第10話:『衝撃の真実。ルナの正体』
右目の光を失い、俺たちはエクリプス軍の追撃を逃れて古城の地下へと身を潜めていた。
松明の火が揺れる中、ルナが俺の傷ついた右目にそっと手を当てる。
その手のひらは、驚くほど冷たかった。
「……アルト様。あなたは、なぜこのガラクタ鑑定の力を手に入れたか、考えたことはありますか?」
ルナの問いに、俺は残った左目で彼女を見つめ返した。
「……運が良かっただけだと思ってた。ゴミ山で、偶然才能に目覚めただけだと」
「いいえ、違います。……それは、あなたが『ゼクセリオンの部品』として選ばれたからです」
「……部品?」
俺の隣で、セシルが剣を握る手に力を込めた。
不穏な空気を感じ取ったビットも、電子音を消して静まり返っている。
ルナは静かに立ち上がり、壁に描かれた古の壁画を指さした。
そこには、白銀の巨神と、その胸に溶け込むように描かれた「一人の人間」の姿があった。
「ゼクセリオンには、心臓がありません。……正確には、生きた人間の『魂の鑑定』がなければ、その真の機能――世界を初期化する力は発動しないのです」
ルナの瞳が、青く無機質な光を放ち始める。
その光は、あの闇の機体『アビス』が放っていたものと、どこか似ていた。
「私は、その『心臓』となるべき人間を導くための、生体インターフェース……。聖女などという高潔なものではありません」
「待て……。じゃあ、君が俺を助けたのも……」
「はい。あなたがゼクセリオンと完全に同調し、己の意志を捧げるその日まで、あなたを『保護』するのが私の使命です」
ルナの声から、感情が消えていく。
彼女は、俺が恋い焦がれた「救いの少女」ではなく、ゼクセリオンという神を動かすための「冷徹な歯車」だったのか。
「……嘘だろ。ルナ、君はさっき、俺の目を心配して……」
「部品が壊れては、再定義に支障が出ますから」
突き放すような言葉。
だが、俺の【左目】は、わずかに震える彼女の指先を捉えていた。
「……鑑定。リンク……アップ……」
俺は、激痛に耐えながら残された左目の力を振り絞った。
機体じゃない、人間であるはずのルナを――無理やり鑑定する。
《対象:ルナを鑑定……解析不能》
《深層ログの一部を抽出……「……死にたく、ない」「助け、て……」》
一瞬だけ、ノイズの隙間に見えた「彼女の真実」。
それは、使命というプログラムに塗りつぶされた、一人の少女の悲鳴だった。
「……わかったよ、ルナ。君の正体が何だっていい」
俺は、冷たい彼女の手を、逆に強く握り返した。
「俺をゼクセリオンの部品だっていうなら……俺はその『心臓』として、このクソみたいな運命ごと、ゼクセリオンを鑑定して書き換えてやる」
「アルト、様……?」
ルナの無機質な瞳に、初めて人間らしい「動揺」の火が灯る。
その時、地下室の扉が轟音とともに吹き飛んだ。
「見つけたぞ……! 聖女を奪った大罪人め!」
現れたのは、カインではない。
エクリプス軍の頂点に君臨する、真の脅威。
――皇帝直属『七星』の一人、虐殺の機将だった。




