第25話:『世界をガラクタと呼ぶな』
世界が白く溶けていく。
建物が、空が、人々の記憶が、無慈悲なシステムコードへと分解されていく。
「……アルト……様。もう、終わりです……。私を……消して……」
透き通るルナの体が、システムの核へと吸い込まれていく。
ビットは赤く染まった瞳のまま動きを止め、ゼクセリオンのコックピットには「消去(DELETE)」の文字が並ぶ。
「……終わりだと? 勝手に決めるな。……俺の目は、まだ何も諦めてないぞ!」
アルトは血の涙を流しながら、右目のオーバークロックを限界まで引き上げた。
《警告:パイロットの精神崩壊まで残り10秒》
《世界再定義率:99%……》
「……見えた。……見えたぞ、神様!」
真っ白な視界の端。システムが「完璧な初期化」を行うために、唯一切り捨てた「余り(ノイズ)」――。
それは、これまでアルトが拾い集めてきた、価値がないとされたガラクタたちのログだった。
「カイン、皇帝、そしてシステム! あんたたちは、効率の悪いものをゴミだと呼んだ! だがな、そのゴミがなきゃ、この世界は動かないんだよ!」
アルトは動かないゼクセリオンのレバーを、自らの筋肉が断裂するほどの力で押し込んだ。
「逆鑑定、開始……! 対象:『世界システム』!!」
《解析不能……》
「黙れ! ……再定義しろ! 『世界システム』を……ただの『巨大なスクラップ』として書き換えろ!」
ドォォォォォォォォォォン!!
アルトの右目から放たれた青い閃光が、システムの中枢を貫いた。
完璧だったはずの初期化プログラムに、「ガラクタ」という名の致命的な不純物が混入していく。
「な……何をした!? 神の調律を、ただの人間が……っ!」
皇帝の叫び。だが、もう遅い。
「ビット! ルナ! お前たちはシステムの一部なんかじゃない! 俺が直した、世界に一つだけの『相棒』だッ!!」
アルトの叫びが、閉ざされた二人の意識を叩き起こした。
『――ピポッ! ……そうだよ。ボクは……アルトの、最高のガラクタだ!』
ビットの瞳が、黄金色に輝きを取り戻す。
ルナの体が実体を取り戻し、彼女はシステムを内側から食い止める「防壁」へと変貌した。
「――再定義:【黄金の残骸】!!」
ゼクセリオンが拳を振り下ろす。
それは破壊ではなく、バラバラになった世界を「繋ぎ止める」ための、鑑定士のハンマー。
バキィィィィィィィィン!!
光の柱が砕け散る。
初期化は停止し、世界は崩壊の淵で踏みとどまった。
……。
数日後。
帝都は半壊し、空にはまだデジタルノイズの傷跡が残っている。
だが、人々は再び土を耕し、壊れたロボットを直し、歩み始めていた。
「……行っちゃうんですか、アルト様」
復興の進む街の門。ルナが少し寂しげに、白銀の機体を見上げた。
「ああ。世界中に、まだ『ゴミ』だと思われて泣いてるやつらがたくさんいるからな」
アルトの右目は、もう赤く光ることはない。
けれど、その奥には、地下都市の仲間たちが作ってくれた新しいレンズが、優しく世界を映している。
『アルト、次のゴミ山(お宝)の反応を見つけたよ! 全速力で行こう!』
「急かすなよ、ビット。……セシル、準備はいいか?」
「ふん、いつでもいいぞ。主殿の行く先、我が剣が切り拓こう」
ゼクセリオンが、朝日を浴びて地平線へと歩き出す。
かつて追放された少年は、もういない。
そこにいるのは、世界を救い、そして今日もどこかでガラクタを拾い続ける――世界最高の鑑定士だ。
(完)




