1話 レイチェルの覚醒
先日10歳の過ぎたばかりの、田舎の伯爵令嬢のレイチェルは、家庭菜園で実ったトマトやレタスを眺めて飽きることがない。害虫の青虫やアブラムシを丁寧に駆除して、水やりをしていた。
そのとき、ふわりと半透明の水色に輝く蝶のようなものがひらひらと飛んでいることに、レイチェルは気づいた。
「あなたはだあれ?」
レイチェルの呼びかけに、その蝶のようなものは答えた。
「きみは、僕のことが見えるの?」
「だって、そんなにキラキラ光っているじゃない?見えるに決まってるよ」
「これはびっくりした。ぼくたち草花の精霊は、普通の人間には見えないんだよ。きっと、きみが草花のことをいつも大切にしているからなんだね。」
「ふうん?でも、なんかうれしい。あたしたち、友達になろうよ?」
「ぼくも嬉しいよ。僕の名前はミント。君の名前は?」
「あたしはレイチェル。ここのお屋敷の娘なの。」
「それじゃレイチェル、きみの左手のてのひらを、まっすぐ前にさしだしてごらん」
レイチェルは、言われたとおりにした。すると、前宇宙が自分の中に入り込んでいくかのような、激しい変化する感覚に襲われた。
「ミント、あたし、どうにかなっちゃう」
「大丈夫、すぐ終わるから安心して」
ミントの言うとおり、激しい感覚はすぐに消えた。ただ、全身に、力がみなぎっている感覚が残っている。ミントは言った。
「何か心で念じてごらん、たとえば、トマトよ実れ、とか」
レイチェルは、言われたとおりにしてみた。
(この、眼の前にあるトマトよ実れ・・・)
念じると、さっきまで小さかった眼の前のトマトが、あっというまに実ってしまった。