第1話:『追放された鑑定士、ゴミ山の底で「答え」を拾う』
「アルト、貴様は本日をもってクビだ」
冷酷な声が、豪華な執務室に響く。
声を放ったのは、カイン・エクリプス。
この街を支配するエクリプス軍の若きエリートであり、俺の元・上司だ。
「……カイン様。俺の【ガラクタ鑑定】があれば、まだ軍の機体維持率は上げられます。俺がいなくなれば……」
「黙れ直せ。鑑定、鑑定と……そんなのはただの『目利き』だろうが。戦いには何の役にも立たん」
カインは窓の外を指さした。
そこには、俺が夜なべして修理し、調整し続けた最新鋭の黒いロボットたちが並んでいる。
「これらはすべて、私が『発見』した手柄になる。貴様のような日陰者が関わっていたなど、団の汚点なのだよ」
「…………」
「さあ、失せろ。二度とその薄汚い顔を私の前に見せるな」
兵士たちに突き飛ばされ、俺は雨の降るスラム街へと追い出された。
手に残ったのは、修理に使っていた古びたレンチ一本だけ。
「……見てろよ。俺の【鑑定】が、ただの目利きじゃないってことを……証明してやる」
俺は足を引きずり、街の最果てにある「禁忌のスクラップ山」へと向かった。
そこは、数千年前の古代戦争で破壊されたロボットたちが捨てられた、死の土地だ。
泥にまみれ、ガラクタの山を這いずる。
どれくらい時間が経っただろうか。
俺の右目が、突如として熱い痛みを放った。
固有スキル【ガラクタ鑑定】。
普段は『鉄:価値10』程度にしか反応しないはずの視界が、一瞬にして真っ赤に染まる。
《警告:神話級遺物の共鳴を確認》
《解析不能:対象の出力が既存の測定器を凌駕しています》
「な……なんだ、これ……!?」
俺は無我夢中で泥を掘り返した。
爪が剥がれ、血が滲む。それでも手を止められなかった。
やがて、その「答え」が姿を現す。
それは、一本の白銀の腕だった。
周囲の錆びた鉄屑とは一線を画す、汚れ一つない神々しい輝き。
泥を払うと、現れたのは筋肉のようにしなやかなフレーム構造を持つ、美しいロボットの素体だった。
その時だった。
「――見つけたぞ。ゴミ溜めを漁るネズミが」
背後から、不快な駆動音が響く。
振り返れば、エクリプス軍の追撃隊だ。
カインが、口封じのために差し向けたのだろう。
二足歩行の重機ロボが、巨大な鉄球を振り上げている。
「アルト。貴様が触れているその『白銀の腕』……団長が探していた重要遺物だ。大人しく渡せば、楽に死なせてやる」
「……断る」
俺は、震える手で白銀のフレームに触れた。
「俺を捨てた奴らに、この子は渡さない。……頼む、動いてくれ!」
その瞬間。
脳内に、世界を塗り替えるようなシステムボイスが炸裂した。
《適合者アルトを認証》
《アンサー・エンジン、再起動》
《これより、全パーツの再定義を開始します》
キィィィィィィィン!
俺の足元に転がっていた「ガラクタの山」が、まるで磁石に吸い寄せられるように、白銀のフレームへと集まっていく。
「なっ、何が起きている!? ガラクタが動いているだと!?」
兵士が怯む中、俺の視界には、無数の「文字」が浮かんでいた。
捨てられた鉄板が、最高級の装甲へ。
折れたパイプが、超伝導回路へ。
俺の【鑑定】が、ゴミを最強の「答え」へと書き換えていく。
――リンク、完了。
泥の中から、白銀の巨神が立ち上がった。
その名は――『ゼクセリオン』。
俺は、熱を帯びる操縦桿を握りしめた。
力が溢れてくる。
振り下ろされる敵の鉄球を、ゼクセリオンは左手一本で受け止めた。
衝撃波で雨雲が吹き飛ぶ。
「馬鹿な……鉄屑の寄せ集めが、我が軍の重機を止めた……!?」
「これは鉄屑じゃない」
俺は、静かに言い放った。
「君たちがゴミだと見捨てたものの中に、本当の輝きはあったんだ」
ゼクセリオンの右拳に、青白いエネルギーが収束していく。
一撃。
ただのパンチが、大気を切り裂き、敵のロボットを文字通り「粉砕」した。
爆炎の中、俺は呟いた。
「……これこそが、失われた光の答えだ」




