スキルのタマゴ
「 よってらっしゃい見てらっしゃい、格安の中古アイテムバッグだよ。前の持ち主のガラクタが入ったままだから、お客さん割引きしますよ」
路地裏のジャンクショップで、俺は古びた革のバッグを買い取った。
店主は金貨や宝石などの「分かりやすいお宝」だけを抜き取り、残った中身ごとバッグを安値で投げ売りしている。
なのでたまにわかる人にしかわからないお宝があったりするのだ。
いつ魔力が切れ中身が取り出せなくなるか怪しいバッグだから物凄く安い。
俺は落書きみたいな絵を試しに画商に持っていったことがあり、なんと金貨5枚もくれた。ホクホク顔で喜んでたら、その絵が金貨500枚で売られ、次に通った時には売約済みになっていたから一年ぐらい悔しい思いをした。
今日は何が出るかなと宿屋に戻り、さっそく中身をベッドへぶちまけた。
ガラガラと音を立てて出てきたのは、大量の「ひび割れた卵の殻」だった。
「なんだこれ……? 全部ゴミだけか?」
俺は低級の鑑定スキルを発動した。
【名称:『怪力』のスキルの殻(消滅済)】
【解説:約百年前、ある少女が産み落としたスキル入りの卵。孵化までに百年かかる生態を持つ。孵化した瞬間に最も近くにいた者にスキルが付与される。しかしアイテムバッグの闇の中で誰にも気づかれず孵化したため、スキルは定着せずに死亡した】
「……なるほどな」
俺は合点がいった。
百年前、人知れず「スキル入りの卵を産む」という奇妙なユニークスキルを持って生まれた少女がいたのだろう。
「人間なのに卵を産むなんて、誰にも相談できない……!」
彼女は恥ずかしさと恐怖から、産まれてくる卵を誰にも見られないよう、アイテムバッグの奥底へ隠し続けたのだ。
しかし、その卵の孵化には百年もの時間がかかった。
バッグの中に放置された卵たちは、少女が天寿を全うした遥か後、バッグの暗闇の中でひっそりと孵化し、誰にも拾われることなく、その強力なスキルを無駄にして死んでいったのだ。
ベッドの上の殻は、少女のコンプレックスの墓場だった。
『エリアヒール』『絶対領域』『超魅了』『エクスプロージョン』……。
歴史をひっくり返すようなチートスキルたちが、誰にも知られずバッグの中で「孤独死」していた。切ない話だ。
「ん……? 待てよ」
ゴロゴロと転がる殻の山の奥、まだ「ひび割れていない、温かい卵」が一つだけ残っていた。
鑑定する。
【名称:『???』のスキルの卵】
【状態:孵化まで残り――3、2、1……】
「うお、今かよ!?」
パキッ、と小気味いい音がして、卵の殻が左右に割れた。
中からまばゆい光が溢れ出し、部屋全体を包み込む。
光の粒子は行き先を探すように部屋を彷徨ったあと、文字通り「一番近くにいた」俺の胸へと吸い込まれていった。
ついに伝説のチートスキルが俺の手に!
胸を高鳴らせる俺の脳内に、無機質なシステム音が響き渡る。
《個体名:俺。ユニークスキル『スキル卵生(スキル入りの卵を産む力)』を獲得しました。なお、本スキルの性質上、あなたは今後、定期的に卵を産み落とす体質へと変化します》
「…………は?」
固まる俺のお腹のあたりが、急にズキズキと熱を持ち始める。
何かが、内側からせり上がってくるような、得体の知れない奇妙な感覚。
《警告:第一卵の生成が完了しました。速やかに産み落としてください。なお、孵化には100年かかります》
「いや、俺、男なんだけど……ッ!!」
凄まじい腹痛に襲われ、俺はその場に崩れ落ちた。
肛門がメリメリと押し広げられる。俺はヒーヒーフーと息をしながらウミガメのように涙を流した。
百年の時を超えて俺に引き継がれたのは、世界を救うチート能力などではなく、かつての少女を絶望のどん底に突き落とした「誰にも言えない秘密のバトン」そのものだった。
数分後。ベッドの上で、俺は卵を抱えていた。
ツルツルとした、温かく冬の寒さで湯気が立つ卵だ。
「……くそ、誰にも相談できねえ……」
俺は震える手で、買ったばかりの中古アイテムバッグの口を開け、その奥底へと卵を静かに沈めた。
(了)




