第14話:『地下都市のメカニックたち』
意識が浮上したとき、鼻を突いたのは懐かしい匂いだった。
焦げたオイル、火花の散る鉄の香気、そして微かな安物のコーヒー。
「……目が覚めたか、鑑定士の坊主」
ぼんやりとした視界に映ったのは、剥き出しの鉄骨と、無数の歯車が噛み合う巨大な天井。
エクリプス軍の監視が届かない地下数千メートルの吹き溜まり――ガラクタ漁り(スカベンジャー)の聖域『アンダー・ギア』だった。
「ガストン……さん。俺は……」
「安心しな。お前の連れの騎士様と聖女様なら、隣で泥のように眠ってらあ。機体の方も、一応は収容してある」
ギルド長、ガストンは、油の染みた布で自らの機械義手を拭きながら不敵に笑った。
俺はふらつく体を引きずり、作業場の奥へと向かった。
そこに鎮座していたのは、満身創痍のゼクセリオンだ。装甲は焼け落ち、光翼の基部は無惨にひしゃげている。
「……ひどいな。俺が、無理をさせたせいだ」
右目は相変わらず何も見えず、左目も焦点が定まらない。
鑑定をしようとしても、視界に走るのは砂嵐のようなノイズだけだった。
『……ピ、ピポ……。アルト……、ごめんね……。ボク、もう、計算できないよ……』
ゼクセリオンの肩に座ったビットが、力なくアンテナを揺らす。
その時だった。
「おいおい、そんな暗い顔すんな。ここは世界一の『修理屋』が集まる場所だぜ?」
周囲の影から、次々と人影が現れた。
顔を煤で汚した少年、巨大なレンチを担いだ屈強な女、そして白髪交じりの老整備士。
皆、エクリプス軍の「完璧な秩序」を嫌い、ゴミ山から可能性を拾い上げる道を選んだ者たちだ。
「へぇ、これが伝説の白銀の機体か。……外装はボロボロだけど、中の骨組み(フレーム)はとんでもねえな。惚れちまいそうだ」
「見てよこの配線、今の軍の規格じゃ考えられない。美しすぎて、どこから手をつけていいか迷っちゃうね」
彼らは恐怖するどころか、好奇心に目を輝かせてゼクセリオンを取り囲んだ。
「アルト。お前は今まで、自分の『目』だけで戦ってきた。……だがな、ガラクタを愛するのはお前一人じゃねえ」
ガストンが俺の肩に、ゴツゴツとした大きな手を置いた。
「ここの連中は、お前の『目』が見えない分、自分の『手』を貸す準備ができてる。……どうする? もう一度、こいつを叩き直すか?」
俺は、震える手でゼクセリオンの装甲に触れた。
鑑定のステータスは見えない。
けれど、装甲から伝わってくる鈍い熱が、まだこいつが死んでいないことを教えてくれた。
「……ああ。お願いします。……俺に、この機体を『再定義』させてくれ」
その瞬間、暗かった地下都市に、一斉に作業用ライトが灯った。
ハンマーの叩く音。溶接の火花。
それは、失墜した鑑定士が、真のメカニックへと生まれ変わるための産声だった。




