表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀世界の花の海で少女は散る  作者: 廃墟無


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

4 礼拝堂にて決着をー一章終幕ー

ーー翌日・教会ーー


 白い石造りの礼拝堂は、朝の光を静かに受けていた。


 長椅子の前。

 兄とブルシアは並んで跪いている。


「たまには、こうして神に祈るのも悪くない」


 兄は穏やかな声音でそう言った。

 それは、兄としての顔だった。


「……そうね」


 ブルシアは小さく頷く。


 教会の奥では、神官が祝詞を唱えている。

 低く、単調で、眠気を誘うような声。


「目を閉じなさい、ブルシア」


 兄の言葉に、彼女は少しだけ躊躇した。


 それでも。


「……ええ」


 ブルシアは、ゆっくりと目を閉じた。


 その瞬間だった。


 音が、消えた。


 祝詞も、空気も、時間さえも。

 すべてが、一瞬に呑み込まれる。


 ぬちゃり、と。

 喉を裂く、生々しい音。


 ブルシアの身体が、前のめりに崩れた。


「……?」


 


 ゆっくりと、兄は目を開く。


 そこにいたのは――


 喉を押さえ、血を溢れさせながら倒れる、ブルシアの姿だった。


「…どう…して……」


 言葉にならない声。


 震える指先が、兄の袖を掴む。


「…兄…様……」


 視線が、縋るように向けられる。


 答えを求めて。

 信じられない現実を、否定してほしくて。


 だが、兄は動かないただ、静かに彼女を見下ろしていた。


 ブルシアの瞳から、光が消える。


 血が、白い床に広がっていく。


 その時になって、ようやく――


 鐘が、鳴り始めた。


 祈りのためではない。

 ブルシアの死を告げるための音が、教会中に響き渡る。


礼拝堂の外。


 メリアは、石段の下で待っていた。


(……遅い)


 胸の奥に、嫌な感覚が走る。


 鐘は鳴っていない。

 だが――静かすぎる。


(何かが、おかしい)


 迷う時間はなかった。


 メリアは、扉へと手をかざす。


 ――その瞬間。


 空気が、圧縮された。


 音はない。

 気配もない。

 ただ、世界そのものが一段階、重くなる。


「……?」


 振り返るより早く、

 視界が、ある一点に奪われた。


 銀。


 長身で、細身。

 整ったやや細長い顔立ち。

 肩口から零れるような銀髪。

 そして、光を映さない――黄の眼。


 魔王の配下特有の異様な香りの男が、そこに立っていた。

 

それだけを理解した、次の瞬間――


 男――ゴルゴンの肩が、眩く光った。


(――光弾……!?)


 思考が、そこで止まる。


 構えはない。

 詠唱もない。

 魔術を発動する際の“動作”すら、存在しなかった。


 衝撃は、感じなかった。

 痛みも、熱も。


 ただ――


 身体の一部が、消失した。


 遅れて、音が来る。

 次いで、痛みと、焼けるような熱。


 光は、胴体の中心――一点を正確に撃ち抜いていた。


 メリアの身体は力を失い、前のめりに崩れ落ちる。


 視界が、傾く。


 自分の血が、

 赤ではなく、光に焼かれたような黒となって、石畳を濡らしていく。


(……ああ)


 理解した。


 これは剣でも、弓でもない。

 魔術ですらない。


 神の力に匹敵する――否、神業そのもの。


 銀髪の男は、倒れ伏すメリアを一瞥すらしなかった。


 壊れた道具を見るように、ただ通り過ぎていく。


 その背後で――


 礼拝堂の中から、

 かすかに、何かが崩れる音が聞こえた。


 メリアの視界はそこで途切れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー時間逆行・礼拝堂ーー


 白い石造りの礼拝堂に、朝の光が静かに差し込む。


 ブルシアと兄は、長椅子の前に跪き、静かに祈りを捧げている。


 メリアは少し離れた列の端に立ち、二人を見守る形でひざまずいた。

 目立たないように、だが視界はしっかりと二人に向けている。


(……今回こそ、守る)


 胸の奥が、緊張で張り裂けそうになる。

 前回、ブルシアを失った時の恐怖と絶望が、今も鮮明に蘇る。


 兄が「目を閉じなさい」と言う。ブルシアは少し躊躇した後、ゆっくりと目を閉じる。


 視界から二人の動きだけが、光と影としてメリアの視界に映る。


 前回、ゴルゴンの魔眼に貫かれた時は、痛みが全身に走り、血の熱ささえも感じたはず。

 だが今、ブルシアの隣で祈る二人を眺めている自分の身体は、痛みも熱も血の感触も――ない。


(……気持ち悪い……)


 ぞわりと鳥肌が立つ。

 身体が現実にあるのか幻なのか、判断できなくなる感覚に、逆に冷静さが増す。


 狂信者の影が礼拝堂の奥にちらつく。

 前回の恐怖を思い出しつつ、メリアは素早く距離を詰め、次の瞬間、狂信者の攻撃を阻止する。


 次々と数名を気絶させ、床に倒していく。


(人を殺せる魔術は使えても武術は使えない…か) 


 祈る二人には一切手を触れず、計算された最小限の動きで事態を制圧する。


 力のない兄は、戦闘に参加できない。

 メリアは、静かに兄の手首と足を縄で縛る。


「やっぱりブルシアを殺そうとしたな、今回はそうはさせないぞ、ヴァイマル・アルトルド」


「…知らないな、狂信者が勝手に魔術を発動しかけたんだろ?それを君が止めた。今起こったのはそれだけで私は何も関係ないんじゃ無いかな?」


「お前たちが裏で繋がっているのがバレるのは時間の問題だぞ。」

 

「…魔王軍幹部の対処が残っていたな…」


「何故…そこまで知っている」

 

 沈黙の間に、礼拝堂にはブルシアの小さな吐息だけが響く。


「メリア…」


 メリアは深呼吸をし、礼拝堂の奥の扉に目を向ける。

 次の瞬間、静かに一歩を踏み出した。


(ゴルゴンは……もうすぐここに来る)


 メリアの中で、緊張と覚悟が入り混じる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


メリアは石段の下に座り、前回と同じように静かに待った。

動かぬよう、音を立てぬよう――全神経を研ぎ澄ます。


息を殺し、時間の流れすら止めたかのように思考を巡らせる。

だが、違和感はすぐに訪れた。

肩の奥、空気が圧縮され、放たれる。


――光圧。


視界の端で、世界が一瞬、歪む。


反射的に身を翻す。

間に合った。光弾はすぐそばをかすめ、石段の下の影にぶつかり、轟音と共に砕け散った。


しかし、次の瞬間、身体に異変が起きる。

両脚が、腕が、全身が――固まる。

思考より先に、反射も、回避も、何もできなくなった。


(動けない!?)


「躱わすとは思わなかったよ」


その低く冷たい声が背後から響く。振り向く間もなく、肩口から放たれた光弾が、まるで意志を持つかのようにメリアの胴体を正確に撃ち抜く。


痛みも、熱も、抵抗も、何も――

その瞬間には存在しなかった。


視界の端に、石段が赤黒く染まるのがわずかにメリアの視界に映る。

次の瞬間、光弾が全身を絶え間なく襲い、意識が消えた。


――メリアは、再び死を迎えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー四回目の時間逆行・礼拝堂ーー


石段の下で、メリアはゆっくりと目を開いた。

暗く重い空気の中で、視界に飛び込んできたのは――礼拝堂の扉の向こう側。


(……いつに…戻った?…)


確認のため扉に手をかけ、静かに押し開く。


その瞬間、視界に飛び込んできたのは、礼拝堂内の光景だった。


柱に縛られた兄。

倒れ伏す狂信者たち。

そして、何故か眉をひそめ、柱に縛られた兄を見て問いかけるブルシア。


(……ブルシアはもう安全な筈だ…)


安堵の感情が胸を満たす。

だが、同時に、時間逆行による体の違和感が全身を駆け巡る。

痛みも、熱も、血も――全くない感覚に慣れなくて気持ち悪く、体がぐらりと傾く。


(……気持ち悪い……)


視界が揺れ、膝が砕けそうになったその瞬間――


音さえも置き去りにした光弾が何の前触れもなく、メリアの頭を撃ち抜いた。


痛みもなく意識が一瞬で闇に包まれ、全ての感覚が消える。


――四度目の死が訪れた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー五回目の時間逆行・礼拝堂前ーー


石段の下で目を開いたメリアは、周囲の空気の重さを確かめるように視線を巡らせた。

目の前には、土の柱が至る所に突き出している。無数の柱――まるで祭壇のように空間を支配していた。


(……来たか、…)


彼はゆっくりと歩みを進める。長身で銀髪、黄の眼が冷たく光る。視線がメリアの潜む方向を捉えた瞬間、土の柱の配置をじっと見つめる。


「コピー…複製能力か」


低く、確信めいた声。ゴルゴンは鑑定眼を使い、事前に仕込まれた複製の土の柱の出所を見抜いた。


メリアは咄嗟に反応する。礼拝堂の屋根に身を隠し、そこから弓矢を複製能力で作り出し放つ。

しかし――


矢はゴルゴンの視線の前で逸れ、空を切る。


「狙撃勝負では、私の方が一枚上手のようだ。」


ゴルゴンの口元に微かな笑みが浮かぶ。次の瞬間、肩口から光線が放たれ、屋根に潜んでいたメリアの頭部を正確に撃ち抜く。


痛みも熱も抵抗も――何も感じない。身体の感覚はすぐに消え、視界が暗転する。


――五度目の死が訪れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー六回目の時間逆行・礼拝堂前ーー


石段の下で目を開いたメリア。

視界に映るのは、無数に生えた土の柱――だが、その柱の間から、メリアが出せる限りの自分の複製が現れる。たった三体。魔力切れ寸前、時間逆行の反動で身体はふらつく。


(……来たか)


覚悟を決め、メリアは身を引き締める。

複製が走り出す。

ゴルゴンは一切止めず、走り出した複製を消し飛ばす。

空中に飛びかかる複製も、背後から刺そうとする複製も――光弾一発で粉砕される。


「……!」


矢を放つために屋根に身を潜めた本体のメリアも、ゴルゴンの黄眼は逃さなかった。

放たれた光弾が、闇を切り裂き、静かに、確実にメリアの頭部を撃ち抜く。


痛みも熱も、存在しない。感覚は消え、視界は闇に沈む。


――六度目の死が訪れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー時間逆行・礼拝堂前ーー


石段の下で、メリアは目を開いた。

時間逆行の反動も、魔力の消耗も――今は、何も感じない。


(……おそらくだが、魔眼はあと三つだけ……)


視界に広がる光景を前に、メリアは深く息を吐く。

恐怖はない。焦りもない。

あるのは、確信だけだった。


無数の土柱の裏から剣を投げる。


ゴルゴンの視線が動き、魔眼がそれを止めた。

――想定通り。


その一瞬。

メリアは魔力を完全に沈め、存在感ごと距離を詰める。


気配は、ない。

喉元まで、刃が届く――


その瞬間。


音もなく、視界が弾けた。


頭を撃ち抜かれたと理解するより先に、

痛みも、感覚も――存在しなかった。


意識が闇に沈み、時間が途切れる。


――227度目の死。


だが。


(今度こそ、殺す)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


無数の土柱の後ろから、メリアは剣を投げた。

ゴルゴンの黄眼が閃く。

――一時眼。剣は、瞬間に止められる。


(想定通り)


メリアは柱から柱へと身を翻す。

複製した土柱を、ゴルゴンの頭上に落とす。

だが――ぎりぎりで止められ、跳ね返される。


「……くっ」


しかし、その瞬間。

もう一本の剣を、メリアは迷わず投げる。

肩口に突き刺さる金属音――わずかに弾けた血の匂い。


その瞬間、メリアは一歩を踏み出した。

「魔術剣装、風撃――!」


刺さった剣の衝撃に合わせ、剣の魔力を解放する。

胸を貫いた剣が、ゴルゴンの心臓ごと吹き飛ばす。


静寂。

ゴルゴンは振り返り、低く冷たい声で発する


「見事」


ゴルゴンは膝をつき、倒れゆく。

黄眼はまだ光を帯びていたが、動きはもう止まった。



ー2ヶ月後ー


礼拝堂での戦いからしばらく経ち、街には穏やかな日常が戻っていた。

兄の悪略はブルシアの手によって世間に暴かれ、権力者の庇護もなく、牢獄に繋がれていた。


メリアは静かな日々を過ごしていた。小さな屋敷の書斎で、魔術書を整理したり、剣の手入れをしたり。戦いの記憶はまだ心に重くのしかかるが、平穏が続くことは、ほんの束の間の安らぎだった。


ある日の夕暮れ、借りている部屋の机の上に一通の封筒が置かれていた。

手紙に見えるが、封はしていない。

不意を突かれた気持ちで、メリアはそれを手に取る。


封筒を開くと、中から一枚の紙が現れる。


そこには、見慣れた文字で書かれていた。



「〇〇〇〇助けて」


紙の裏を見ると、とある場所と名前記されている

知っている街の名前ではない――、異国の地。


(……何だ、これ……)


メリアの胸の奥に、戦闘時とは違う、重く冷たい緊張が走った。


その紙には、誰も知るはずのない自分の本名が書かれていたのだから。

結構早く終わらせる予定なんでテンポが速いと思います。後テスト期間なんでちょっと休みます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ