第8話:『黒い絶望――鑑定不能の影』
「……ビット、さっきの『鑑定不能』って、どういうことだ?」
俺の声は、自分でも驚くほど震えていた。
空を支配していたはずの、新生ゼクセリオンの光が、急速に色褪せていくのを感じる。
『わからない! データが……砂嵐みたいにノイズだらけなんだ。あんなの、この世界の金属じゃないよ!』
ビットの叫びと同時に、地上のゴミ山が――「爆発」した。
火薬の爆発ではない。
空間そのものが、真っ黒なインクをぶちまけたように染まり、そこから『それ』が這い出してきたのだ。
漆黒の装甲。
ゼクセリオンに酷似しているが、全身に血管のような赤いラインが脈打ち、背中には千切れた翼のような影が揺らめいている。
「……ゼクセリオンの、影?」
ルナが顔を青ざめさせ、コクピットの計器に手を当てる。
「アルト様、気をつけてください。あれは『空虚の答え(アビス・アンスレイ)』……。存在してはならない、拒絶の機体です」
黒い機体が、頭部らしき部分をゆっくりとこちらへ向けた。
目が合ったわけではない。だが、俺の【ガラクタ鑑定】が悲鳴を上げた。
《警告:未知の干渉を検知》
《解析不能、解析不能、解析不…………》
視界に走るエラーログ。
これまで、どんなゴミでも一瞬で構造を見抜いてきた俺の右目が、初めて『無』を突きつけられた。
「……来るぞ!」
黒い影が、一瞬で空を飛んでいたゼクセリオンの眼前に現れた。
速い。第7話で見せた俺たちの機動を、嘲笑うかのような次元の違う速度。
ドンッ!!
重厚な衝撃音が響き、ゼクセリオンが地上へと叩きつけられる。
「がはっ……! な……何が起きたんだ!?」
『アルト、シールドが削られてる! 今の、ただの体当たりだよ!』
泥の中から立ち上がろうとするが、ゼクセリオンの動きが鈍い。
鑑定が機能しない。
相手の弱点が見えない。
俺が「ゴミ」だと切り捨ててきた、かつての鑑定不能な恐怖が、今度は俺自身を飲み込もうとしている。
黒い機体は、音もなく俺たちの前に降り立った。
その手には、闇を凝縮したような大剣が握られている。
「主殿! 退けッ! そいつは、私たちが戦っていい相手ではない!」
セシルが地上で叫ぶ。
だが、黒い機体は無慈悲に剣を振り上げた。
その瞬間、俺の頭の中に、冷たい、氷のような声が直接響いた。
『――偽リノ適合者ヨ。其ノ「答え」ハ、間近ニ迫ル終焉ニ耐エ得ルモノカ?』
「……喋った……のか?」
絶体絶命。
だが、その絶望の淵で、俺の右目が奇妙な変化を見せ始める。
《――緊急事態。適合者の意志により、強制鑑定を開始します》
俺は、血が滲むほど目を見開いた。
「見えなくても、関係ない……。お前が世界の一部なら、俺が、無理やりにでも鑑定してやる!」




