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×度目の夏

作者: 出雲鳥丸

 高校2年の夏。

 俺は好きだった幼馴染みに告白をして、そして、失恋した。

 今俺は真夏の青空の下、遠くで聞こえる野球部の掛け声を頭の隅で聞きながら、部員一人の写真部部室の窓から顔を出して生温い風に当たっていた。

「生温い風に溶けて何処までも飛ばされたい…」

「君は空気になる様な子じゃないよ!」

「うわあ!」

 突然後ろから声が聞こえて振り返るとそこには、椅子に座りながら俺が撮った写真を見ている人がいた。

「君の写真は、背景写真が多いのにこの何枚かある可愛い女の子は誰?」

「勝手に見るな!てか君の方が誰?」

なんだこいつ?男か女かもわからない。

なぜなら、上は女子生徒の服で下は男子生徒のものを履いていたのだ。

それに声も髪型も中性的だった。

「今は秘密!そのうちわかると思うよ。」

なんなんだそれ⋯

 よく見たら青の上靴じゃん。てことは3年か。

顔が中性的なのもあって1年かと思った。

「先輩だったんですね。年下かと思ってました」

「童顔なのコンプレックスなんだけど!」

俺はすみませんと謝ったが先輩は頬を膨らませて怒っていた。

そういえば、と先輩は言い

「この写真の女の子は誰なんだい?」

「ただの幼馴染みですよ⋯。」

 先輩は椅子から立ち上がり俺の顔を覗き込み、

「ただの、ね~⋯」

 先輩はニヤニヤしていた。

「この子の事、好きなんでしょ?」

は!?何でバレたんだ⋯

「なんでって思ったでしょ。だって、顔に出まくりだからわかったのだよ」

先輩はドヤ顔をしてきた

 出してるつもりなかったんだけどな⋯。やっぱり失恋したばかりだからかな⋯。

 俺が大きなため息をついていると、

「その様子だとフラれたのか」

 少しの沈黙が流れた。

「告白しただけでも偉いよ!」

俺は俯いた顔を上げると先輩は泣いていた。

あたふたしていた俺を見て先輩はクスッと笑って

「実は、告白せずにフラれちゃっててさ、思い出したら泣けてきちゃって⋯」

そうだったのか⋯。

先輩にもそんな人がいたのか。

 

「またね~、時元尊くん!」

「なんで俺の名前知って⋯」

「だって、部員表の所にかいてあるから。もしかして読み方違った?」

「あってますけど、俺だけ名前知られてるの不公平じゃないですか?」

「気にしなーい、気にしなーい!またね!」

先輩は俺の背中を押して部室を追い出した。

正体不明すぎるでしょ⋯。

 

「やっほ~」

またいる⋯。

 今日も先輩は部室に来ていた。まあ、俺だって毎日部活に来なくてもいいのに、いつも帰るときに先輩が『またね』って言うから来てしまう。

「今日は先輩の写真撮っていいですか?」

「いいね、いっぱい撮ってよ!」

最近は人も撮るようになった。

「どこを背景に撮りますか?」

「ここがいいな」

 その瞬間先輩は窓から見える山を儚くどこか寂しそうに眺めていた。

——パシャ

 俺は自然とシャッターを切っていた。

 今にも先輩が消えてしまいそうなほど、儚く、寂しそうだったから。

「なに勝手に撮ってるの?まだキメてなかったのに」

「すみません。勝手に手が動いて⋯」

俺は先輩に見とれていた。するとピピと音がしたと思ったらカメラの電池が切れていた。

「電池切れちゃったので予備のカメラ取りに行ってきますね。」

 部室には気まずい空気が流れ、俺はそれに耐えることができなくて逃げた。

「失礼します。高橋先生いらっしゃいますか?」

 一応顧問の先生を呼び一緒に予備のカメラを取りに行った。

「時元くんは楽しいかい?部員一人で」

先生は申し訳なさそうに聞いてきた。

「楽しいですよ。最近名前は知らないんですけど先輩が部室にきていて⋯」

先生はホッとしたかのように微笑み

「どの子でしょう?私は3年生の担任ですからわかるかもしれません。特徴は?」

 そうか、先生に聞けばすぐにわかったことじゃないか。

 俺は先輩の特徴を言うと先生は少し驚きすぐに理解したかのように笑ってこう言った。

「よく知っていますよ。その子は元写真部でこれはその子の親友が撮った写真です。もうすぐで8年になりますか⋯。」

先生は古い写真を見せてくれた。確かにそこには先輩が映っていた。

 先輩もカメラを持ち、お互いに撮り合っているようだった。

 俺は見た瞬間理解したくもなかったが、理解せざるをえなかった。

 ''先輩は亡くなっている。"

 考えた時には体が動いていた。

「おお、戻ってきたー」

「先輩、元写真部だったんですね。」

「あ、バレた?高橋先生だな」

先輩はヘラヘラと笑っていた。

こんなに焦っている俺が馬鹿みたいだ。知ってしまったらもう先輩と居れないかもしれないと思ってもこの気持ちは言わずにはいれなかった。

「瀬野碧先輩、ですよね」

「あ、名前。騙してごめんな」

俺は瀬野先輩に写真を見せた。

 すると瀬野先輩は泣きそうな顔して笑っていた。

「この写真の瀬野先輩めっちゃ恋してるって顔じゃないですか。バレてたんじゃないですか?」

「実はそれ撮ってる奴が告白成功してそれを俺に最初に伝えたいって⋯」

瀬野先輩は抑えていたものをポロポロと零した。

不覚にも俺はその姿が儚く綺麗だと思った。

「それで自殺したんですか?」

「いや、しようとして屋上にいたけど、やっぱり怖くて戻ろうとしたら滑って落ちちゃったんだよ」

先輩はいつも通りの笑い話にしていた。

 相変わらず掴めない人だ。


 昨日の先輩はいつもの『またね』ではなく、『じゃあね』だった。

「やっぱりか。」

先輩は部室にいなかった。

まだ先輩に聞きたいことが沢山あるのに。

 先輩はここで何度夏を繰り返したのだろうか。


 未練タラタラすぎますよ先輩…。

 俺はなんで泣いているんだろう。もう二度と味わいたくない感覚だったのに。でも、前よりも辛くて認めたくなくて、思わせぶりに勘違いして。

「また、振られちゃったな。」 

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