻って電気も付けずに寝転がる。

お気に入りの抱き枕を抱きしめて、ちょっとだけ、泣いた。


「・・・おねぇ、ごはん。」


控えめなノック。

姉とは違う、出来のいい妹。

華やかで明るいと近所で評判私と、地味だけど真面目で優しい妹。

世間からみれば、私たちは仲がいい。

でも正直言って今日は鬱陶しかった。


「・・・後で食べる。」


察しのいい妹は、黙って階段を下りていく。

気を使っているのか、静かな階下。


(こんな慰めなんて、要らない。

思いっきり、なじってくれればいいのに。

馬鹿野郎と、言ってくれればいいのに。)


父も母も妹も。

わたしを壊れ物のように扱う。


(わたしが、もう数年も生きられないから?)


そう、家族の態度が変わったのは、去年の、秋からだった。

その日、校庭での体育で、わたしは咳が止まらなくなって保健室に運ばれた。

仕舞には血を吐いて。

手に零れた赤を見て、漫画みたいだと漠然と思った。

病院で検査を受ける。

肺がんだった。

もうあちこちに転移して、今の今まで症状が現れなかったのが不思議な位だと、お医者さんは言っていた。

手術をしても、ただ莫大な費用がかかるだけで、完治する見込みは無し。

それなら、少しでも家族と一緒に。

そう進められ、すごすごと引き下がった両親。

なんとかならないんですか、と聞かれて、方法が出てくるのはドラマだけの話だ。

第一、手術の費用なんで、出てくる訳もない。

大量の抗がん剤とともに、退院する。

その日から、私は、激しく体を動かせなくなった。

表面上は明るく、華やかに。

嘘偽りで自分を守って。

そのストレスの反動に、勉強も何もしなくなった。

大学受験が近づいて、両親は受験なんてやめろと言った。

でもわたしは、せめて皆と同じ事をしたかった。

病気や、余命を理由に、ただ無為に過ごすなんて!

思わず言って、後悔した。

それから私は、一日の大半を勉強して過ごした。

でも、重い体を引きずって、たいしてはかどる訳もなく。

それでもがんばったら、入院してしまった。

目が覚めたのは、三日後。

入院中は勉強なんてさせてもらえない。

ただひたすら窓を見て過ごした。


(合格、したかったなー・・・。)


けほけほ、喉を枯らしたような咳。

もう時間は、あまり無いみたい。


(・・・最後に、もう一度だけ。)


朝皆が起きる前に起きた。

鉛のように体が重い。

喉の奥から何かが込み上げて、控えめに咳をしたら、何時もとは違う、どす黒い色の血が手に残った。


(あぁ、ほんとにやばい。)


お気に入りの服を着て、華やかな化粧をする。


(死に化粧、かなぁ。)


そう、わたしはこれから死にに行くんだ。


(いいよね?

わたし、がんばったもん。)


最後に、玄関を開けて。

小さく、呟いた。


「行って、きます。」


(ごめんなさい。

ありがとう。

さようなら。)


それだけが頭を駆け巡る。

時間は午前四時。

新聞配達のおじさんや、早朝のランニングをしている人が、怪訝そうな視線を向けてくる。

ゆっくりと時間をかけて、高台の公園を目指した。


「・・・キレー・・・。」


展望台の手すりに手を掛けて、朝日を拝む。

朝もやに包まれて眠る町が、徐々に目を覚ます。


「おねぇ・・・っ!!」


聞きなれた声に、びくりと肩を震わせる。


「なん、で・・・。」

「朝、起きたら居ないから、だって。」


泣きそうな顔。

寝癖もろくに、直さないで。


「・・・ごめんね。

でも、わたしがんばったよね?

神様も、認めて、くれるよね?」


自分が、どれだけ家族の負担になっているか。

想像しただけで、胸が痛い。


「っ、認めない!

私、絶対に許さないから!!」


どうして。

わたし、がんばって・・・今まで・・・。

頭の中で、何かが、弾けた。


「うるさい!

何で、なんで・・・わたしはがんばったもん。

一生懸命やったもん。

勉強も、運動もだめで、あんたみたいに、何も、なにも出来なくても。

がんばったのに!

神様は、わたしの命まで、縛った!!

生きられない、わたしは。

わたし、は・・・もう、皆に迷惑をかけてまで、生きていたくなんかないもん!!」


何時も、心の中に秘めていた想い。

なんで、どうしてわたしなの・・・?

勉強が、出来ないから?

運動が、出来ないから?

何も、出来ないから?

だから病気にして、出来ることを奪ったの?


「お願い、だから・・・このまま行かせてよ。」


神様、あなたは、私に。

死んでしまう事まで、許さないのですか・・・?


「嫌だ。

やだよ、おねえ・・・。

私、おねえが好きだもん。

何も出来なくたって、おねえは、私の自慢の・・・。」


そこで、私の意識は、唐突に途切れた。






大好きだよ。

そんな声が、聞こえた、気がした。




(あぁ、起きなきゃ。

でも、わたし、死んだ・・・?)






おねえは、私の、自慢なんだから。






(わたし、馬鹿、だよねー・・・。)











死のうだなんて。

そんなこと、わたしに許されるわけが、無いのに。






だったら、とことん、生きて、生きて、生きて!!






人生まっとうして、神様とやらに見せつけて。






堂々と。











死んで、やろうじゃないか!!





ごめんね、ありがと。






だから、もう少しだけ。








わたしの、わがままに、つきあって・・・?












もちろんだよ、おねえ。












「行ってきまーす。」

「おねえ、薬飲んだ?」

「もう、あんたお母さんみたい。」



「ね、手、つなごうよ。」

「何で突然?」

「いいからー、ね?」

「もう、おねえ、小学生みたい。」

「なんだとう!?」

キャー、あはは。













「・・・、ありがと。」





























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うん。この妹さん優しいですね。こうなると兄弟が欲しくなるなぁ。 「他人と同じことをやりたくて」よく心理をつかめているなぁと。 [気になる点] 改行が少しきついかなぁと。わざとなのかミスなの…
2011/01/27 23:20 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ