犯人は、この中に‥‥‥
「皆さんを集めてください」
僕は立ち上がって、偶然居合わせている刑事さんに伝える。
「分かったわ。今回も頼りにしてるわよ、探偵くん!」
刑事さんが快活に笑って、皆を呼びに行こうと歩き出す。
「ちょっと待ってください。刑事さんにお願いがあります」
僕は刑事さんを呼び止めて、耳元で囁く。
「‥‥‥えぇ!?」
刑事さんは目を大きく見開いて僕を一瞥し、信じられないと言わんばかりに目を細める。
「状況が状況ですから」
今、僕たちがいるのはスキー場近くの山荘。吹雪が酷く、携帯の電波も届かない。警察の介入は期待できない。
何より、僕と刑事さんは完全にプライベートで旅行しに来ただけである。
「これがベストかと」
「‥‥‥わかった。それじゃあ、皆を呼んでくるから」
「気をつけてください」
階段を上がっていく刑事さんを見送った後、僕は椅子に座って一息つく。
30分後。
僕と刑事さん含めて、山荘内にいる全員が集まった。死者となったAさんを除いて。
「いったい何のようや? わし眠いんやけど」
「これは間違いなく謎解き場面っ!! ここに集められたということは間違いありません!」
Bさん、Cちゃんが口に出して呟く。
「用があんなら早くしてくんなーい?」
「殺人なんて起きたからには、もう部屋の鍵掛けて閉じ籠った方が安全ですよっ!!」
Dちゃんが髪の毛を触りながら口を開き、Eさんは完全に疑心暗鬼になっている。
「私はこの山荘のオーナーですから、関係ないですよね!?」
「私も主人と同じ理由で、関係あるとは思えませんが‥‥‥」
山荘経営者側であるFさん、奥さんのGさんが落ち着かない様子で言った。
そう。僕と刑事さんを含めて、山荘内には8人いる。
そして、僕は皆の前で堂々と言ってみせた。
「犯人は、この中に‥‥‥いません」
「「「「「「「はぁ!?」」」」」」
当然、呆れたような声が響き渡る。隣の刑事さんが、小さくため息を吐く。
「いないんですよ」
僕は、事件の説明を始める。
「殺されていたAさんの部屋の扉には鍵が掛かっていました。そして窓は割れている。明らかに外から入って来た誰かに殺されたんです」
「外部犯って‥‥‥こんな吹雪の中をか!?」
Bさんが反論してきた。
「近くに車を用意していれば、簡単に車内で寒さに耐える事ができる」
「いや結構ムチャだぞ!?」
Fさんがツッコミを入れてくる。Gさんも便乗して「そうよっ」と責め立てる。
「いや、考えてみてください。こんな猛吹雪の中、まさか近くに車を止めているなんて、誰も思わないでしょう」
「マジヤバ〜。もしかして心理トリックってやつ〜?」
Dちゃんが口に手を当てて感心している。
「そんなクソみたいな展開っ、私は絶対に認めませんからっ!!」
Cちゃんが何故か早口で捲し立ててきた。
見ての通り、相当な言われようだ。
「‥‥‥」
何も言わない、Eさんを除いて。
「あれ、どうしましたEさん? 何か気になる事でもありましたか?」
「‥‥‥いえ、なんでもありません」
下を向いて話すEさんは、何かを気にしているようだった。
「それでは、落ち着いてひと息つきましょう。全員ここで固まっていれば、外部犯も襲ってはこないはず」
「「「「「‥‥‥」」」」」
5人ほどの視線が鋭く射抜いてくるけど、僕は気にしない事にした。
「それじゃあ、何か飲み物を持って来ます」
オーナーであるFさんが歩き出すと、奥さんのGさんも後を追う。
「コーヒーでおねがいします」
「同じくコーヒーで」
「紅茶頼むで」
「オレンジジュースで!」
「ジンジャーエール1つ〜」
「暖かいお茶を‥‥‥」
僕たちは一斉に希望を伝えると、数分後にはお盆に載せた2人が戻って来る。
「それじゃあ、朝まで全員ここにいましょう。吹雪も弱まって電話が通じるかもしれませんから」
こうして、僕たちは長い夜を過ごす事になる。
「‥‥‥おい、起きろ!!」
朝。そんな声が激しく響き渡る。声を掛けられているのは、僕ではない。
「起きてください、犯人さん」
なぜなら、僕も起こす側だからだ。
「‥‥‥んぁ?」
間抜けな声を上げた、その人は起き上がれない。
「ーーーはっ!?」
ロープでぐるぐる巻きに巻かれ、固定されているからだ。
「おはようございます。Bさん」
「ッ‥‥‥!!」
動けないBは、恨み節を込めて睨みつけてくる。僕と刑事さん、そして後から通報されて駆け付けてきた県警さんを。
「な、なんの事や!? わし本当に何も知らんで!?」
「とぼけても無駄ですよ。もう全て分かってますから」
僕が後ろ手に隠していた、ジッパーに収められている物を見せ付ける。
「っ!」
Bが明らかに狼狽したのを、僕は見逃さない。
「このナイフ、血が付いてますね? 昨日、近くの雪の中に埋まっていた物です。指紋があなたのものと一致したそうですよ」
「なっ、どうやって見つけたんや!!?」
もう、Bに反論の余地は無い。そもそも、そんな逃げ道は全てに僕が潰している。
「事件現場とあなたの言動を推測すれば簡単でしたよ。かなり突発的な犯行のようでしたし」
「と、扉には鍵が掛かってたんやぞ!?」
「そんなの簡単なトリックですよ。それはーーー」
僕が順序立てて説明していくと、Bの顔が青ざめていく。
「皆さんを集めた時から、あなたが犯人だと分かってました。だからオーナーと奥さんには事前に協力してもらったんですよ」
「きょ、協力?」
Bは全ての謎を知りたいと言わんばかりの口振りだった。
「睡眠導入剤ですよ。オーナーはあまり眠れないそうで、普段から常備していたそうです。それを1つ、あなたの紅茶に入れてもらったわけです」
Bが目を大きく見開いて、机に残っていた紅茶カップを凝視する。
「な、なんでやっ!! 犯人はこの中におらんって言うてたやないか!!?」
逆上したBの、質問攻め。不満をぶち撒けないと気が済まないようだった。
「あなたは誰よりも大柄で、正面からは取り押さえられない。わざわざあの場で犯人を見つけたら、暴れられる可能性が高い」
「なっ」
「最悪、誰かを人質に取られる可能性も高い」
そう、これが僕の考え。
「だから外部犯と言う出鱈目な事を言って、犯人であるあなたを油断させる」
「なっ」
「そして皆で固まるといった時に飲み物が出て来れば、よほど警戒してない限り飲む。あとは今に繋がるわけです」
そして、僕が導いた結論。もう話す事は無いので、後は刑事さんと県警にお任せする。
「なっ‥‥‥何もんやお前はっ!!!」
最後の悪あがきか、Bはそんな事を尋ねてきた。刑事さんが何処か誇らしげに笑っている。
「探偵ですよ。真相に辿り着き、円滑に事件を解決する。ここを使ってね」
僕が人差し指で示した箇所は、もはや言うまでもないだろう。
「は!? 頭やないんか!?」
「あなたを乗せたのは、これですよ。車の話も出したでしょ?」
「誰が口車やッ!!」
「ナイスツッコミ。それでは、後はおねがいしますね」
徹夜明けの頭には、犯人の声がよく響く。
「いつもありがとね、探偵くん。無理に付き合わせて悪かったわね」
そして、刑事さんの声は心に響く。




