紙飛行機は舞い上がる
第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞投稿作品
下記指定キーワードを全部使用して書いてみた。
カレンダー/ルームメイト/卒業/紙飛行機/ベランダ/散歩
/プール/トレーニング/観覧車/お弁当/寝言
年齢を重ねると共に贅肉が増えてゆく。それは単に普段の不摂生が故の結果。鏡で見る度に醜くなるそんな自分に嫌気が指した私は徐ろにベランダへ出ると、すぐさまスクワットやプランクを始めた。
顔を歪めながらも続ける筋肉トレーニング。その辛さに思わず天を仰ぐ。すると見上げたその空の中の何かに目がいった。ゆらゆらと揺れる何か。目を凝らしてよく見れば、それは紙飛行機。風に乗るそれはゆらゆらと揺れながら何処かへと消え去った。すると不意にしてとある日の出来事が脳裏を過った。
『プールの水を飲み干さないと溺れる!』
それは大学時代のルームメイトが発した寝言。部屋に貼られていたカレンダーには「卒業」と書かれた日があった。そんなデリケートな時期が故か、ルームメイトは眉間に皺寄せながらそんな寝言を夜な夜な口にしていた。そんなルームメイトが心配になった私は手作りのお弁当を手に、ルームメイトを散歩へと連れ出した。
家からも近い丘の上へとやってきた私達は遠くに見える遊園地の観覧車を見つめながら弁当を食べ始めた。すると観覧車から何かが宙へと舞った。目を凝らして見ればそれは紙飛行機。その行為の善悪は兎も角として、それは風に乗り高く舞い上がると突如として落下し、子供達が遊ぶプールへと落ちた。
「あれが俺の人生かもな」
「は? 風に乗っていたら突然海にでも落ちて溺れ死ぬって事?」
風に乗り舞い上がったかと思うと突然落ちた紙飛行機。それを人生に例えたルームメイト。内定は取れていたものの未来への不安が尽きないようだ。
「誰かが起こした風に乗るのは悪い事じゃない。ある意味賢くて楽な方法だ。転落人生なんてのも珍しくもないだろ?」
「……」
「転落したとしてもそこからまた羽ばたけば良いだけだろ? それに自ら風を起こし舞い上がる事だって出来るだろ?」
そんな私の言葉にルームメイトは軽い笑みでもって応えた。それから数十年の時が経った今、贅肉を着込んだ私は誰かが起こした風の中で足掻きながら舞っている。そして風の噂によればルームメイトは自らでもって風を起こし、それは時に墜落しそうになりながらも自由に舞っているという。
大学時代、未来を悲観していたルームメイトは自ら起こした風に乗り、反対に「自ら風を起こせるだろ」と励ましていた私は誰かが起こした風の中で足掻いている。最早飛び立つ事も出来ない程の不摂生の塊である私にとって、それは何と皮肉な現実であろうか。
2024年12月25日 初版