勇者パーティに入りたくないから、ネコのオネエさんのふりをした結果。
pixivにも掲載してます。
俺はアルタ。
今年20の新米とベテランの中間のaランク冒険者だ。
今、明日の勇者パーティの加入試験に備えて、早めに寝ようとしているところ。
ベッドに寝転がり、明日の面接をイメージする。
1次試験、2次試験などを乗り越えて、やっと10次試験の最終試験、面接にたどり着いた。
これが受かれば、加入確定。
そうすれば、仕送りしている学生の弟や妹にも楽な生活をさせることができる。
そう思って俺は寝た。
夢の中、俺はふかふかの白い布団の上で起きた。
「お兄ちゃん、起きたんだ。
面白い携帯小説を見つけて、urlを送っておいたから読んで」
弟がスマホを見せて、snsのアプリの様子を見せてくる。
「また、追放系?お前が進めるのにはハズレがないからいいけどさ。どんだけ、レパートリーがあるんだよ」
「ハズレがないってことは、当たりしかないってことだね。もっと褒めて、感謝してよね。」
嬉しそうな声が病室に響く。
「はいはい、寝てばっかの俺の代わりに、たくさん本や物語を読んで、
面白いのを勧めてくれてありがとう」
俺は弟が勧めてくる本や物語を本当におもしろいと思っていた。
「いま送った携帯小説、来年には映画化するんだって、その頃にはお兄ちゃん、退院して映画館に行けるはずだから一緒にいこう」
「うん」
俺はニット帽を被った頭で頷く。
弟は口だけでにっこりと笑う。
顔が口しか見えない。
何か光のようなものでぼかされている。
「今日の手術をすれば、あとはリハビリだけ。
頑張って映画見にいこうか」
俺もその弟に笑いかけていた。
そして、弟と話すのに疲れた俺は眠った。
夢の世界で眠くなるのと同時に、俺は起きた。
黄ばんだシーツと布団の宿屋のベッドで俺は跳ね起きた。
幸い、試験までにはまだまだ時間がある。
それよりも、さっきの夢の内容は、前世の記憶だ。
なんで、今見たんだ。
前世の記憶は、その持ち主がピンチやその直前に見ることが多い。
その記憶で切り抜けられたと言っている先輩方も多い。
逆に役に立たなければ、冒険者を引退。
冒険者の中でもその体験談はよく聞く。
この夢を見たってことはつまり、俺は今ピンチか、後ほど、ピンチが来るってことであってるか。
今の俺は宿屋にいるただの勇者パーティ加入候補の冒険者の一人だ。
明確なピンチが訪れる状況ではまずない。
だとすると、勇者パーティ加入試験が問題か。
そう思った時ふと俺は、前世の弟に勧められた携帯小説を思い出した。
確か勇者パーティ追放もので、追放されたあと成り上がって、勇者パーティが後で主人公に土下座するって内容だった。
しかし、勇者パーティを主人公が抜けた後の人的被害がまた凄まじかった。
そのせいで、勇者パーティの進行が遅くなりその分犠牲になった人もでた。
どんだけ、主人公に依存したんだよ。
そして、俺はふと気づく。
この世界がよくありふれた携帯小説の似た世界のうちの一つなら。
俺が今からなろうとしているポジションは追放前の主人公のポジションによく似ていることを。
今の勇者パーティは高位貴族様で構成されている。
一般市民との軋轢を回避、平等性を証明するために、今回冒険者から、一人採用することが決まった。
小説では、主人公はパーティの荷物持ちや案内役、雑用を受けながら、旅先の現地人と交流してそれで勇者パーティの好感度を上げたり、情報交換などを行なっていた。
しかし、マジックバックの出現で荷物持ちの必要がなくなり、現地人との交流は情報漏洩としてダメだと判断され、追放されてしまう。
追放後は、勇者パーティは現地人との揉め事も多くなった。
そのせいで、進行が遅れて、さらに勇者パーティの好感度が下がってしまった。
その話を思い出して思った。
そんなパーティに入りたくない。
追放後の主人公は最初すごく誤解されて大変な目に遭ってる。
ギルドも追放されるし、主人公は最終的に顔を変えるという選択を行う。
小説は小説、現実は現実とわかってる。
けれども、小説は現実のありあるかもしれない、似ているかもしれない事象を描いたものの一つ。
そうなると、危険な方には、行きたくない。
俺にはかわいい妹と弟がいる。
明日の試験、わざと落ちよう。
他にも有能な冒険者はいるわけだし、その冒険者に何かあったら、それとなくフォローはしよう。
有能な人材とは縁を持っておこう。
そう思い、俺は清廉な勇者パーティには入らないキャラを面接中は演じようと決めた。
昼間、太陽が真上に上がり、ギラギラとギルドの運動場を照らす。
目の前に真面目そうな男が立っている。
面接官の男は、甲冑を着て、大きな大剣を背負っている。
「私はカンダと言います。改めてあなたの名前と出身を教えてください」
「アタシはアルタ、
出身と本拠地ギルドは東の辺境パルバよ。」
俺改めてアタシは面接の間、オネエをやることにした。
カンダは少し引き攣った顔をした。
すぐに元の無表情に戻ったが。
下手に失礼な言葉を使って、落ちて仕舞えば問われないけれども、後で貴族経由の依頼をもらいづらくなるかもしれない。
だから、失礼ではないオネエ様方の口調を真似させていただく。
この世界では、オネエ様方は夜の世界の人々が多い、採用する人は清廉潔白なパーティに入れたくないだろう。
「これから、面接を行います。
その前に質問したいことはありますか」
睨みつけるようにアタシを見てきたわ。
「なんで、面接なのに屋外のギルドの運動場にいるのかしら。案内では動きやすい軽装できなさいと書かれていたけど」
「それは、内容が私に殺されずに面接をすることだからです。」
「ちょっと待って、アタシ、神殿契約ここでしてないから、死んだらパルバ送りよ」
「それでは、面接を始めます」
アタシの言葉を無視して、カンダが切り掛かってきた。
アタシは咄嗟に横に避ける。
さっきいた場所には大剣が刺さっている。
カンダがそれを地面から抜こうとしている間にアタシは距離を取る。
教会がある限り、寿命以外でこの世界に本当の死はない。
だから、みんな病気にでもなったら、お薬をもらうより、死んで教会に元気な状態に直してもらうのが当たり前。
だけども、アタシは偽物の死が怖かった。
多分今思えば、前世病気で苦しんで死んだこと、本当の死が原因だと思う。
だから、今の状況はとても怖い。死にたくない。
「今の一撃避けたのはすごいですね」
カンダが大剣を抜いてこちらに来る。
アタシは距離を大きく取る。
「一質問きます。
頑張ってあと九問です。」
カンダはあんな大剣を振ったのに息が切れた様子がない。
アタシは身構えるながら、意識をカンダに向ける。
「あなたが勇者パーティを志望した理由は?」
前世を思い出す前なら、かわいい弟や妹のためと答えた。
「あんたみたいな体のいい男がいっぱいいるから、
アタシ、ネコなの」
これが、思い出した後、必死に考えた答えだ。
質問を答え出した瞬間から、大剣を持って必死に稼いだ距離をカンダは一気に詰めてきた。
間一髪のところを後ろにバク転することで避ける。
「本当にネコのように身軽ですね」
カンダから距離をとる。
「どのような職業をしていますか?」
「シーフ(盗賊)よ」
本当は後援ヒーラー系だけども、勇者パーティに入れにくそうなシーフを名乗る。
後質問は8つ。
大剣を地面に置くと今度は甲冑を脱ぎ始めた。
どういうこと、この世界ではセット装備が実装されていて、甲冑は重さ軽減などの効果もあるのに。
「そうですか。私も実はシーフなんです。」
そう言って、短剣を取り出し、さっきよりも早く動き、襲いかかってきた。
その後、アタシは反撃する間もなく、必死に逃げ、ながら質問に答えた。
全ての質問を答えた頃には、夕日になっていた。
「以上で面接を終わらせていただきます。
結果は後日でギルドの掲示板に貼ります。」
少し、熱った顔のカンダが笑顔で言う。
「わかったわ。本日、貴重な時間ありがとうございましたね」
そう言って、アタシは重い体を引きずって面接会場を出た。
こんなにヘトヘトで体力なしで死恐怖症のアタシが勇者パーティに入れるわけがない。
後日アタシは、妹と弟のお土産代と帰りの旅費を稼ぐために、ギルドに行った。
そして、ギルドカードを受付員さんに見せる。
すると、受付員さんの顔が笑顔になった。
愛想のいい受付員さんだと思ったら、掲示板の前に連れて行かれる。
「合格者アルタ」そうデカデカと書かれた紙が貼られていた。
あまりことで呆けているアタシは受付員さんに別室に引っ張られて、言われた。
「おめでとうございます。
あなたは勇者パーティに、後援ヒーラーとして入ることが決まりました。」
「はぁ」
キャラ作りのために作った高めの声がアタシの耳に響く。
アタシは頭から血が引いていくのがわかった。
目の前が真っ暗になって、倒れた。
なんでヒーラーってバレてんの。
読んでくれてありがとうございます。