第5話 剣を使う魔法使い
「落ち着いた?」
ぜぇはぁと、荒い呼吸を繰り返しているシーナを宥める。
なぜかわからないが、シーナは私を軽く睨んでいた。
私、当たり前のことしかしてないけどな?
はっ、もしかして、VITが0だから、それを補えるように剣じゃなくて盾を買わないといけなかったとか!?
確かに、それならシーナが私を睨んでくるのも頷ける......
「シーナ。確かに私は剣を買うべきじゃなかった......」
「そうだよ~、お金貯めて買いなおさなきゃ。」
分かってくれたか。と私を軽く睨んでいた鋭い眼光は緩やかなものに変わっていた。
にこにこと優し気に微笑みながらインベントリから飲み物を取り出し、口に含んでいた。
多分お茶かな?私も後で買おう。
所持金全然ないけど、お茶を買うくらいはできるし。
そうだ、ちゃんと反省していることを伝えなきゃ。
「そうだよね、今度はちゃんと盾を買うね。」
「ゴフッ」
うんうんと頷きながらそういうと、シーナが急にむせた。
こんな細かい動作もあるなんて、ほとんど現実みたい。
じゃなくて、シーナ大丈夫かな?
「ルナ?君は分かってないよ。何も。」
「そうなの?」
じゃあなんなんだろう......?
「魔法使いは剣とかを振りかざして戦わないでしょって話。魔法使いの武器は杖だよね?」
「私にとっては違うけど。」
使っても意味ないし。
「えぇ......?それなら誰が使うの?」
RPGには回復役として僧侶がいることが多いと思う。
けれど、このVRMMOにはその職業が存在していない。
魔法使いはいるのにね。
ただ、薬剤師とかいうポーションを作ったり、それに近いスキルを持っている役職があるので、僧侶の代わりになっている。
RPGで、杖が武器という職業は魔法使いと僧侶くらいなもの。
その僧侶がここにはいないわけで......
「誰も使わない......?」
流石におかしいか。
普通の人は使うこともあるだろうから誰もってわけじゃなさそうだけど。
でも!私は絶対必要ない!
確固たる意志を込めて、シーナを見つめると、シーナがプッと小さく噴き出した。
「あははっ、使わないならいいか、ルナの自由だしね。」
何が面白かったんだろう......
「さあ、チュートリアルをっと......これで最後だね。」
【最後のチュートリアル】
魔物を討伐しよう。
私はすでに倒してるけど、完了してないからもう一回倒す必要があるのかな。
「一狩り行きましょうか!」
▲▽▲▽▲
町を出て、草原につく。
「ここって友好的な魔物しかいないんだよね。」
「そう!はじめてに実践にもってこいってとこかな。」
シーナは既に弓に矢をつがえて狙いを定めている。
シーナの右目は前髪に隠れている。
私は見えにくそうだなと思うけれど、シーナによると、ちゃんと見えるらしい。
ゲームの使用ってやつだよね。きっと。
まぁ、現実でも片目隠れてるけど......
「よいしょっ」
放った矢は食事をしていたウサギ(?)のおなかに当たる。
シーナのDEXが高かったからか、一発で倒せていた。
「シーナって初めてだよね?すごい!」
手放しで褒めると、シーナは少しだけ顔を赤く染めた。
私もいいとこ見せなきゃな。
ウサギちゃんごめんね。
ここは心を鬼にして。
「私もやるね。「水槍」」
頭を狙いながら打つと狙い通りウサギ......みたいななにかだけれども。
私の放った水の槍が脳を貫通し、少しの赤いエフェクトが舞った。
......猪の時より威力上がってる?
注意しなければ気づかないくらい、ほんの少しだったけれど、私の魔法の威力は確かに上がっていた。
一つ悲しかったのはシーナはステータスを熱心に見ていて、私がウサギちゃんを倒したのを見ていなかったこと......
「しーなはレベルアップしたみたい。LV2。」
レベルアップすればするほど上がりにくくなるのはゲームの基本だよね。
「剣も使ってみようかな?」
「いいと思う。職業の補正がないからルナが頑張るしかない。」
魔女に関わることだからシーナに言ってないことだけど、自分の身を守れるようにってお母さんに言われて滅茶苦茶しごかれたんだよね。
インベントリから剣を取り出す。
この工程めんどくさいし、隙も大きいから腰のあたりにでも装備しておこう。
自分のステータスから装備設定に行き、軽くいじる。
現実とは違って、何もなくても剣の鞘が腰にぴったりとくっつき、外れないようになった。
「おお、騎士っぽい。魔法使いだけど。」
手に持った剣を軽く振り回してみる。
STRがあるからかな?全然重くないや。
ウサギ(?)に向かって軽く切る。
遠くからだと聞こえなかった「きゅぃぃ」という声を残して消えた。
わ、私は今までなんてことを......
「シーナ。ウサギさん狩りはやめよう。」
「この子たち可愛いからね。うん。」
インベントリに入っていたウサギ肉や、毛皮をそっと確認し、街に帰った。
▲▽▲▽▲
「チュートリアル終わったし、自由にしていいんじゃない?」
チュートリアルの途中でも自由度高かったけどね。
「冒険者ギルドの依頼受けてみたいなって。あとは新スキルが欲しいかも。」
第六感とかいうよくわかんないスキルしかないし。今のところ使ってないし。
「しーなは他の仕事があるから今日は終わりにする。遊んでていいよ。またね。」
ログアウトをするとき特有の、光に包まれてシーナが消える。
そっか、プロゲーマーだもんね。お仕事あるよね。
私だけ強くなるのもあれだし......今更だけどそうじゃなくて。
今日は町の探索にしようかな。
明日も休みだからそのときにシーナと遊べるといいな。
「まずは「スキルの書」とやらを見に行きますかね!」
私はマップを開いて、意気揚々と歩き出した。
▲▽▲▽▲
「瑠奈がこれをやってるなんて......」
ゲームをログアウトし、カプセルから出た椎名は届いたメールを確認しつつ独り言を漏らした。
返信をすると、少しして着信音がスマホからなった。
「はい、梨井です。」
「梨井さん、どうでした?今話題のVRMMO。」
「楽しかったですよ。私の友達が既に遊んでて。といってもまだチュートリアルでしたけど。」
「いいですね!友達と動画をとるんですか?梨井さんはコラボしたことないですし初めてはやはり知り合いと?」
「私が配信者のこと、知らないんですよね。プロゲーマーだって話してて。嘘はついてませんが。」
「えぇ!?VRMMOの配信できないんですか?絶対面白いのに。」
「明日、話そうかなとは思っているので、許可が下りたら一緒に配信でもしようかなと。」
「ありがとうございます。その友達の方の職業は?」
「魔法使いだったかな。」
「へっ!?あ、いや......それはそれで面白いか。梨井さんに頑張ってもらって......」
どういうことだろう?
でも確かに魔法は面白そうだよね。
椎名は完全所見プレイを楽しみたかったから一般的な評価が分からないんだけど。
「とりあえず、進歩があれば教えてください。」
「はい。それじゃあ失礼します。」
プツリ。
通話が切れたのを確認してから、椎名は大きくため息をつく。
「瑠奈から許可下りるかなぁ。」と。




