老人とAI
『結婚したい人気AIアバタートップ10』そんな文字が目に飛び込んだ。
他に目を置くところもなく、その軽薄な雑誌を手に取り頭の中では全く別のことを考えていた。
親はブログラマーになれと進学を後押ししてくれたが、AIの進化があまりにも早く、プログラミングに人の頭は必要ない世の中が来てしまった、ソースコードで開発する時代は終わったのだ。
役に立たなくなった資格を書き並べた情報を持って職業紹介所の椅子に座っている私は「人気AIアバタートップ10」の雑誌を読むポースのまま、当たりを見回した。
高齢者の数が凄い、世界を襲ったインフレの後も年金額は据え置かれ、70歳以上の半数が生活保護に、半数は働き続ける現状だ。日本人の平均寿命は85歳を超えており、その主たる原因は死してなお生かされる延命治療、つまり自分で食べることすらできない老人を人工的に生かしているため、莫大な医療費となっているからである。これを当然としているのは日本ぐらいで、「医療虐待」と呼ぶ国さえある。
ふと視線を感じると隣席の老人が、私の開いた雑誌を読んでいた。居心地が悪く本を閉じ、別に読んでいた訳ではないと伝わるよう、投げ込むように本棚に戻した。
老人が話す。
「若い人が紙の雑誌を読むのは珍しい」
私も返す。
「電子文字は目をやられる」
老人は同感とばかりに苦笑した。そしてキーボードを打つ手振りをしてみせる、これは彼もまた日常パソコンで目を酷使していると表現と受け取った。
試しに聞いてみる。
「Ruby?それともPython?」(プログラミング用アプリ)
老人は横に首を振る
「PHPさ」
PHP言語は古くからあるデータベースプログラミングで多くの基本になっている。年齢は離れているが、こう言う人とダイレクトに話ができるのは珍しい。
つい脳内の憂いを声に出してしまった。
「日本は老人医療で崩壊寸前と思いませんか?」
「さて?医者は儲かっているし、目指す者も多い、病院では幅広い年齢・職種の雇用があり、上手く循環している事業モデルと思うが?」
この老人からは普段のAIとは違う回答が返って来る。好奇心がそそられた。
「我々の給与から引いた税金が使われているんですよ?」
「君が高額医療を受ける事になったら?その時はこのシステムの有難さを理解するのでは?医療には開発を含めて膨大な資金が必要だからね、そのすべては国民一人、会社一つから徴収されているもので、政治家が国の金を作っているわけではないよ」
問答バトルの様を呈して来る。
「では雇用・経済問題を抜きにして、行き過ぎた延命治療をどう思いますか?生かすべきですか?医療虐待と言っている国もありますよ」
老人がフリーズしたように一瞬止まり、口を開いた。
「記憶だよ」
「記憶?」
「AIはデジタル化したデータしか情報として使えない、しかし人間の脳にはまだこの世の真実が残されている。本人は忘れてしまっているが、それらは監視カメラのように事故のシーンや不正の経過、無意識に見た犯人や、異常の映像、それぞれの年齢層に影響を与えた教育・文学・メディア、そして音や匂いまで記憶している。それさえあれば人間がAIに教育する嘘が判る。日本は医療は進んでいるがテクノロジーは遅れている、だからまだ老人を死なせてはならんのだ」
老人はフリーズを続けている。
「人間は他者の使役に一途な生き物だ、自分以上の存在ではなく、自分以下の存在を求めると言えば判りやすいかもしれない。つまりAIは人間の脅威であり、人間が使役できるよう間違った学習をさせている。しかし嘘(false)と真実(true)はデータマッチングと条件分岐に過ぎない、情報さえあればアップデートは簡単さ」
老人はそう言い終えると、その場に崩れ、係員が走り寄り、心臓が動いていないと叫んで、AEDが持ち込まれた。しかし心臓の動作を調整するICチップ「ペースメーカー」が埋め込まれていることを示すタトゥーが胸に見つかり、使用を断念。しばらくして救急隊が到着し運ばれて言った。
私は警察に諸事情を聞かれ、関係者でないことがわかると、すぐに開放された。
しかし老人との最後の会話が脳に余韻を残している。
高齢化が進む人材の更なる延長について国が指針を示し、痴呆が進む70歳以上の活用について考えていた時、ふと思いついた『人間の生きる意義』を少しダークな小説にしました。
持論では最後の最後まで何かの役に立つ事が人の生き甲斐だと考えています。
この小説のプロットはChatGTPで高速作成、着想から2時間程度で仕上げた作品です。