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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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51.人知及ばぬ地(1)

 ガシャーン!

 驚いて音のした方を見ると、氷の張った湖に三頭のドラゴンが飛び込んでいた。


「きゃあ! ネージュ、フラム、シエル!」


 慌てて立ち上がろうとした私を止め、エルがクスクスと笑う。


「落ち着け、大丈夫だ。祈りが終わると、ドラゴンたちの遊び時間だ。彼らは氷などものともしない。氷が張っていてもああやって割って、水遊びを始めるんだ」

「水……遊び?」


 私が呆気に取られていると、ドラゴンたちの元気な鳴き声が聞こえてきた。


「グルルル!」

「ガァオ!」

「グワアア!」


 バシャバシャと激しい水しぶきをあげながら、水の中に潜ったり飛び出したりしている。

 彼らは空を飛べるだけでなく、水にも潜れるの!?


「レティシア、絶対に近づくなよ。巻き込まれてびしょ濡れになってしまう」

「はい……。あの、ドラゴンたちって、水にも潜れるんですね」


 呆然としている私を見て、エルがまた笑う。

 だって、本当に知らなかった。ううん、私だけじゃない、クラウディアのほとんどの国民は知らないと思う。知っているのはたぶん、エルをはじめ、この場に来たことがある人だけだ。

 エルはドラゴンたちを眺めながら、口元に笑みを浮かべ話し始める。


「俺も、リバレイ領に来てから知ったことだ。それまでは、空を飛べることしか知らなかった。初めて水に潜る彼らを見た時は、今のレティシアのように呆けてしまったな」


 私はこっそりと開いていた口を閉じた。まさに呆けていた。はしたなくも、あんぐりと口を開けて。

 私も、水遊びをするドラゴンたちを見つめる。

 大きな彼らが動き回るものだから、張っていた氷もすでに粉々になって形をなくしている。通常の湖に戻ったといったも過言ではない。

 彼らが遊んでいる場所より遠いところは氷が張ったままだけれど、豆粒のようにしか見えない遠い場所は元々年中氷が張っているので、通常といっても差し支えはないだろう。


「あの遥か彼方に見える先は、人が立ち入ることを許されていない。そもそも、立ち入ろうにも人の身体が耐えられない。近づくことも難しいだろう」

「それほど寒いってことですか?」

「そうだな。あっという間に凍ってしまうだろう」


 エルがそう言った時、ネージュが突然水の中から飛び出し、そのまま空へ飛び立つ。


「ネージュ?」


 すると、フラムもシエルもそれに倣うように飛び出してきて、ネージュの後を追う。

 え? どうしたの? 皆、どこへ行くの?

 隣を見ると、エルも大きく目を見開いている。こんなことは初めてなのだろう。


「エル! ドラゴンたちが……っ」


 三頭は、さっきエルが話していた「遥か彼方」を目指していた。

 どういうこと? 彼らは人の立ち入ることのできない場所に行ってしまうの? 私たちの元へは、もう帰ってきてくれないの?

 その思った瞬間ドッと悲しみが押し寄せてきて、私は思わず嗚咽する。


「レティシア、落ち着け」

「だって……っ!」

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