表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

第14話:『地下都市のメカニックたち』

 意識が浮上したとき、鼻を突いたのは懐かしい匂いだった。

 焦げたオイル、火花の散る鉄の香気、そして微かな安物のコーヒー。


「……目が覚めたか、鑑定士の坊主」


 ぼんやりとした視界に映ったのは、剥き出しの鉄骨と、無数の歯車が噛み合う巨大な天井。

 エクリプス軍の監視が届かない地下数千メートルの吹き溜まり――ガラクタ漁り(スカベンジャー)の聖域『アンダー・ギア』だった。


「ガストン……さん。俺は……」


「安心しな。お前の連れの騎士様と聖女様なら、隣で泥のように眠ってらあ。機体ロボの方も、一応は収容してある」


 ギルド長、ガストンは、油の染みた布で自らの機械義手を拭きながら不敵に笑った。


 俺はふらつく体を引きずり、作業場の奥へと向かった。

 そこに鎮座していたのは、満身創痍のゼクセリオンだ。装甲は焼け落ち、光翼の基部は無惨にひしゃげている。


「……ひどいな。俺が、無理をさせたせいだ」


 右目は相変わらず何も見えず、左目も焦点が定まらない。

 鑑定をしようとしても、視界に走るのは砂嵐のようなノイズだけだった。


『……ピ、ピポ……。アルト……、ごめんね……。ボク、もう、計算できないよ……』


 ゼクセリオンの肩に座ったビットが、力なくアンテナを揺らす。

 その時だった。


「おいおい、そんな暗い顔すんな。ここは世界一の『修理屋ジャンク・ドクター』が集まる場所だぜ?」


 周囲の影から、次々と人影が現れた。

 顔を煤で汚した少年、巨大なレンチを担いだ屈強な女、そして白髪交じりの老整備士。

 皆、エクリプス軍の「完璧な秩序」を嫌い、ゴミ山から可能性を拾い上げる道を選んだ者たちだ。


「へぇ、これが伝説の白銀の機体か。……外装はボロボロだけど、中の骨組み(フレーム)はとんでもねえな。惚れちまいそうだ」


「見てよこの配線、今の軍の規格じゃ考えられない。美しすぎて、どこから手をつけていいか迷っちゃうね」


 彼らは恐怖するどころか、好奇心に目を輝かせてゼクセリオンを取り囲んだ。


「アルト。お前は今まで、自分の『目』だけで戦ってきた。……だがな、ガラクタを愛するのはお前一人じゃねえ」


 ガストンが俺の肩に、ゴツゴツとした大きな手を置いた。


「ここの連中は、お前の『目』が見えない分、自分の『手』を貸す準備ができてる。……どうする? もう一度、こいつを叩き直すか?」


 俺は、震える手でゼクセリオンの装甲に触れた。

 鑑定のステータスは見えない。

 けれど、装甲から伝わってくる鈍い熱が、まだこいつが死んでいないことを教えてくれた。


「……ああ。お願いします。……俺に、この機体を『再定義』させてくれ」


 その瞬間、暗かった地下都市に、一斉に作業用ライトが灯った。


 ハンマーの叩く音。溶接の火花。

 それは、失墜した鑑定士が、真のメカニックへと生まれ変わるための産声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ