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犯人は、この中に‥‥‥

作者: とい
掲載日:2026/02/08

「皆さんを集めてください」


 僕は立ち上がって、偶然居合わせている刑事さんに伝える。


「分かったわ。今回も頼りにしてるわよ、探偵くん!」


 刑事さんが快活に笑って、皆を呼びに行こうと歩き出す。


「ちょっと待ってください。刑事さんにお願いがあります」


 僕は刑事さんを呼び止めて、耳元で囁く。


「‥‥‥えぇ!?」


 刑事さんは目を大きく見開いて僕を一瞥し、信じられないと言わんばかりに目を細める。


「状況が状況ですから」


 今、僕たちがいるのはスキー場近くの山荘。吹雪が酷く、携帯の電波も届かない。警察の介入は期待できない。

 何より、僕と刑事さんは完全にプライベートで旅行しに来ただけである。


「これがベストかと」


「‥‥‥わかった。それじゃあ、皆を呼んでくるから」


「気をつけてください」


 階段を上がっていく刑事さんを見送った後、僕は椅子に座って一息つく。



 30分後。


 僕と刑事さん含めて、山荘内にいる全員が集まった。死者となったAさんを除いて。


「いったい何のようや? わし眠いんやけど」


「これは間違いなく謎解き場面っ!! ここに集められたということは間違いありません!」


 Bさん、Cちゃんが口に出して呟く。


「用があんなら早くしてくんなーい?」


「殺人なんて起きたからには、もう部屋の鍵掛けて閉じ籠った方が安全ですよっ!!」


 Dちゃんが髪の毛を触りながら口を開き、Eさんは完全に疑心暗鬼になっている。


「私はこの山荘のオーナーですから、関係ないですよね!?」


「私も主人と同じ理由で、関係あるとは思えませんが‥‥‥」


 山荘経営者側であるFさん、奥さんのGさんが落ち着かない様子で言った。

 そう。僕と刑事さんを含めて、山荘内には8人いる。

 そして、僕は皆の前で堂々と言ってみせた。



   「犯人は、この中に‥‥‥いません」




   「「「「「「「はぁ!?」」」」」」


 当然、呆れたような声が響き渡る。隣の刑事さんが、小さくため息を吐く。


「いないんですよ」


 僕は、事件の説明を始める。


「殺されていたAさんの部屋の扉には鍵が掛かっていました。そして窓は割れている。明らかに外から入って来た誰かに殺されたんです」


「外部犯って‥‥‥こんな吹雪の中をか!?」


 Bさんが反論してきた。


「近くに車を用意していれば、簡単に車内で寒さに耐える事ができる」


「いや結構ムチャだぞ!?」


 Fさんがツッコミを入れてくる。Gさんも便乗して「そうよっ」と責め立てる。


「いや、考えてみてください。こんな猛吹雪の中、まさか近くに車を止めているなんて、誰も思わないでしょう」


「マジヤバ〜。もしかして心理トリックってやつ〜?」


 Dちゃんが口に手を当てて感心している。


「そんなクソみたいな展開っ、私は絶対に認めませんからっ!!」


 Cちゃんが何故か早口で捲し立ててきた。

 見ての通り、相当な言われようだ。


「‥‥‥」


 何も言わない、Eさんを除いて。


「あれ、どうしましたEさん? 何か気になる事でもありましたか?」


「‥‥‥いえ、なんでもありません」


 下を向いて話すEさんは、何かを気にしているようだった。


「それでは、落ち着いてひと息つきましょう。全員ここで固まっていれば、外部犯も襲ってはこないはず」


「「「「「‥‥‥」」」」」


 5人ほどの視線が鋭く射抜いてくるけど、僕は気にしない事にした。


「それじゃあ、何か飲み物を持って来ます」


 オーナーであるFさんが歩き出すと、奥さんのGさんも後を追う。


「コーヒーでおねがいします」


「同じくコーヒーで」


「紅茶頼むで」


「オレンジジュースで!」


「ジンジャーエール1つ〜」


「暖かいお茶を‥‥‥」


 僕たちは一斉に希望を伝えると、数分後にはお盆に載せた2人が戻って来る。


「それじゃあ、朝まで全員ここにいましょう。吹雪も弱まって電話が通じるかもしれませんから」


 こうして、僕たちは長い夜を過ごす事になる。

 



「‥‥‥おい、起きろ!!」


 朝。そんな声が激しく響き渡る。声を掛けられているのは、僕ではない。


「起きてください、犯人さん」


 なぜなら、僕も起こす側だからだ。


「‥‥‥んぁ?」


 間抜けな声を上げた、その人は起き上がれない。


「ーーーはっ!?」


 ロープでぐるぐる巻きに巻かれ、固定されているからだ。


「おはようございます。Bさん」


「ッ‥‥‥!!」


 動けないBは、恨み節を込めて睨みつけてくる。僕と刑事さん、そして後から通報されて駆け付けてきた県警さんを。


「な、なんの事や!? わし本当に何も知らんで!?」


「とぼけても無駄ですよ。もう全て分かってますから」


 僕が後ろ手に隠していた、ジッパーに収められている物を見せ付ける。


「っ!」


 Bが明らかに狼狽したのを、僕は見逃さない。


「このナイフ、血が付いてますね? 昨日、近くの雪の中に埋まっていた物です。指紋があなたのものと一致したそうですよ」


「なっ、どうやって見つけたんや!!?」


 もう、Bに反論の余地は無い。そもそも、そんな逃げ道は全てに僕が潰している。


「事件現場とあなたの言動を推測すれば簡単でしたよ。かなり突発的な犯行のようでしたし」


「と、扉には鍵が掛かってたんやぞ!?」


「そんなの簡単なトリックですよ。それはーーー」


 僕が順序立てて説明していくと、Bの顔が青ざめていく。


「皆さんを集めた時から、あなたが犯人だと分かってました。だからオーナーと奥さんには事前に協力してもらったんですよ」


「きょ、協力?」


 Bは全ての謎を知りたいと言わんばかりの口振りだった。


「睡眠導入剤ですよ。オーナーはあまり眠れないそうで、普段から常備していたそうです。それを1つ、あなたの紅茶に入れてもらったわけです」


 Bが目を大きく見開いて、机に残っていた紅茶カップを凝視する。


「な、なんでやっ!! 犯人はこの中におらんって言うてたやないか!!?」


 逆上したBの、質問攻め。不満をぶち撒けないと気が済まないようだった。


「あなたは誰よりも大柄で、正面からは取り押さえられない。わざわざあの場で犯人を見つけたら、暴れられる可能性が高い」


「なっ」


「最悪、誰かを人質に取られる可能性も高い」


 そう、これが僕の考え。


「だから外部犯と言う出鱈目な事を言って、犯人であるあなたを油断させる」


「なっ」


「そして皆で固まるといった時に飲み物が出て来れば、よほど警戒してない限り飲む。あとは今に繋がるわけです」


 そして、僕が導いた結論。もう話す事は無いので、後は刑事さんと県警にお任せする。


「なっ‥‥‥何もんやお前はっ!!!」


 最後の悪あがきか、Bはそんな事を尋ねてきた。刑事さんが何処か誇らしげに笑っている。


「探偵ですよ。真相に辿り着き、円滑に事件を解決する。ここを使ってね」


 僕が人差し指で示した箇所は、もはや言うまでもないだろう。


「は!? 頭やないんか!?」


「あなたを乗せたのは、これですよ。車の話も出したでしょ?」


「誰が口車やッ!!」


「ナイスツッコミ。それでは、後はおねがいしますね」


 徹夜明けの頭には、犯人の声がよく響く。


「いつもありがとね、探偵くん。無理に付き合わせて悪かったわね」


 そして、刑事さんの声は心に響く。

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