12 眷属 三章開幕
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「はぁ……はぁ……ここ、どこだ……。」
意識を取り戻したメリアは、冷たい砂の上に倒れていた。ゆっくりと体を起こすと、目の前には見知らぬ海が広がっている。波が静かに岸へ打ち寄せ、潮の匂いを含んだ風が頬を撫でた。
ついさっきまでいた血と煙に包まれた戦場とはあまりにもかけ離れた光景だった。
「……寒いな」
小さく呟きながら腕をさする。
そのとき、自分がローブを持っていることに気づいた。
妹――ガーベラの形見だ。
それを羽織ると、布の奥からかすかな気配が伝わってくる。長く使われていたのだろう、感覚遮断の魔術の残り香がまだ残っていた。
胸の奥が、ほんの少しだけ痛む。
メリアは気を紛らわせるように、もう一方の手にある短剣を見る。これもガーベラが残したものだった。
悲しむのはいつでもできる。今やるべきは
「……とりあえず、魔術を……」
いつものように魔力を巡らせる。
神経に流し、術式を組もうとしたその瞬間。
「……?」
違和感が走る。もう一度魔力を巡らせ手に力を込めるが結果は同じだった。
「……魔術が……発動できない……?」
違う。
魔力はある。
流すこともできる。
だが、魔術を発動させるはずの神経が途中で途切れているように反応しない。
「いや……」
小さく息を吐き呟く。
「魔術を発動する神経が……機能を失っているのか……」
その声とは裏腹に腹の奥から盛大な音が鳴った。
ぐぅううう……
「……」
しばらく黙ったあと、メリアは空を見上げる。
「……食料がいるな。ついでに金も」
状況を整理しメリアはようやく重い腰を上げた。立ち上がるまでに少し時間がかかったが、それでも足を前へ出す。
まずは、人のいる場所を探さなければならない。
少し歩くと、遠くに街が見えてきた。
白い建物が段々に並び、陽の光を受けて海の上に浮かんでいるように見える。
「これは……ギリシャのサントリーニ島みたいだ…。」
建物はどれも白く塗られており、青い海との対比がやけに鮮やかだった。戦場の煙と血しか見ていなかった目には、少し眩しすぎるほどの景色だ。
よく見ると、街の地面そのものが水の上に浮いているように見える。
「……ここが、水上国家か」
小さく呟きメリアは街へ足を向けた。
人の姿も増えてきた通りを歩いていると、ふいに背後から声がかかる。
「なぁ兄ちゃん。王位決定戦、参加しねぇか?」
振り向かずとも分かった。
声は若い。いや、若すぎる。
ガーベラよりも幼いだろう。十二歳くらいか。
だが――
ほんのわずかだが、殺気が混じっていた。
「興味はあるな」
メリアがそう答えた瞬間だった。背後から風を切る音がした。
少女がナイフを突き出し、そのまま飛びかかってきた。
メリアは半歩だけ身体をずらし、紙一重でそれを避ける。そのまま流れるように背後へ回り込む。
「! どこだ!?」
少女が慌てて周囲を見回した瞬間、メリアはその手首を蹴り上げてナイフを弾き飛ばした。
金属音が響く。
続けて腕を掴み、そのまま地面へ押し倒して組み伏せる。
「痛い!痛いって!悪かったってば!」
少女が慌てて叫ぶ。
「……何のつもりだ」
低い声で問いかけると、少女は慌てて言葉を並べた。
「王位決定戦!その話だよ!説明するから腕離してくれ!」
メリアは少しだけ力を抜くが完全には離さない。
「変わってねぇって!まだ痛い!」
「そのまま話せ」
少女は涙目になりながら早口で言った。
「王位決定戦の参加資格を得るには、同じく参加したいやつを殺さなきゃいけないの!それだけ!」
「……そうか」
「痛い!!ちょっと力強くなってね!?まさか殺す気!?」
メリアは黙ったままだった。
その沈黙に少女の顔が青くなる。
「ま、待って!良い話がある!助けて!許して!」
「……」
舌打ちが小さく漏れる。
助けて、という言葉を聞いた瞬間、メリアの脳裏に一つの光景がよぎった。それはガーベラと初めて会った時のことだ。
「……それで?」
メリアは少しだけ腕の力を緩めた。
「良い話って何だ」
少女は安堵したように息を吐き、急いで続ける。
「参加資格持ち――ホルダーには懸賞金が掛けられるんだ。でもその懸賞金は、同じホルダーしか受け取れない」
そこまで言って、少女は振り返る。
「だからさ。兄ちゃんがホルダーになって、あたしがサポートする。二人で組めば効率いいだろ?」
メリアは少しだけ考え込む。
(こいつは一度俺を殺そうとした。信用はできない。だが、さっきの動きは素人じゃない。
腕は確かだ。効率は……かなり良いだろう。)
しばらく沈黙した後、メリアは口を開いた。
「……分かった。協力しよう」
少女の顔がぱっと明るくなる。
「本当か!?よっしゃ!」
「お前名前は」
「あたしはモチ!」
元気よく名乗る少女を見ながら、メリアは少しだけ観察する。
髪は汚く結ばれていて服はボロボロ。
名前までどこか犬みたいだった。
「俺はアルストロメリア。メリアでいい」
「よろしくな、メリア!」
モチは笑いながら言う。
「そうだメリア、腹減ってんだろ?奢ってやるよ!」
「……感謝する」
少女に奢られるという状況に、メリアは少しだけ情けなさを覚えた。
二人が歩き出したとき、メリアはふと考える。
(さっき背後に回った時、モチは“どこだ”と言った)
腕は確かなはずだ。
それなのに背後の気配に気づかなかった。
(となると、このローブか)
ガーベラの形見のローブは長年気配遮断の魔術に浸されていて魔道具に成っていてもおかしくはない。
(魔術は使えない……だが魔道具なら発動できるのか?)
考え込んでいると、モチが振り返って笑う。
「メリア、考えすぎも良くないぜ!」
しばらく歩いたあと、先頭を進んでいたモチが一軒のパン屋の前で足を止めた。
そのパン屋からは思わず足を止めてしまうほどの焼きたての香ばしい匂いが通りに広がっている。
「ここにしよう!」
モチはそう言うと迷いなく店に入っていった。
メリアは店先に並んだパンを眺めながら小さく考える。
(……そういえばここ十年くらい米を食っていない気がするが……)
だがすぐに首を振った。
(いやいや。奢られる身だ。贅沢は言えないな)
二人は適当にパンを選び席に座ると食事を始めた。
ほかの考えをしている間にもモチはすでに二つ目のパンを頬張っている。
メリアも一口食べながらモチの姿を見たて言いやる
「……髪を二つ結びにしているが戦うとき邪魔じゃないのか」
モチはパンを飲み込みながら自分の髪を指でつまむ。
「あぁこれか、切らない事情があるんだよ」
それ以上は何も言わなかったもちに対してメリアは追及するのをやめた。
(これ以上聞くのはやめておくか)
メリアはパンを皿に置き話題を変え
る。
「それで、参加資格を得て懸賞金を片っ端から集めたあとどうするつもりだ」
モチは一瞬だけきょとんとした顔をしたあと勢いよく立ち上がったり勢いよく叫ぶ。
「そりゃもちろん!メリアには王になってもらうぜ!!」
「なるかそんなもの」
メリアは即答したがモチはまったく引かない。
「なってもらうぜ!」
さっきより少し低い声だったが相変わらず騒がしいモチにため息が出る。
「……考えておくよ」
食事を終えたあと二人は街の広場へ向かった。
そこはかなり人通りの多い場所
で商人や旅人が行き交い子供が走り回っている。
それをメリアは見渡しながら呟く。
「……よりにもよって何でこんな人が多い場所で話し合いをするんだ」
モチはニヤリと笑う。
「まぁ見とけ」
そう言うと少し離れた場所に立っている男のところへ歩いていった。
身体つきは大きく腰には大きな斧を下げている男の前にモチは臆せず立つ。
「なぁ兄ちゃん、王位決定戦の参加資格が欲しいか?」
男の口元がゆっくり歪む。
「……欲しいな」
そう言いながら斧を持ち上げる。
「と言ったら嬢ちゃんは俺の参加資格のために死んでくれるのか?」




