第13話:『絶望の底に差す光』
視界が、暗い。
限界を超えたゼクセリオンのコックピットは、至る所から火花が散り、もはや動く棺桶と化していた。
「……ビット。ルナ。逃げろ……。俺が、ここで食い止める……」
掠れた声で告げるが、返事はない。
ビットは過負荷で沈黙し、ルナは俺の肩に寄りかかったまま、気を失っている。
空を見上げれば、エクリプス軍の本隊が、黒い雲のように空を埋め尽くしていた。
中央に鎮座する、皇帝の機体『テラ・エクリプス』。
その圧倒的な重圧感だけで、地上の瓦礫が粉々に砕け散っていく。
「……アルト。貴様の『鑑定』は、我らが世界の秩序を乱す毒だ。ここで消え去るがいい」
皇帝の冷徹な声が、天から降り注ぐ。
『テラ・エクリプス』の指先が、審判を下すようにゆっくりとこちらへ向けられた。
「……まだだ。ここで終わらせてたまるか。……ルナ、ビット。お前らだけでも、絶対に逃がす!」
俺は震える手で、機体の全エネルギーを後方推進器へと回した。戦うためじゃない、二人を爆風から守り、この場から離脱させるための捨て身の機動だ。
皇帝の指先が放つ光が視界を白く染める。 だが、その光が俺たちを焼き尽くす直前――。
「――おいおい、随分と派手にやられてるじゃねえか、若造」
通信回線に、聞き慣れない……だが、腹の底に響くような野太い声が割り込んできた。
ドォォォォォォォォォォン!!
突如、皇帝の機体と俺たちの間に、巨大な「コンテナ」が空から突き刺さった。
「な……何事だ!? 空域を封鎖していたはずだぞ!」
ヴァルガスが驚愕の声を上げる中、コンテナのハッチが爆発するように開いた。
そこから飛び出してきたのは、全身が「錆びた鉄板」と「巨大なドリル」で構成された、無骨極まりない旧世代の重機ロボ群。
「ゴミ山を荒らすのは、軍の規則違反だぜ。……エクリプスの坊ちゃん方」
コンテナの影から現れたのは、油まみれのツナギを着た、隻腕の老人だった。
「あ……あんたは……」
「『ガラクタ漁り(スカベンジャー)』のギルド長、ガストンだ。アルト、お前さんが掘り出したその『白銀』……俺たちが預かる」
ガストンが指を鳴らすと、周囲のゴミ山から、擬態していた数十台の作業用ロボが次々と姿を現した。
「全機、煙幕展開! 『お宝』を回収して、地下回廊へズラかるぞ!」
シュゴォォォォォッ!!
一瞬にして、戦場が濃密な銀色の煙に包まれる。
それは単なる煙幕ではない。鑑定やレーダーを完全に遮断する、対エクリプス軍用の「ジャミング・パウダー」だ。
「……逃がすか! 全門、掃射ッ!」
皇帝の怒号とともに、頭上から光の雨が降り注ぐ。
だが、ガストンたちの手際は神業だった。
巨大なクレーンがゼクセリオンを吊り上げ、地響きとともに地下へと続く大穴の中へ滑り込んでいく。
「……助かった……のか?」
薄れゆく意識の中、俺はガストンの不敵な笑みを見た。
「勘違いするなよ、アルト。貸しは高くつくぜ。……お前さんのその『目』、まだ使い道があるからな」
闇に沈む視界の最後に見えたのは、軍の猛攻を物ともせず、不気味に輝く地下都市の灯りだった。




