第18話:『二機のゼクセリオン』
燃え盛る空中艦隊の残骸が、雨のように地上へ降り注ぐ。
その炎のカーテンを割り、音もなく現れたのは、漆黒の巨神だった。
かつて第8話で俺たちを絶望の淵に叩き落とした、あの機体。
だが、今の俺には見える。地下都市の技術で新調した右目のセンサーが、その機体の真の名前を、ノイズ混じりに映し出していた。
《ロスト・レジェンド:【零号機・アビス】を検知》
《警告:同一の基本フレーム。……共鳴現象を開始します》
「……ゼクセリオンの、兄弟機だと……!?」
『アルト、気をつけて! ゼクセリオンの出力が勝手に上がってる。ボクの制御を無視して、あっちと「会話」しようとしてるみたいなんだ!』
ビットの焦った声が響く。
確かに、ゼクセリオンの白い装甲が脈打つように発光し、呼応するようにアビスの黒いボディも赤い雷を放っていた。
「ルナ、これはどういうことだ。……あいつは、一体何なんだ!」
俺が問いかけると、ルナは幽霊のように青白い顔で、アビスを見つめていた。
「……最悪の『共鳴』が始まりました。アビスはゼクセリオンを、自分の一部だと認識している……。アルト様、離れて! 意思に関係なく、二つのコアが一つに溶け合おうとしています。……世界が、強制的に終わらされてしまう!」
「初期化だって? ふざけるな。……俺は、そんなことのためにこいつを直したんじゃない!」
アビスが、ゆっくりと右腕を上げた。
その手に握られているのは、ゼクセリオンの振動ブレードと瓜二つの、闇で形成された大剣。
『――偽リノ適合者ヨ。無知ナル「鑑定」ハ、罪ナリ』
脳を直接削るような、あの不気味な声が響く。
「……黙れッ! 罪かどうかなんて、俺が自分で鑑定して決める!」
俺は新生ゼクセリオンを加速させた。
白と黒。
鏡合わせのような二体の巨神が、空中で激突する。
ガギィィィィィィィィン!!
一撃。
ただの激突で、周囲の雲が同心円状に吹き飛んだ。
「セシル、合わせろ! 今の俺たちなら、こいつの動きが見えるはずだ!」
「心得た! この不吉な影……、私の剣で叩き切ってくれる!」
ゼクセリオンの白銀の剣と、アビスの漆黒の剣が火花を散らす。
だが、打ち合うたびに、俺の右目が異常なログを吐き出し始めた。
《シンクロ率上昇……90%……95%……》
《警告:パイロットの精神意識が「アビス」と混濁しています》
「……う、あ……ッ!?」
視界が混ざる。
俺が剣を振っているのか。それとも、あいつが俺を振っているのか。
アビスの「冷酷な殺意」が、ゼクセリオンの神経回路を通じて、俺の脳内に直接流れ込んできた。
『全テヲ、ゴミヘ。全テヲ、無ヘ――』
「……やめろ……。俺の、俺の頭の中に……入ってくるな……!」
その時。
アビスの背後に、さらなる影が現れた。
「……ハハハ! いいザマだなぁ、アルト! その『黒』こそが、我が皇帝が手にした究極の裁きよ!」
死んだはずのヴァルガスの声。……いや、違う。
大破したはずの『グロリアス』の残骸を、アビスが磁石のように吸い寄せ、自身の「部品」として再構成し始めていた。
白のゼクセリオンが「再生」の象徴なら。
黒のアビスは、周囲の全てを飲み込む「捕食」の象徴。
史上最悪の合体。
俺たちの前に、地獄を纏った黒い神が降臨した。




