第17話:『七星、墜つ――ヴァルガスの最期』
「……認めん。認めんぞアルトォォッ! 貴様のようなドブネズミに、我が栄光が汚されてたまるかぁぁッ!」
炎上する旗艦の甲板で、ヴァルガスの『グロリアス』が狂ったように吠えた。
四本の腕が限界まで加熱し、周囲の空気が陽炎となって揺れる。もはや機体そのものが自壊を始めた、捨て身の暴走だ。
「ヴァルガス、あんたの機体はもう泣いてる。……鑑定するまでもない、それはもう『死体』だ」
俺は冷徹に告げた。
新生ゼクセリオンの紅い右目が、敵の装甲裏でショートし続ける回路を、断線しかけたエネルギー管を、残酷なまでに鮮明に映し出す。
「黙れぇッ! 死ねッ! 死ねえぇぇッ!!」
グロリアスの全砲門が、至近距離から光の奔流を放つ。
だが、俺はもう動じない。
「セシル、今だ!」
「応ッ! ……秘剣・二ノ型――『霞』!!」
ゼクセリオンが、セシルの流麗な動きをトレースし、超高速の抜刀を繰り出した。
放たれた熱線が、振動ブレードの「面」によって物理的に切り裂かれ、四方へと霧散していく。
「な……、熱線を斬っただと!? 馬鹿な、そんな理外の技が……!」
「理外じゃない。……あんたの攻撃が『雑』になっただけだ」
俺は一気に間合いを詰めた。
ドォォォォォォン!!
ゼクセリオンの拳が、グロリアスの腹部へと突き刺さる。
だが、それはただの打撃ではない。
「ビット、解析したノイズを逆注入! システムを内側からバラバラにしてやれ!」
『了解! アンダー・ギア特製、ウイルス・コード『スクラップ・メーカー』、投入だよ!』
ガガガガッ、とグロリアスの全身が痙攣を始めた。
完璧な秩序を誇った七星の機体が、内側からボロボロと部品を零していく。
「ああ……あああ……! 我が機体が……我が誇りが……ガラクタに……ッ!」
「……ヴァルガス。あんたがゴミだと切り捨ててきたモノの重さを、その身で味わえ」
俺は右目の出力を最大まで引き上げた。
「――再定義:【塵芥帰還】!!」
ゼクセリオンの掌から放たれた衝撃波が、グロリアスのコアを粉砕した。
爆発。
かつての最強の機将は、自らが嘲笑った「ゴミ」と同じ姿になって、燃え盛る空へと散っていった。
「……終わった、な」
荒い息を吐きながら、俺は操縦桿から手を離した。
だが、勝利の余韻に浸る暇はない。
ヴァルガスの機体が爆発した中心点から、禍々しい「黒い裂目」が広がっていくのを、右目のセンサーが捉えていた。
『アルト、これ……第8話のアイツと同じ反応だよ……!』
闇の中から、一つの巨大な影が姿を現した。
それは、皇帝でも、七星でもない。
ゼクセリオンによく似た、けれど決定的に邪悪な『もう一機の神』。
「……『審判』は、既に始まっているのです」
隣で、ルナが絶望に満ちた声で呟いた。
第1部完結に向けて、物語は真の絶望――「世界の意志」との接触へと突入する。




