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第15話 誰かがアンラッキーモンスター

誉め言葉として受け取っておこう......


どういう意味かいまいちわからなかったけど、ハルトさんが何かを悟っているのか、虚無になっていて詳しく聞ける雰囲気ではなかった。


私は空気を読める女です。


「命中率凄いなぁ......」


シーナの打った矢はどこかしらには当たっている。

剣や魔法に比べると威力が落ちるらしく、五発で一匹倒せるかどうか。という感じだった。

感じだったんだけど......


指に三本ほど矢を持ち、一気に放っているので実際は二発で倒していた。

もはや人間技じゃないでしょ。


私が言えることではないか......人間、人類ではあるけど.....魔女だし。


ハルトさんもなんとも言えない表情をしている。

虚無ってる。


虚無ってる......いいじゃん。流行語大賞なれるよ。


「毒持ちがいないですよね。珍しいなぁ」


ハルトさんがそういった気持ちが凄くよーく分かる。


さっきから熊しか出てきていない。

正直飽きる。

蛇は鳥っぽい味っていうじゃん!

毒持ちが食べられるのかは別だけど、毒抜きができる可能性もあるし。


蛇よ、Hey come!


~一時間経過~


ふぅ


溜息をつく。


私とシーナは戦闘をする役目を交換しつつ、かれこれ一時間。


おい!遭遇率狂ってやがる!


コメント欄もざわついてきて......ないな。

むしろ面白がってるわ。


コメント


知ってるか?熊と蛇の確率って半々なんだぞ。


何体熊出てきたっけ?

少なくても二桁は......うん。


見てよ、コラボ相手の顔。ハヤトさんだっけ?

驚いてすらないわ。


違うぞ、悟りを開いているだけだ。


―――――――――――――


どういう顔をしていたのか気になってハルトさんの方を見る。

今はシーナが相手をしているので暇だったし。


ひゅっ


思わず息をのむ。


ハルトさんはあのー、あれ。

ハイライトをその瞳に宿してなかった。


完全なる無。

決して、濁ってはいないはずなのに、なぜかその瞳は死んだ魚を連想させた。

軽い恐怖すら感じる。恐るべし。


「大丈夫ですか?」


声をかけてみるものの、軽く体を震わせるだけでうつろな目のままだった。


「返事がない。

まるで屍のようだ......」


ふいにそんな言葉が口から出ると、先程の様子からは考えられないくらい迅速に、そして過激に反応しだした。


「違いますよ!?俺は絶対、屍じゃない、アンデットにはならない!」


「あ、はい.....」


思ったことはただ一つ。

圧がすごいなぁ。


▲▽▲▽▲


結局、蛇が出てきたのは攻略をはじめて二時間が経過したあたりだった。


本当にもう......確率がおかしいですよね。



コメント


やっときた!


よっしゃぁ!!


やっと、やっと......


......



あれ?今回の企画って蛇を倒すまで終われませんか何かだっけ?


―――――――――――――


パカリ


数メートルはある蛇が口を開いたかと思えば、二つに割れている細い舌をチロリと出して.....

液体を勢いのあるシャワーみたいに吐き出した。


範囲はかなり広く、私とシーナは浴びてしまった。


ダメージを食らうのは百歩譲っていいとする。

でも、それが蛇の唾液なのは......許せるわけがないよねぇ?


匂いが地味にきついのも、ものすごーく嫌なポイントだ。

ここがゲームの世界だからか、服が濡れることや、匂いが移ることはなかったけれど、感触はあったし。


その身をもって償ってもらおうか!


「水s......」


魔法を放とうとした瞬間、私を貫きかねない威力と速度で矢が迫ってきていた。

ので、詠唱を言うのはやめて横っ飛びで回避する。


ヒヤリとした汗が微かに滲む。


ちなみに蛇はシーナの怒りを買ったため過剰に矢を浴びせられ、どう考えても熊に放ったものより十倍近くあった矢の雨により散った。


「シーナさん?ルナさんのこともやるつもりだったんじゃ......」


「しーな、わかんない。」


にこりと、笑みを深める。

片目が隠れているから中二......ごほんっ、オーラが何とは言わないけどでてますね。


「私だから撃ったんだよね?」


ハルトさんが「これが友情か....」と言いながら目を輝かせていた。


私だったら一緒に殺しても怒られないで済む。とか考えていたんじゃないかなってことなんだけど。


「こほん、ボス部屋ですね。」


大きな扉の前に着く。

異変もなく、罠が仕掛けられてるとかはなさそう。


ボス部屋に着くまでに一度しか蛇に遭遇しなかったのはおかしいと思うけど。

そういうことではないんだよなぁ。

誰か、このなかにアンラッキーモンスターがいるでしょ。

人間だからヒューマンか?


「ウィッチ......魔法でも使うのかな。」


たいそうな音を立てながらゆっくりと開いていった扉。


やけに広い部屋だった。


中に一人。一人?

ぽつんとたたずんでいたのは、微笑を浮かべて、怪しげな蔦をまとった、女性だった。

違う。貫かれていた女性だった。


いや、どう見ても人間ではなかった。


―――アンデッド?


死してなお動き続けるもの。


操り人形のような、変な動きをしていた。


「......あれ?なんで?配信が切れてる。」


ハプニングもあるか。しょうがない。

今日はとことん運がついていないっぽいね。


安全な場所でしか配信は開始できないらしい。


そんな話をどこかで聞いたので、小さくため息をつく。


扉が開き切ってるのにも関わらず、ウィッチの反応がない。


「ハルトさん。これは、部屋に入ったら開始ですか?」


「.........ルナ」


返ってきたのは予想に反してシーナの声だった。

酷くこわばっている。


「どうかしたの?」


いつウィッチが動き出すか分からないから、視線は動かさずに。


「ハルトさんがいなくなってる。」


そっか。ログアウトでもしたのかな?

お手洗いに行ったとか。


流石に一声かけるか......


「その前にさ。」


一度、シーナはそこで呼吸を挟んだ。

不安な間。


「私たちが、さっきまでいた場所じゃない。」


思わず後ろを見れば、ごつごつした、洞窟の壁ではなく。

廃れた洋館。


「多分仕様じゃない......」


自信がなさげに喋っていくルナの声を聞いて、困惑してくる。


レアモンスター?

そうだとしても、ハルトさんがいない説明がつかない。


シークレットクエストか?

秘密なんだから、受注した私たち以外に見れないのは当然かもしれない。


「じゃあ、こいつは何?」


「分からないから、それを理解するためにも戦うしかないね。」

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