屋上、再びな男
フィクションです
朝。
一階、共同トイレにて。
「・・・」
座っている美奈。
扉を開けたままボーっとしている俺。
まぁ、座っているので、下半身は見えているが、大事なところは手で隠されている。
「・・・この馬鹿ぁ!早く閉めて!」
「あ、ああ、そうだよね」
俺は急ぎドアを閉める。
「・・・なんで、居るのよ」
「えっ?」
まだ、トイレにいる俺。
「出てけ!」
「すいません」
急ぎ、出た。
ジャーっと流れる音が聞こえ、赤面した少女が出てくる。
「・・・」
ものすごく、睨まれたので、顔を逸らす。
「言っておくことがあると思うんだけど」
「すいませんでした」
頭を下げた。
「はぁ、鍵を閉め忘れた私も悪いから、まぁいいわ。良くないけど」
「うん、見えてないから安心して」
「うっさい!」
頬を抉るように殴られました。
教室に入ると、顔を腫らした少年たちに見られたが気にしない。
絶対、鞭の痕だけど、涙目だけど、俺には関係ないはず。
鞄を置いて、屋上に向かった。
寝転がり、空を眺める。
曇り空であった。
「はぁ、なんか退屈だなぁ」
良い事ではあるのだが、しっくりとこない。もやもやっとしているのだ。
「そうなの?だったら、私と遊ぶといい」
突然と現われるドレス少女。ユークであった。
「遊ぶ?何で?」
「お医者さんごっこでも何でも」
ずいぶんとマニアックな遊びを提案された。
「却下だね。面白くなさそう」
「そう?私の体を眺めてハァハァって息を荒くしそうだけど」
「そんな変態じゃないから」
平然と言う彼女。俺は訂正しておいた。
「でも、朝にトイレに入って女性の下半身を眺めて興奮してた」
「見てたのかよ!」
「たまたま、通った」
「別に興奮はしてないよ」
うん、脳裏に焼きついているけど、興奮はしていない。
「そう言いながら、深夜に一人シコシコする夜季であった」
「変な締めかた止めて!しないから」
目を見開かせ
「まさか、そっちの気が?」
「ないから。女の子にしか興味ないから」
「だったら、私とお医者さんごっこすれば、興奮する?」
「そうですね。します」
もう、諦めた。
「うん、満足」
本当に満足そうであった。
「ねぇ、何でここに来るの?」
「ここは、あなたの所有物ではないはず」
「そうだけど、俺がいるときに来るじゃん」
「それは勘違い。あなたがいなくても、ここに来てる」
「ふ~ん、そうなんだ」
「ん?私に興味があると見た」
「まぁ、ないわけじゃない」
「曖昧な表現」
「聞きたいほど、興味があるわけじゃないからね」
「そう。だったら、話さない」
彼女は口を閉ざした。本当に話さないらしい。
まぁ、いいけど。
目を閉じる。
思考を止めて、眠気に身を委ねる。
「・・・おやすみ」
そんな声が聞こえた気がした。
「ねぇ、夜季?あなたは魔法使いになりたい?」
目の前に視線を合わせてしゃがむ女性。
穏やかな顔をした、自分の母である。
「なりたくない」
「どうして?」
「だって、面倒だもん。二人見てたら忙しそうだし」
両親は二人とも、国家魔法使い。毎日、仕事で遊べるのはごくたまにであった。
「ふふ、そうね。でも、やりがいのある仕事よ。私たちが頑張れば笑顔になれる人が多くなるんだから」
「やだ!自分が笑顔になれないもん」
「あなたはそういう子だもんね。でも、いつか分かるわ。他人のために頑張ることの素晴らしさに」
「分かりたくない」
「あら、残念」
母は時計を見る。
「もう、こんな時間。一人で帰れるわね夜季。お母さんは仕事だから」
「うん。しっかりしてるから大丈夫」
少しだけ、悲しそうな顔をする母。
「そうね。夜季はしっかりしてる。それじゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
母は空に飛んでいった。
公園に一人残される自分。
「帰って寝よ」
それしかやることはなかった。
「・・・夢か」
目が覚めた。
懐かしい夢である。
子供の頃、幼稚園くらいであろう。
一人でいる時間が多かった。優秀な魔法使いだった両親。
そのため、仕事の量も多い。
休みもなく、働き続けていた。
だが、ある日。帰ってこなかった。
小学校三年のときだったと思う。
両親の変わりに、スーツの男が現われ、行方不明と言われた。
仕事の内容は国家機密で明かされず、両親の行方も分からない。
俺は孤児院に引き取られた。
身内には嫌われていたのだ。魔法使いは、一般人には嫌われている。
そのときは、魔法は使えなかったが、両親が魔法使い。だから、俺も使えると思っていたのであろう。
「はぁ、憂鬱」
「何が憂鬱よ」
近くで声がした。見ると、俺の横で座り、弁当を食べている奈美。
「あれ、居たんだ」
「まぁね」
周りを見渡すが、彼女しかいない。
「俺、寝言言ってなかった?」
「例えば?」
「奈美の今日の下着は白だなって」
「変態!」
殴られた。朝のトイレで確認したのだ。
「はぁ、痛い」
「自業自得よ」
ふんとそっぽを向く彼女。
「ていうか、昼休みなのか」
「ええ、よく寝てたわね」
「そっか、寝よ」
「まだ、寝るの?」
「だって、やることないし」
「あるわよ。学生なんだから」
「俺はいいの。不真面目な学生だし」
「はぁ、相変わらずね」
彼女は弁当を食べるのを再開する。
「魔法使いで良かったか?」
「どういう意味?」
「魔法使いの才能があって、不満じゃないのかってこと」
才能がなければ、普通の人生が送れていたであろう。
「ああ、私は良かったわ。家を出れたし」
「仲が悪いのか?」
「まぁね。意味もなく、よく殴られてた。家を出れて嬉しかったわ」
彼女も色々とあったらしい。
「でも、落ちこぼれってのは嫌だけど」
「まぁいいじゃん。俺のほうが落ちこぼれだし」
「あんたよりマシってのもね。真面目にやってないじゃない」
「あれが実力だよ」
「嘘くさっ」
信じてもらえなかった。
「そう言えば、額の怪我は治ったの?」
「あぁ、痕も残ってない」
すでに、包帯は外してある。
「やっぱ、凄いのね。赤月先生」
「自分で言ってたじゃん。凄い先生って」
「見たことがなければ、本当に凄いかなんて分からないじゃない」
「そうだけどさぁ」
ふぁっと欠伸がでる。
「あんたも、ある意味ですごいけどね」
「そりゃあ、どうも」
だんだんと眠たくなってきた。
「どんだけ寝れば気が済むのよ!」
「一生」
「植物人間にでもなってろ!」
それはいい。けど、寝る楽しみが味わえない。起きているからこそ、寝るのが楽しいからだ。
「ここに居やがったか」
ドアが開く音と、声が聞こえた。
「あんた、佐々木」
男の名前らしい。
どこかで、見覚えがある。特に鞭の痕が。
「何しにきたのよ」
「天上、お前には用はねぇよ。そこで寝転がっている奴に用があんだよ」
「もしかして、夜季に怪我を負わせたの、あんたなの?」
「ああ、そうだけど。そのせいで、こっちも怪我させられたけどな」
見せびらかすように、赤くなっている腕を見せてくる。
「それは自業自得じゃない」
「うっせぇ!てめぇは関係ないんだから、すっこんでろ!」
「なっ!」
切れそうな奈美を起き上がり俺は手で制す。
「話があるんだったら、俺がするし。こいつは関係ないんだし、下がらせてもいい?」
「ああ」
「ちょっと」
彼女の言葉を遮り、
「まぁ、危なくなったら逃げるから」
「・・・本当ね?」
頷く。
奈美は渋々、屋上から去る。
「ふん、カッコつけやがって」
「う~ん、そんなつもりはないんだけど」
頭をポリポリと掻く。
「マジ、お前見てるとイラつくんだよ」
「それはゴメン。気にしないほうがいいんじゃない?」
「そういう態度とか、マジでムカツク。俺にやられたの覚えてないのか?」
「ああ、あれは痛かったね」
額を摩る。
「お前が余裕そうにしている理由は分かってんだよ。教師が駆けつけてくると思ってんだろ?」
「まぁ、そうかも」
「でもな、今重大な会議をしてるらしいぜ。駆けつけてくるかな?」
「どうでもいいよ。で、話って何?」
「お前を叩きのめしてやる。学校に来れなくなるぐらいにな」
両手を構える。
マナが手のひらに集まっていき、球体が出来上がる。
「はぁ、めんどい」
俺も片手でグニョグニョした物体を作る。
「はっ、それじゃあ天上のは防げても俺のは防げねぇよ」
「かもねぇ」
同時に放つ。
やはり、貫通してきた。
顔面に当たるが、それほどのダメージはない。
「なっ、練りが甘かったか、もう一度だ」
再び集中し、球体が作られる。先ほどより一回り大きい。
俺も作る。
「今度ので、終わりだな」
勝ち誇った笑みを浮かべ、放たれた。
今度も同じように突き破られ、俺に当たる。
「なっ、何でだよ」
彼は驚いていた。俺が平然としているからである。
「あれ?手加減してくれてんの?ありがとうねぇ」
「くっ、マジで意味わかんねぇ」
悔しそうに、唇を噛む。
「私が教えてあげる」
声が聞こえた。音の方向を見るとユークがいる。
「誰だ、てめぇ!」
「悪党に名乗るほど、安くない名前」
馬鹿にしていた。
「くっ、死ね!」
マナの弾丸が彼女に向かっていくが、
「この程度?勉強不足」
同程度の弾丸をぶつけ相殺させる。
「くっ、ありえねぇ、ガキにやられるなんて」
「ん、馬鹿にされた」
彼女が集中する。手のひらの先に大量のマナが集中する。
「んげ」
慌てて、俺は彼女を止める。
「止めろよ。怪我じゃすまないから」
手をはたくと、集中していたマナが霧散する。
「ん、何で止める?」
「だってさ、怪我されたら、後味悪いし」
「やられたら、やり返すのが普通」
「俺は普通じゃないんで」
渋々、下がる彼女。弾丸の威力が下げられていたのは、彼女のおかげだろう。どうやったのかは知らないけど。
「はっ、いいのかよ?あいつがいないと負けちまうぞ」
何時から、勝ち負けになったのであろうか。
「いや、不戦敗らしいね」
「そうだな」
登場する赤月先生。
佐々木の表情が固まる。
「どうやら、あの程度では反省しないようだな。可哀相だが、小暮先生に任せることにしよう」
先生が、彼に手を向ける。すると、シュッと手と足が半透明の手錠で縛られる。動きが制限され、芋虫のように地面を這いずる。
「や、やだ。小暮はやだっぁあああああああああああああ」
ちなみに、小暮先生とはマッチョな中年男性。
少し、というか、かなり気持ち悪い。だって、オカマだもん。
悲痛な叫びを放ちながら、連行された彼に俺は敬礼。
「頑張れ」
彼が正常な道を歩めるか不安であった。
特別授業を機に、別の性に目覚めなけば良いが・・・。
ふと、辺りを見渡す。
屋上には俺しかいなかった。
「ありゃ、お礼言いたかったのに」
ユークはいなくなっていた。