授業は退屈だけど、
「はぁ、今日もいい天気」
屋上でのほほんとしていた。
このまま、寝てしまえそうな天気である。
「あんたは、いつもここにいるわね」
ツンツンした声が聞こえた。
水色のブレザー、黒チェックのスカート。赤いリボン。女子の制服に身を包んだ天上奈美であった。
ちなみに、学年ごとにリボンの色は違う。一年は赤で、二年は黒、三年は黄色だったような気がする。
「どうしたのぉ、昼寝?」
「違うわ!次の授業は実技だから呼びにきたの」
「あっ、そうだったっけ」
俺は半身を起こす。
「はぁ、呼びに来て正解だったわ」
実技は必須科目なのだ。
受けないと、過激な体罰を受けることになる。
一回だけ、サボったことがあるのだが、その日は最悪であった。担任に鞭でビシバシ叩かれた。
その時だが、
「私の鞭を喰らって、寝ていたのはお前だけだよ」
と褒められた。
さすがに、痛いのは嫌なので、真面目に受けている科目である。
「あ~、行かないと」
「ほら、早くしなさい」
手を引っ張られ、歩き出す。
「今日は、マナの基礎でもある弾丸の生成だ。手本を見せる」
スーツに身を包んだ背筋の良い女性が手を掲げる。その先に、半透明の見事な球体が出来上がる。
彼女は、クラスの担任である赤月涼子先生。まだ、25才らしい。若くて、綺麗なため、男子に人気らしい(美奈談)。
「そして、打つ」
球体が真っ直ぐに飛んでいき、途中で霧散する。
「ペアになって、球体をぶつけあえ、それが今日の授業だ」
ぴーっと笛を吹き、授業の開始である。
俺の相手は美奈である。一定の距離を離れる。
「行くわよ」
彼女が両手を掲げ、集中する。手の先に歪な球体が出来上がり、
「はっ」
こちらに飛んでくる。
さすがに喰らうわけにもいかないので、俺も片手で球体を作り出す。
まるで、俺の感情をあらわしているように、球体ではなく、ぐにょぐにょした平面が展開された。
それを放ち、ぶつける。
がぎっ
と金属と金属がぶつかった音が聞こえ、弾丸は消える。
「・・・何で、互角なの?」
彼女は不思議がっていた。
「ほう、面白いな」
先生が俺たちを眺め、呟いた。
「天上、私と交代しろ」
そう言って、俺の前に立つ。
「えっ、先生がやるんですか?」
美奈は驚いていた。
「ああ、やる気のない生徒を正してやろうと思ってな」
さきほどの弾丸が気に食わなかったらしい。
「行くぞ、桜坂!」
手を掲げ、瞬時に出来上がる。そして、発射。
美奈と違い、弾丸の速度が速い。
俺も急いで、先ほどのへにょへにょを作り、ぶつける。
だが、出来が悪いので貫通してきた。
「あぁ」
俺はとっさに伏せ(尻餅)、かわす。
頭上をグォッという風が通り、地面に穴が開く。
「ふむ、反応は良いようだな」
何かを納得したように先生は去っていった。
「だ、大丈夫?」
心配して駆け寄ってくる美奈。
「駄目かも、眠すぎる」
「この、馬鹿!」
殴られました。
その後、数回繰り返し、終了。
「これで、実技は終了だ。今日の感覚を覚えておけ!近々、テストするからな」
俺たちのペア以外は皆ちゃんとした物が出来ていたので、テストは嫌がっていなかった。
「はぁ」
隣でため息が聞こえる。
「どうしたの?」
「テストよ、テスト。私たち以外、ちゃんと作れてたじゃない。これじゃあ、補修確定だわ」
テストの成績が悪いと、担任の先生と密着授業となる。
「平気じゃない?」
「あんたは、気楽そうね」
淀んだ空気を垂れ流す美奈であった。
いつもどおり、屋上に向かい、昼食を食べる。
すると、今朝の人物が現われた。
「こんにちわ」
「えっと、こんにちわ」
ユークである。俺が手に持っているチョココロネを興味深そうに眺めている。
「えっと、食べる?」
こくんと頷いたので、手渡す。
「もぐ、ふぁ」
顔が綻ぶ。どうやら、美味しかったようだ。
俺はアンパンを手にする。
購買もタダである。そのため、商品がなくなるのが早い。
チョココロネはレア品で、アンパンは残り物である。
たまたま、残っていたのだ。
「ん、飲み物」
「はぃはぃ」
懐から、水筒を取り出し、渡す。
ごくごくごくとラッパ飲み。
「ん、空っぽ」
水筒を返された。
「美味しかった?」
「ん、何の飲み物かしらないけど」
「これは、ダージリンていう紅茶。秋摘みの奴だから、香は弱いけど、味がしっかりしてるんだよぉ」
「そうなの」
あまり、興味はなさそうである。まぁ、いいけど。
「ねぇ、さっきの魔法は面白かった」
「見てたの?」
「うん、へにょへにょしたの初めて見た」
「あはは、そうだよねぇ。俺にしか作れないし」
先生たちにも作れないと褒められた。
「あれ?もしかして、魔法使えるの?」
「うん。ちょっとだけ」
「へぇ」
だから、ここにいるのかもしれない。見学かな。
「まぁ、いいや。寝よ」
俺は横になる。
「おやすみ」
声をかけられたので、
「うん、おやすみ」
返した。段々と、まぶたが重くなり、眠りについた。
「お嬢様、ここに居られましたか」
しゅたっと、空から降りてくるスーツ姿の男性。がっちりとした体に、サングラスをしている。
「うん、暇だから」
「そうですか。ん?この男は?」
「知り合い」
手にマナを集めたので、即座に答えた。
「そうですか、失礼しました」
マナが霧散する。
「それより、旦那様がお呼びです。行きましょう」
「ん」
彼を眺める。心地よさそうに寝ていた。
それから、男の手を取る。
「少し、荒っぽいですがご了承ください」
「ん、平気」
体を抱えられ、空中に浮く。
そして、彼方に飛行した。
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