プロローグ
森の中で、ちいさなトカゲが逃げていた。
空から降ってきたのは、大きな影と鋭いクチバシ。そう、鳥だ。
飛ぶこともできず、隠れる場所も見つからず、ただただ震えていたそのとき
「……ズンッ」
土をふむ重たい足音。
現れたのは、グレーの大きな猫のような生き物。
鋭い目と大きな体に、鳥は驚いて逃げていった。
……助かった。
トカゲくんはそう思った。でも同時に、目の前にいる猫のような生き物も、怖かった。
だが、その生き物はただ、じっと立っているだけだった。お腹が鳴る音が聞こえた。
トカゲくんは気づいた。
このネコ、お腹が空いているんだ。
でも、自分にはあげられるものなんてない。……そう、体の一部をのぞいては。
トカゲくんは、自分の尻尾をポロリと切り落とした。
生き延びた命の、ほんの少しのおすそわけ。
ネコは戸惑った。けれど、それを静かに受け取り、ゆっくりと食べた。
言葉はなかったけれど、その場に、雨の音と、安心の息だけが残った。
それが二匹のはじまりだった。
それからというもの、トカゲくんはネコの頭の上に住むようになった。
一緒にごはんを食べ、一緒に眠り、雨の日には葉っぱを傘にして寄り添いながら歩く。
大きな背中と、小さな命。
二匹は今日も、森のどこかで静かに生きている。